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二章 発情トラブル

発情トラブル 5

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 すっかり本調子に戻ったレザードが身を乗り出した。
「あなたの血をください」
「えっ」
 ぼくもそう思ったけど、今声を出したのはエルネストだ。
「研究のためにさまざまな魔族の血を集めてきましたが、龍神族は希少すぎて、この僕でさえ手に入りません。あなたには断られるし、ピッピさんにももらってはいけないと、あなたに釘をさされましたから」
「当然だ」
 あんなに小さな身体から血を抜いて、干からびてしまったらどうする。
「ですから、あなたの血をください。いただけないなら、この話はなかったことに」
 なんと! いわゆる「四天王の中では最弱」なレザードが、魔王を脅迫してきた。したたかすぎる。
「……どれくらい必要なんだ」
 レザードの協力を得られないと前に進めないので、選択の余地はない。ぼくは血をあげることにした。
「大した量ではありません、この容器一杯ほどで」
 レザードが意気揚々とテーブルに置いたのは、大ジョッキくらいの大きさがある容器だった。
 ぜんぜん、大した量なんですけど。
「えぇっ、レザードずるいよ。俺だってアーシェンの血が欲しいってずっと言ってたのに、味見もさせてくれないんだもんケチ」
 エルネストの場合は、普通に身の危険を感じるからね。
「ねぇねぇアーシェン、俺にもちょうだい。協力するからさ。レザードの容器の半分の量でいいよ。アーシェンの血を全部飲むのは、勝った時って決めてるんだぁ」
 エルネストもここぞとばかりに、ぼくの両手を握って迫ってきた。おねだりするような愛らしい表情で、恐ろしいことを言う。
「この計画に必要な経費は支払うことを約束する。その陣頭はレザードがとってほしい。わたしの血は、成功報酬として渡そう。それは人との共存が現実的になったときだ」
「えぇ、失敗したら飲めないの?」
 エルネストは不満そうに眉をさげた。
「失敗しなければいい」
 ぼくがそう言うと、エルネストがにっこりと笑う。
「そうだね。じゃあ俺、張り切っちゃおうかな」
 その無邪気そうな笑顔が怖い。
 この計画はレザードを中心に進めたいと考えていた。なんとか予定通りに承諾してもらえてほっとする。
 ただし、こうして序盤から気まぐれなエルネストが加わるのは想定外だ。
 この結果は、どう転ぶのだろうか。
 エルネストは魔族のナンバー二の実力があるため、協力的な場面ではこれ以上なく心強いが、そうでないと魔王であるぼくでさえ手に負えないことがある。虫の居所が悪ければ容赦がないため、彼に脅えている魔族は多い。
 レザードが上手くエルネストをコントロールしてくれたら、魔族たちを掌握しやすくなるかもしれない。
 ……コントロールできればだけど。
 ぼくたち四人は、魔族の食糧自給と意識改革についてしばらく話し合った。

 ヴィンセントと一緒にぼくの部屋に戻ったころには、日が落ちかけていた。
 徹夜でダンジョンにもぐり、何度もハイレベルな魔法を使い、食事もとらずに長時間の打ち合わせ……。
 魔王の体力と気力をもってしても、さすがに疲れ果てていた。
 疲れすぎて食欲がわかなかったけど、ヴィンセントと二人で夕食をとり、今はソファでまったりとしていた。
 そろそろヴィンセントを送り届けないと……。
 瞬間移動を往復分使うだけの魔力が残っているだろうか。
 魔力も限界がきているのでかなり厳しい気がしたけれど、このままヴィンセントを帰さないわけにもいかない。
 こうして目を閉じていれば、少し魔力が回復する気がする。
「アーシェン、寝る前に風呂に入らねえの?」
 ソファが揺れる。ヴィンセントが立ち上がったようだ。
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