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看病される男
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早朝、通知音で目覚めた香月は、寝ぼけ眼でスマホを見た。
『熱出た(顔文字)』
というメッセージに『お大事に』と返した直後、『38.4』と表示された電子体温計の画像が送られてくる。
「え……うざ……」
スマホを放って目を閉じたタイミングで、再び通知音が鳴る。片目だけ開けて見ると、今度は地図が共有されていた。
香月は枕を抱き寄せると、既読のまま無視して布団に潜り込んだ。
昼過ぎ、玄関の扉を開けた池上は、気まずそうに引き攣った笑顔を浮かべていた。
「……元気そうじゃん」
「なんか、寝たら治っちゃって」
よかったね、と帰ろうとする服の裾を掴んで、池上が慌てて引き留める。
「せっかく来てくれたんだから、お茶くらい飲んで行きなよ」
「えぇ……感染ったら嫌だし」
香月は話すのも嫌だというように、顔を顰めながらマスクの口元を押さえた。その腕を掴んで、池上は部屋の中に入る。
「香月くん、紅茶派だよね? うち紅茶ないんだけど」
「なんでもいい……っていうか、別に何も要らないよ」
1Kの室内はベッドとパソコンデスク、ソファでほぼ埋め尽くされている。
「狭いと思ってんだろ」
池上は床に腰を下ろすと、ローテーブルを挟んで向かいのソファに座る香月を見た。
「いや、意外とちゃんとしてるんだなと思って」
シンプルなインテリアの室内は整理整頓されており、狭さを感じない。
「女受けしそう」
香月の言葉に、池上はにやにや笑うだけで何も言わなかった。
「で、なんだったの? 性病?」
「ただの風邪だよ!」
池上は拗ねたように唇を尖らせる。熱は下がったようだが、病み上がり特有のやつれた感じは残っていた。
「……これ」
香月からレジ袋を受け取った池上は、重っ……と中を覗いた。
「スポドリ多すぎん?」
「熱出たっていうから」
「いや、こんなに飲めねえわ」
大量のペットボトルを見て笑う池上に、今度は香月がムッとふてくされた。
「だいたい、池上くんなら看病してくれる女の子くらいいるでしょ」
「平日の昼間に来てくれる女の子なんて、そういないよ」
「俺だって暇じゃないからね」
池上はテーブルに頬杖をついて、香月を見上げた。
「でも来てくれたじゃん」
得意げに笑う池上を、病人は寝てろと香月がベッドへ追いやる。
「死んでたら後味悪いから」
「すぐそういうこと言う……」
池上は大人しくベッドに横になると、そばに立つ香月を見上げた。
「来てくれてありがとう」
ストレートなお礼の言葉に、なんとなく居心地が悪くなってしまう。
香月がじゃあ、と帰ろうとすると、池上はエッと声を上げた。咄嗟に手を掴まれて、そのままベッドに引き入れられる。
「具合は?」
「もう治った」
狭いベッドに向き合って横になると、病気のせいなのか、興奮のせいなのか、熱っぽい目で見つめられて、香月は池上の汗ばんだ肌に手のひらを這わせた。
「会社サボってこんなことしてていいの」
香月の言葉に、池上が気怠げに笑う。下半身に触れると、そこは緩やかに反応していた。
布団に潜り込んでスウェットパンツを下着ごと下げると、蒸れた空気がムワッと広がる。香月は湿って肌に貼りついた陰茎を手に取ると、マスクをずらして口に含んだ。
「ちょっと待って! 俺、汗かいてて……!」
池上は慌てて腰を引くが、すぐに快感に負けて下半身を曝け出した。
香月は汗ばんだ匂いを吸い込むように大きく息をすると、陰茎に舌を這わせた。カリ首をなぞり、尿道口に舌先を差し入れると、次から次へとあふれ出る唾液が性器を伝って池上の陰毛を濡らした。
「あ……♡やば……♡♡すぐイキそう……♡♡」
香月が強く吸いながら布団をめくると、池上の潤んだ目がこちらを見ていた。口の中で陰茎がぴくぴくと震え、陰嚢がせり上がる。
「香月くん、もう……♡」
