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二章 発情トラブル

発情トラブル 1

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「広っ、さすが魔王さまの部屋だな」
 ぼくのモノトーンの部屋に到着したヴィンセントは開口一番にそう言って、物珍しそうに部屋を歩き回っている。
「で、誰に話を聞きに行くんだっけ?」
「それは」
 ヴィンセントに説明するまえに、ノックもなくドアが開いた。
「あ、やっと帰ってきた。どこ行ってたんだよアーシェン。ぶっ倒れた後だから、ちょっと心配して……」
 咎めている時もどこかまったりとした口調のエルネストが部屋に入ってきた。四天王のトップで、ぼくの執事だ。彼はヴィンセントに気づいて言葉をとめた。
 エルネストは紫色の髪で、一部に目の色と同じ赤いメッシュが入っている。端正な顔立ちで、顔のパーツの一つ一つが大きいため、口調と相まって柔和で愛嬌があるように見える。
 見えるだけなのだけど。
 ひょろりとした長身で、いつも執事服を着崩して身につけている。
「なにコイツ。人間じゃね?」
 声がワントーン下がった。
「そう。わたしの協力者だ。手出しするなよ」
 魔族で一番の要注意人物に、真っ先に見つかってしまった。
「協力者ってなあに? なにかするつもり?」
 エルネストは笑みを深めた。微笑んでいても、常に目の奥は笑っていない。
 ああ、エルネストに興味を持たれてしまった。基盤が固まるまでは、彼に知られたくなかったのに。
 ぼくは頭を抱えたくなった。
 こうなったら仲間に引き入れるしかない。敵対勢力になってしまうと、心底面倒くさい。
 エルネストはぼくに次ぐ魔族でナンバー二の実力者でありながら、気分屋なのだ。なにをしでかすかわからないが、一応、ぼくとの約束は守ってくれる。今のところは。
「説明はあとだ。これからレザードのところに行く。歩きながらヴィンセントを紹介しよう」
「ん、わかった」
 エルネストは素直に返事をした。
 三人でぼくの部屋を出て、レザードの研究室に向かう。
 ぼくはヴィンセントについて、人間の騎士でいずれ国を牽引する実力者だ、とエルネストに説明した。勇者の血筋だとか、唯一ぼくを倒せる存在だという情報は省く。そんなことをエルネストが知ったら、絶対に大変なことになる。
「実力者ねえ。弱っちく見えるけど。しょせん、人間なんてそんなものだよね。俺、強いヤツにしか興味なぁい」
 ぼくの肩に腕をまわして、寄りかかるようにして歩きながら、エルネストは投げやりに言った。
 いつものことだけど、非常に重い。
 エルネストは高身長ゆえに手足が長いので、こうされるとクモにでも絡まれている気分になる。何度「やめろ」と言ってもきいてくれない。
「弱っちい」と言われたヴィンセントは、ぼくの隣でこめかみに青筋を浮かべていた。
 ごめんねヴィンセント、どうかそのまま堪えてください。
「それで、そちらさんは?」
 ヴィンセントに促されて、ぼくは簡単にエルネストの説明をした。魔族のナンバー二であることや、ぼくの執事であることだ。
 執事といっても世話をされるわけではなく、単に付きまとわれているだけだった。彼が気に入って、「執事ごっこ」をしているだけだ。
「俺はぁ、世界で一番強いと思ってたのね。それなのにアーシェンに負けちゃったから、嬉しくてさ。早くアーシェンに勝って、この身体の血を一滴も残さず飲み干したいんだぁ。だから一緒にいるの」
 エルネストにペロリと首筋を舐められた。
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