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二章 発情トラブル

発情トラブル 3

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 ぼくはヴィンセントと協力して、魔族と人とが共存する平和な世界を目指すと告げた。
「えぇ、なんであんな弱っちい生き物と仲良くしなきゃなんないの? やだよ」
 不満の声をあげたのはエルネストだ。そして、これが大多数の魔族の意見かもしれない。
「待てエルネスト。最後まで話を聞け」
「……はぁい」
 納得していない表情だったが、エルネストはぼくの言葉に返事をした。
「ヴィンセントから、魔族が人の村に侵入していると聞いた。それは事実か?」
 ぼくがレザードに尋ねると、彼は「そうですね」と首肯した。
「わたしは、人には手を出すなと言ったはずだが」
「そんなこと、無理に決まっているじゃないですか」
 レザードは薄く笑う。
「なぜだ」
「理由を挙げればきりがありませんが……、第一の原因は、魔族は自給自足をしていないからですね」
「……どういう意味だ?」
 ぼくはパチパチとまばたきをした。
「僕は商売をしていますが、レアケースです。酪農畜産などの一次産業をしている魔族もごく一部。言いつけを守って人に近づかず、野生の動物や植物を狩っている者もいますが、それも多くはないでしょう。だって」
 レザードは片側の口角だけ器用にあげた。
「すぐ近くに、人が作った食料がいくらでもあるのですから、奪ったほうが楽ですからね」
 なんということだ。根本的な問題じゃないか。
「食料だけの問題ではありません。魔族のなかには人を毛嫌いしている者もいますし、人間を誘惑したり騙したりするのが好きな種族もいます。もちろん、人間のほうから魔族の領域に入ってくることもありますよ。こちら側でしか得られない、珍しい動植物や鉱物がありますから」
 ぼくは頭を抱えた。ちっとも知らなかった。
「それは、議題にあがっていたか?」
「いいえ、話し合ったところで、どうせ守れませんし。あなただって争うなと言っておいて、それほど関心はなかったじゃないですか。ああ、幹部たちは部下に通達していましたよ。最低限のことはしています、念のため」
「レザード、そこまでわかっているなら、なぜわたしに報告しなかったのだ」
「そんなことをしても、僕にメリットはなさそうでしたから」
 レザードはひょいと肩をすくめた。
「ねえアーシェン、俺は人の血は吸ってないよ。俺よりアーシェンが強いうちは、言うこときくからね。褒めて褒めて」
 ぼくはよしよしとエルネストの頭をなでながら考える。
 食料、習慣、本能、倫理……。
 魔族に足りないもの。流されてしまうこと。
 実現可能なルールがないから、安易に人を襲うんだ。
「食料生産と教育」
 そう言ったぼくに、三人の視線が集まる。
「すぐに畑と牧場と学校を始める」
 ぼくが宣言すると、三者三様に声をあげて驚いた。
「アーシェン、頭おかしくなっちゃった? そんな人間みたいなことしてどうするの? 魔族は今までどおりでいいじゃん」
 真っ先に反対したのは、やはりエルネストだ。
 今までどおりだと、ぼくの知っている悲劇ルートになってしまうから却下だ。
「僕も賛成はできかねますね。魔族は集団生活を好みませんし、規律を守ることも得意ではないでしょう。ものを育てたり、教育を受けたりするのには適しません」
「そこを、レザードになんとかしてしてもらいたい。だから来たんだ」
「なぜ僕なのですか。ほかの者に頼んでください。僕は成し遂げなくてはいけない研究があって忙しいんです」
 レザードは面倒くさそうに溜息をついた。
 ぼくは正面から、「理由ならある」と真っすぐにレザードを見つめた。
「レザードが魔族と人、両方の血を継いでいるからだ」
 ぼくの言葉に、レザードは動きをとめた。
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