太腿に置かれた香月の手を池上がぎゅっと握った瞬間、ドアホンが鳴り響いた。
「……鳴ってるけど」
「荷物なら宅配ボックスに入れてくれるから」
池上はそう言って、口を離してしまった香月の唇へ、ねだるように陰茎を擦り付ける。
香月が再び咥えた瞬間、今度は電話の着信音が鳴った。池上はしばらく無視していたが、鳴り止まないコール音に負けて、不機嫌そうに電話に出た。
『池上さん? 寝てました? 池上さんちの近くに来る用事があったんで、今家の前にいるんですけど』
スピーカーにしなくても、話し相手の声は香月まで聞こえてきた。
『何回かメッセージ送ったんですけど、返信なくて……具合どうですか? 差し入れと、あと、ちょっと確認したいことがあるんですけど、今大丈夫ですか?』
漏れ伝わってくる声を聞きながら、香月は再び池上の陰茎を喉の奥まで咥えた。
池上は手で口を押さえると、焦った顔で香月を見る。
「あ……♡だ……いじょぶ……今、開けるか、ら……♡」
頭を上下に動かして唇で扱き、唾液と先走りで濡れたアナルをくるくると指先で弄る。
池上は腰を浮かして仰け反ると、香月の肩を思いっきり蹴り飛ばした。
転げ落ちるようにベッドから出て、どたどたと玄関に向かう。
「あ、まだ顔赤いっすね。熱あります?」
「いや! もう平気!」
キッチンと居室の仕切りドアは磨りガラスになっていて、香月からもぼんやりと池上の姿が見える。
会社の後輩らしき客は、いくつか仕事の質問をすると、お大事に、と帰っていった。
池上は部屋に戻ってくると、差し入れの袋をテーブルに置いた。
半透明のレジ袋からは、経口補水液や冷却シート、レトルトのお粥やカットフルーツが透けて見えた。香月の差し入れよりセンスがある。
池上はじとっとした目で香月を見ると、
「ちょっと急ぎの仕事するから」
とベッドには戻らず、パソコンデスクに向かった。
「香月くん、そろそろ帰りなよ」
香月はベッドに寝転んだまま、池上を振り返った。
「……これ最後まで読んだら」
「それ、まだ十巻以上あるじゃん」
池上はベッドの上に散乱した漫画本を片付け始める。
「続き読みたいなら持って帰っていいよ」
「荷物になるから要らない」
外はもうすっかり暗くなっている。無駄に一日を過ごしてしまった。
香月はふと、床に置かれたままのレジ袋に目をやった。
「……ちゃんとお見舞いに来てくれる人いるじゃん」
池上はキョトンとした表情で香月を見た。
「あれは仕事のついでだよ」
香月はのっそり起き上がると、自分が買ってきたスポーツドリンクのペットボトルを掴んだ。
「ちゃんと飲んでよ」
思わず拗ねたような声になってしまった。
池上は、差し出されたペットボトルを戸惑うよう受け取る。
「まあ飲むけど、でももう熱ないし……」
池上はペットボトルをしばらく見つめると、あっと呟いた。
「やったことないの?」
「M性感でやろうとしたけど、無理だった」
スポーツドリンクをたらふく飲んだ池上が、お腹たぷたぷ、と腹をさする。その脚の間に座る香月はローションで濡れた手を、まだ柔らかく垂れ下がったままの陰茎へ伸ばした。
「漏れそうと思うと、上手く吹けなくて」
「まあ潮もおしっこだし、漏らすつもりでやらないと吹かないよ」
香月の言葉に、池上がエッと声を上げた。
「おしっこなの!? 自分の部屋で漏らすとかやだよ! 風呂でやろ!」
「やめようとは思わないんだ」
風呂場へ移動し、冷たい床に尻をついた全裸の池上をくちくちと手コキする。
「また風邪ひかない?」
「寒いけど……部屋でしょんべんするよりマシ」
池上は手を後ろについて、香月の動きに合わせて腰を揺らした。
「香月くんは、潮吹かせたことある?」
香月が頷くと、池上は、すげ~、とレアカードを見た小学生みたいな反応をした。
「俺が凄いんじゃなくて、ウケ側のコツとか体質とかだと思う」
香月はあまり興味がないのか、事務的に手を動かす。
池上はそれを雑な手コキだと思いつつ、的確に性感を刺激されて腹筋が震えた。
