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13日の金曜日
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「瑞希は旅行行くの?」
そう訊かれて、閉店後の薄暗い店内に佇む暁生を見た。
「あー……うん、就活とかあるけど、せっかくだし行こうかなって……」
店が入っているビルが、設備工事のために一週間立ち入り禁止になるらしい。当然店も休業となるため、せっかくだからみんなで避暑地に行かないか、とオーナーから提案があった。
車はオーナーが出すし、宿泊先はオーナーの知り合いが管理している物件のプレオープンを利用させてもらえるので無料なのだという。
来てくれて、学校やお店で宣伝してくれたらいいよ、ということだそうだ。
タダで旅行できるなら、とバイト仲間で盛り上がる中、オーナーが気まずそうに口を開いた。
「行き先を調べたらわかると思うから事前に言っておくけど、そこってちょっと曰く付きなんだよね」
水晶のような美しい湖に面したそのキャンプ場は、十年ほど前に殺人事件があった場所らしい。
同時期に湖で水難事故が起こったこともあってキャンプ場は閉鎖され、今まで廃墟のような状態だったという。
「工事中の写真とか、イメージパースとか見せてもらったけどすごく綺麗だし、みんなが泊まるのは新築のバンガローだから、昔のことは気にならないと思うけど……」
殺人事件の現場と聞いて、みんなはエーッと声をあげたが、そこには恐怖や嫌悪感というよりも、お化け屋敷を楽しむようなニュアンスが含まれていた。
その場ですぐに参加を宣言する者も何人かいたが、俺は返事を保留した。
他のメンバーのようにスケジュール調整のために返事できなかったわけじゃない。興奮しすぎて上手く話せる自信がなかったからだ。
だって、そんな曰く付きの湖なんて、まさしく『あの場所』じゃないか。
上の空でいるうちに皆はバックヤードに引き上げてしまい、俺と暁生だけが残った。
「瑞希が行くなら俺も行こうかな」
少し離れた場所に座っている俺へ、暁生がゆっくりと近づいてくる。
「部屋割り、瑞希と俺と同じ部屋にしてもらってもいい?」
暁生が椅子の背に片手を突いて、覆い被さるように俺を見下ろす。
「え……? ああ、うん……いいよ」
ぼんやりと返事をする俺へ、暁生は困ったように笑った。
「それ、意味わかってる?」
泊まる予定のバンガローは、通常は四人以上での利用だが、今回は設備に問題がないかの確認もあるので、なるべくばらけて泊まって欲しいと言われているとのことだった。
暁生と二人きりで泊まるということはつまり、そういう意味なのだろう。
客とのトラブルがあった日から、暁生は二人きりになるとキスやハグをするようになった。
拒否するのも気まずいのと、それ以上を求められることがないせいで、(あと、普通にキスが上手いので)されるままになっていたが、もしかして、暁生は俺と付き合っているつもりなのだろうか……
いや、普通は付き合っていない相手とそんなことはしないし、暁生は俺のことを好きだと言ったのだから(これもはっきりと告白されたわけじゃないが)、俺がちゃんと暁生に意思表示しないといけないのだろうけど、男を恋愛の対象として考えたことのない俺としては、暁生に対する自分の気持ちがよくわからなかった。
最近では、曖昧な状態のまま暁生に接する後ろめたさで、ますます話せなくなるという悪循環だったから、久しぶりに暁生の顔をまともに見て、改めてこいつは本当にかっこいいんだなと、しみじみ思った。
じっとりと視姦するような目で見つめられて、旅行のことでわくわくしているのか、暁生のせいでドキドキしているのかわからなくなる。
暁生のことは嫌いじゃない。
キスや、性的な意味での触れ合いに嫌悪感がないということは多分、友達以上の意味で好きなんだと思う。
ただ、その感情を受け止めるには、俺自身に問題があった。
「意味……わかってるよ」
