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一章 信頼できるパートナー

信頼できるパートナー 11

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「そういえば、まったく魔族に遭遇しないけど。森を通らずに済んだからか?」
「それもあるが、わたしがいるからだろう」
 魔族は魔力に敏感だ。格上の者には容易に近づかないものなのだ。
 いくつかのフロアを経由して、最深部に到着した。
 今までの武骨な岩肌とは打って変わり、広いフロアには溶けない氷のような透明なクリスタルが群生して輝いていた。
 奥には祭壇があり、中央の台座には大剣が刺さっているシルエットが浮かんでいた。神々しい景色に目を奪われる。
「あれが聖剣カレトヴルッフ」
「そうだ」
 ヴィンセントの独り言のような言葉に、ぼくは相槌を打った。
 このフロアには何時間も滞在したので、自然と荘厳なBGMが脳内で再生された。
 そう、あの曲をどれだけ聞いただろう。
 ――床のトラップのせいで!
 罠のある光る床がわかりづらくて、落ちて何度やりなおしたか知れない。疲れていると目がかすむというのに、まったく病人に優しくない部屋だった。
「光ってる床がやたらとあるな。踏んだら床が崩れるやつだよな」
 ヴィンセントも気づいたようだ。
「そうだ」
 ぼくは頷いてから、ヴィンセントを流し見た。
「踏み抜くのが怖いなら、わたしが抱えて祭壇まで連れて行ってやろうか?」
「いらねえよ」
 勇者に断られてしまった。
 強がっちゃって、いいのかな。結構トラップはエグかった記憶があるんだけど。
 ヴィンセントが慎重に足を進めるのを、ぼくは黙って近くで見ていた。
 しなやかな身のこなしで、サクサクと罠を回避していく。
 やっぱり、身体能力が高いなあ。安心して見ていられる。
 かなり祭壇に近づいて、ヴィンセントが壁際に来た時だった。
「……っ!」
 トラップが発動して床が崩れた。黒い闇が足元に広がっていく。
 ヴィンセントが闇に吸い込まれる。
「ヴィンセント!」
 ぼくはとっさにヴィンセントにしがみついた。両腕にヴィンセントの重みと温かさを感じる。
 間に合った……!
 ぼくはホッとして、無意識に止めていた息をはき出した。
 目の前で人を失うかもしれない恐怖ったらなかった。
 安堵すると、途端にヴィンセントの重みがつらくなったけど、表情には出さずにぼくはせせら笑った。
「愚か者め、聖剣を目前にして気を抜いたか」
 顔をあげると、ヴィンセントはニヤリと口角を上げていた。
 えっ、なんで助けられたくせに笑ってるんだ。
 それからヴィンセントの手が剣のグリップにかかっているのが目に入り、ぼくはヴィンセントの意図を察してムッとした。
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