「イッてからも続けるから、キツくても我慢して」
池上は頷くと同時に、香月の手の中で射精した。昼間に寸止めされた精液は、腹に飛び散った後もとろとろと流れ出て、香月の手を汚す。
「あっ♡あっ♡待って♡ちょっ……手、止めて!♡」
射精後の敏感な亀頭を弄られて腰を捩るが、香月は手を離さない。
「も、漏れちゃう……♡」
迫り上がってくる尿意に似た感覚に、思わず香月に抱きついた。その瞬間、プシャっと音を立てて噴き出した潮は、池上の肌と香月の服を濡らした。
おそるおそる見上げると、困惑したように眉を顰める香月と目が合う。
「だ、だって、なんか怖くて……」
池上がおどおどと言い訳すると、香月は無言のまま濡れた服を脱いだ。
「……で、どうだった?」
香月に訊かれて、池上は気まずそうに口ごもった。
「気持ちいい……かなあ……?」
放尿に似た開放感はあるが、射精後もずっと扱かれる過程が辛い。これならわざわざしなくても……というのが正直な気持ちだった。
池上は目を伏せると、香月のマスクの上に唇を押し当てた。
「……俺だけイクの、淋しいじゃん」
ベッドに移動すると、ごく自然にゴムやローションが出てきた。
「ディルドとかあるの?」
「あるけど、あんまり……」
見せてよと香月が言うと、今度、と躱されてしまった。あまり深くは追求せず、ゆっくりと挿入する。
「体、平気?」
気遣うような声に、池上は頷いた。怠さは残っているが、それが妙にむらむらしてしまう。
池上の体調を心配しているのか、いつもよりも穏やかな腰の動きに焦ったさを感じながらも、中を掻き分けるように擦られる感覚に、声が漏れた。
池上の上に覆い被さっていた香月が、ふと顔を上げる。
「隣の人、帰ってきた?」
壁を隔てて、玄関のドアがバタンと音を立てる。微かに聞こえるくぐもった生活音に緊張したのか、池上は体をこわばらせた。
「ここ、結構音響くね」
香月が耳元で呟きながら、のしかかるようにして奥の襞に押し当てる。
「お……奥、やだ♡」
声を抑えて、力の入らない手で香月の胸を押し返すが、どうしても甘ったるい喘ぎが漏れてしまう。
「隣ってどんな人?」
「知らな……多分、同じ年くらいの女の人……」
隣人にメス喘ぎを聞かれるかもしれないと思うと、無意識に中が締まった。
「昼間、電話中にイタズラしたらガチギレされちゃったから、こういうの嫌いなのかと思ってたのに」
揶揄うような口調に香月のことを睨むが、にやにやと笑われてしまった。
香月はわざと音を立てようとしているみたいに、ぐぽぐぽと奥を突く。池上は声を抑えようと歯を食いしばるが、甘えるような喘ぎが漏れた。
「も……しつこい……♡」
「奥、いや?」
香月はそう言うと、今度は前立腺を押し潰すような動きをする。
「あっ♡やだやだ♡ちょっ、待っ……♡えっ!? 出っ、漏れ……!♡♡」
内腿が痙攣し、じょぽじょぼと潮が溢れ出た。
あぁ……と絶望するような声と同時に、ビクンッビクンッと震える陰茎から、どろっとザーメンが漏れて流れ出る。
池上は放心したように香月を見上げた。
「ちんちんバカになっちゃうよお……」
ぼろぼろと涙を溢しながら助けを求めるようにぎゅっとしがみついてくる池上の顔を、そばにあったタオルで拭いてやる。
「もう一回くらいいけそうだね」
「あ~~~~~~♡もうやだ~~~~~~♡♡」
池上は泣きながら、香月の言う通りもう一度潮を吹いた。
「香月くん、シーツ変えてよ」
「濡らしたの池上くんじゃん」
「俺、病人だから」
潮で濡れたシーツが冷たい。
香月も池上も、濡れていない場所に縮こまってうとうととしていた。さっさと片付けてさっぱりして寝たらいいと思うのに、体が動かない。
「てか、いい加減帰んなよ」
池上の嫌味を聞いているのかいないのか、香月は目を閉じたまま何も言わなかった。
「もうちょっとそっち寄って」
池上は香月の体をぐーっと蹴ると、狭……と呟きながら、香月の隣の乾いたスペースに横になる。
「……実家で飼ってた猫がさ、わざわざ布団でおしっこ漏らすんだよ」