暁生に見つめられると俺のはっきりしない気持ちが見透かされそうで、目を逸らしながら返事をした。
そう訊かれて、閉店後の薄暗い店内に佇む暁生を見た。
「あー……うん、就活とかあるけど、せっかくだし行こうかなって……」
店が入っているビルが、設備工事のために一週間立ち入り禁止になるらしい。当然店も休業となるため、せっかくだからみんなで避暑地に行かないか、とオーナーから提案があった。
車はオーナーが出すし、宿泊先はオーナーの知り合いが管理している物件のプレオープンを利用させてもらえるので無料なのだという。
来てくれて、学校やお店で宣伝してくれたらいいよ、ということだそうだ。
タダで旅行できるなら、とバイト仲間で盛り上がる中、オーナーが気まずそうに口を開いた。
「行き先を調べたらわかると思うから事前に言っておくけど、そこってちょっと曰く付きなんだよね」
水晶のような美しい湖に面したそのキャンプ場は、十年ほど前に殺人事件があった場所らしい。
同時期に湖で水難事故が起こったこともあってキャンプ場は閉鎖され、今まで廃墟のような状態だったという。
「工事中の写真とか、イメージパースとか見せてもらったけどすごく綺麗だし、みんなが泊まるのは新築のバンガローだから、昔のことは気にならないと思うけど……」
殺人事件の現場と聞いて、みんなはエーッと声をあげたが、そこには恐怖や嫌悪感というよりも、お化け屋敷を楽しむようなニュアンスが含まれていた。
その場ですぐに参加を宣言する者も何人かいたが、俺は返事を保留した。
他のメンバーのようにスケジュール調整のために返事できなかったわけじゃない。興奮しすぎて上手く話せる自信がなかったからだ。
だって、そんな曰く付きの湖なんて、まさしく『あの場所』じゃないか。
上の空でいるうちに皆はバックヤードに引き上げてしまい、俺と暁生だけが残った。
「瑞希が行くなら俺も行こうかな」
少し離れた場所に座っている俺へ、暁生がゆっくりと近づいてくる。
「部屋割り、瑞希と俺と同じ部屋にしてもらってもいい?」
暁生が椅子の背に片手を突いて、覆い被さるように俺を見下ろす。
「え……? ああ、うん……いいよ」
ぼんやりと返事をする俺へ、暁生は困ったように笑った。
「それ、意味わかってる?」
泊まる予定のバンガローは、通常は四人以上での利用だが、今回は設備に問題がないかの確認もあるので、なるべくばらけて泊まって欲しいと言われているとのことだった。
暁生と二人きりで泊まるということはつまり、そういう意味なのだろう。
客とのトラブルがあった日から、暁生は二人きりになるとキスやハグをするようになった。
拒否するのも気まずいのと、それ以上を求められることがないせいで、(あと、普通にキスが上手いので)されるままになっていたが、もしかして、暁生は俺と付き合っているつもりなのだろうか……
いや、普通は付き合っていない相手とそんなことはしないし、暁生は俺のことを好きだと言ったのだから(これもはっきりと告白されたわけじゃないが)、俺がちゃんと暁生に意思表示しないといけないのだろうけど、男を恋愛の対象として考えたことのない俺としては、暁生に対する自分の気持ちがよくわからなかった。
最近では、曖昧な状態のまま暁生に接する後ろめたさで、ますます話せなくなるという悪循環だったから、久しぶりに暁生の顔をまともに見て、改めてこいつは本当にかっこいいんだなと、しみじみ思った。
じっとりと視姦するような目で見つめられて、旅行のことでわくわくしているのか、暁生のせいでドキドキしているのかわからなくなる。
暁生のことは嫌いじゃない。
キスや、性的な意味での触れ合いに嫌悪感がないということは多分、友達以上の意味で好きなんだと思う。
ただ、その感情を受け止めるには、俺自身に問題があった。
「意味……わかってるよ」
暁生に見つめられると俺のはっきりしない気持ちが見透かされそうで、目を逸らしながら返事をした。
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