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二章 発情トラブル

発情トラブル 12

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 昼食後は畑を回ってレザードに教えてもらった魔法陣をほどこしたり、反発してくる魔族を説得したりしているうちに日が落ちた。
「まだ体調は戻らないのか?」
 ヴィンセントが心配をして声をかけてくる。
「ああ。眠れば治ると思うのだが」
 夕方頃から熱っぽくなったので、今日は早めにベッドに入ることにした。隣にはヴィンセントもいる。毎晩のことなので慣れた。
 吐く息が熱い。
 こうしていると、高熱を出して寝込んだ記憶がよみがえる。心臓や身体の節々が痛くてつらかった。誰もいなくて、孤独で……。
「アーシェン」
 湿った額に大きな手がのせられてドキリとする。体温が一気に上昇したようにも感じた。
「ずいぶんと熱いな。冷やしたほうがいいか」
「大丈夫だ」
 なんだろう、この感覚。病気で高熱が出た時とは違う。
 心臓はバクバクしているし発汗はしているのだけど、高熱特有の痛みや苦しさがない。
 それに、これって……。
 この事実に、ぼくは一番、戸惑った。
 下半身のそこに、血液が集中してる!
 どうして、こんなに熱があるときに、そんなところが反応するの?
 以前のぼくは、勃起したことがほどんとなかった。
 おそらく、身体は自分の生命維持にいっぱいいっぱいで、新たな生命を生み出す余裕がなかったのだろう。
 この身体は健康だから、こんなことになるのだろうか。
 なんて、感心している場合じゃなかった。
 どんどん、そこが張り詰めてくる。
 なんなの、これ。なんか苦しい。
 触りたい。擦って、熱を吐き出したい。
 ぼくは寝返りを打って、ヴィンセントに背を向けた。
「ヴィンセント……、今日は、別の部屋で寝てくれないか」
 息も絶え絶えになりながらぼくは頼む。ヴィンセントがいたら、恥ずかしくて触れない。
「病人がいるのに、別の部屋に行けるか」
「病気じゃ、ない、から」
 なぜもっと早く、身体の変化に気づけなかったのだろう。そうしたら、別々の部屋で寝ることを、上手に提案できたはずなのに。
 瞬間移動をして一人になろうとしたけれど、意識を集中できずに魔法が発動しなかった。
 ダメ、もう我慢できない。
「お願い、ヴィンセント……」
 部屋から出て行って。
 もう、そう言葉を紡ぐこともできなかった。
 熱を持った半身にそっと手を伸ばす。
「んっ……」
 下衣越しに触れただけなのに快楽の痺れが走り、身体が跳ねた。
「アーシェン、発情しているのか?」
 後ろから声をかけられた。
 ヴィンセントに気づかれた!
 恥ずかしすぎて、ぼくは身を縮めた。泣きたい。
「龍神族には発情期があるのか」
 ぼくは首を横に振る。ぼくの知る限り、龍神族にそういうものはない。
「ならば、昼間に試薬をかぶったせいだろう。あれは媚薬とか催淫剤とか、そういう類のものだったのだろうな」
 言われてみれば、身体の変化の原因はそれしか思いつかない。あれから特に異常がなかったので、すっかり忘れていた。
 あの白衣メガネめ! 効果を知っていれば対処のしようもあったのに、わざと言わなかったな!
「苦しいのか?」
 ヴィンセントの冷静な声が近づいてくる。
 ぼくはコクコクと頷いた。
 だから、早く出て行って……。
「手伝ってやる」
「えっ」
 ヴィンセントに後ろから抱きしめられた。手がぼくの下腹部に伸びてくる。
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