唐突に始まった話に、池上は訝しむような表情で香月を見た。
「臭いし腹立つんだけど、悪いと思ってるのか、しょんぼりしてるのがかわいくてさ……だからまあ……池上くんもあんまり気にする必要ないと思うよ」
「え……なんの話……」
「潮吹きって癖になるらしいから、ペット用のトイレシート使うといいよ。あ、うちのベッドで漏らすのはやめてね」
香月はうとうとしながら言うだけ言ってしまうと、そのまま寝息を立て始めた。
「えっ、癖!?」
池上の疑問に応える人はおらず、戸惑う声は香月の耳に届くこともなく、暗闇に消えていった。
香月をベッドの下に落として、ベッドパッドとシーツを変えよう……と考えたところで池上も眠りに落ちてしまい、翌日に二人は揃って熱を出した。
香月が買ってきた大量のスポーツドリンクは全て消費した。
『熱出た(顔文字)』
というメッセージに『お大事に』と返した直後、『38.4』と表示された電子体温計の画像が送られてくる。
「え……うざ……」
スマホを放って目を閉じたタイミングで、再び通知音が鳴る。片目だけ開けて見ると、今度は地図が共有されていた。
香月は枕を抱き寄せると、既読のまま無視して布団に潜り込んだ。
昼過ぎ、玄関の扉を開けた池上は、気まずそうに引き攣った笑顔を浮かべていた。
「……元気そうじゃん」
「なんか、寝たら治っちゃって」
よかったね、と帰ろうとする服の裾を掴んで、池上が慌てて引き留める。
「せっかく来てくれたんだから、お茶くらい飲んで行きなよ」
「えぇ……感染ったら嫌だし」
香月は話すのも嫌だというように、顔を顰めながらマスクの口元を押さえた。その腕を掴んで、池上は部屋の中に入る。
「香月くん、紅茶派だよね? うち紅茶ないんだけど」
「なんでもいい……っていうか、別に何も要らないよ」
1Kの室内はベッドとパソコンデスク、ソファでほぼ埋め尽くされている。
「狭いと思ってんだろ」
池上は床に腰を下ろすと、ローテーブルを挟んで向かいのソファに座る香月を見た。
「いや、意外とちゃんとしてるんだなと思って」
シンプルなインテリアの室内は整理整頓されており、狭さを感じない。
「女受けしそう」
香月の言葉に、池上はにやにや笑うだけで何も言わなかった。
「で、なんだったの? 性病?」
「ただの風邪だよ!」
池上は拗ねたように唇を尖らせる。熱は下がったようだが、病み上がり特有のやつれた感じは残っていた。
「……これ」
香月からレジ袋を受け取った池上は、重っ……と中を覗いた。
「スポドリ多すぎん?」
「熱出たっていうから」
「いや、こんなに飲めねえわ」
大量のペットボトルを見て笑う池上に、今度は香月がムッとふてくされた。
「だいたい、池上くんなら看病してくれる女の子くらいいるでしょ」
「平日の昼間に来てくれる女の子なんて、そういないよ」
「俺だって暇じゃないからね」
池上はテーブルに頬杖をついて、香月を見上げた。
「でも来てくれたじゃん」
得意げに笑う池上を、病人は寝てろと香月がベッドへ追いやる。
「死んでたら後味悪いから」
「すぐそういうこと言う……」
池上は大人しくベッドに横になると、そばに立つ香月を見上げた。
「来てくれてありがとう」
ストレートなお礼の言葉に、なんとなく居心地が悪くなってしまう。
香月がじゃあ、と帰ろうとすると、池上はエッと声を上げた。咄嗟に手を掴まれて、そのままベッドに引き入れられる。
「具合は?」
「もう治った」
狭いベッドに向き合って横になると、病気のせいなのか、興奮のせいなのか、熱っぽい目で見つめられて、香月は池上の汗ばんだ肌に手のひらを這わせた。
「会社サボってこんなことしてていいの」
香月の言葉に、池上が気怠げに笑う。下半身に触れると、そこは緩やかに反応していた。
布団に潜り込んでスウェットパンツを下着ごと下げると、蒸れた空気がムワッと広がる。香月は湿って肌に貼りついた陰茎を手に取ると、マスクをずらして口に含んだ。
「ちょっと待って! 俺、汗かいてて……!」
池上は慌てて腰を引くが、すぐに快感に負けて下半身を曝け出した。
香月は汗ばんだ匂いを吸い込むように大きく息をすると、陰茎に舌を這わせた。カリ首をなぞり、尿道口に舌先を差し入れると、次から次へとあふれ出る唾液が性器を伝って池上の陰毛を濡らした。
「あ……♡やば……♡♡すぐイキそう……♡♡」
香月が強く吸いながら布団をめくると、池上の潤んだ目がこちらを見ていた。口の中で陰茎がぴくぴくと震え、陰嚢がせり上がる。
「香月くん、もう……♡」
太腿に置かれた香月の手を池上がぎゅっと握った瞬間、ドアホンが鳴り響いた。
「……鳴ってるけど」
「荷物なら宅配ボックスに入れてくれるから」
池上はそう言って、口を離してしまった香月の唇へ、ねだるように陰茎を擦り付ける。
香月が再び咥えた瞬間、今度は電話の着信音が鳴った。池上はしばらく無視していたが、鳴り止まないコール音に負けて、不機嫌そうに電話に出た。
『池上さん? 寝てました? 池上さんちの近くに来る用事があったんで、今家の前にいるんですけど』
スピーカーにしなくても、話し相手の声は香月まで聞こえてきた。
『何回かメッセージ送ったんですけど、返信なくて……具合どうですか? 差し入れと、あと、ちょっと確認したいことがあるんですけど、今大丈夫ですか?』
漏れ伝わってくる声を聞きながら、香月は再び池上の陰茎を喉の奥まで咥えた。
池上は手で口を押さえると、焦った顔で香月を見る。
「あ……♡だ……いじょぶ……今、開けるか、ら……♡」
頭を上下に動かして唇で扱き、唾液と先走りで濡れたアナルをくるくると指先で弄る。
池上は腰を浮かして仰け反ると、香月の肩を思いっきり蹴り飛ばした。
転げ落ちるようにベッドから出て、どたどたと玄関に向かう。
「あ、まだ顔赤いっすね。熱あります?」
「いや! もう平気!」
キッチンと居室の仕切りドアは磨りガラスになっていて、香月からもぼんやりと池上の姿が見える。
会社の後輩らしき客は、いくつか仕事の質問をすると、お大事に、と帰っていった。
池上は部屋に戻ってくると、差し入れの袋をテーブルに置いた。
半透明のレジ袋からは、経口補水液や冷却シート、レトルトのお粥やカットフルーツが透けて見えた。香月の差し入れよりセンスがある。
池上はじとっとした目で香月を見ると、
「ちょっと急ぎの仕事するから」
とベッドには戻らず、パソコンデスクに向かった。
「香月くん、そろそろ帰りなよ」
香月はベッドに寝転んだまま、池上を振り返った。
「……これ最後まで読んだら」
「それ、まだ十巻以上あるじゃん」
池上はベッドの上に散乱した漫画本を片付け始める。
「続き読みたいなら持って帰っていいよ」
「荷物になるから要らない」
外はもうすっかり暗くなっている。無駄に一日を過ごしてしまった。
香月はふと、床に置かれたままのレジ袋に目をやった。
「……ちゃんとお見舞いに来てくれる人いるじゃん」
池上はキョトンとした表情で香月を見た。
「あれは仕事のついでだよ」
香月はのっそり起き上がると、自分が買ってきたスポーツドリンクのペットボトルを掴んだ。
「ちゃんと飲んでよ」
思わず拗ねたような声になってしまった。
池上は、差し出されたペットボトルを戸惑うよう受け取る。
「まあ飲むけど、でももう熱ないし……」
池上はペットボトルをしばらく見つめると、あっと呟いた。
「やったことないの?」
「M性感でやろうとしたけど、無理だった」
スポーツドリンクをたらふく飲んだ池上が、お腹たぷたぷ、と腹をさする。その脚の間に座る香月はローションで濡れた手を、まだ柔らかく垂れ下がったままの陰茎へ伸ばした。
「漏れそうと思うと、上手く吹けなくて」
「まあ潮もおしっこだし、漏らすつもりでやらないと吹かないよ」
香月の言葉に、池上がエッと声を上げた。
「おしっこなの!? 自分の部屋で漏らすとかやだよ! 風呂でやろ!」
「やめようとは思わないんだ」
風呂場へ移動し、冷たい床に尻をついた全裸の池上をくちくちと手コキする。
「また風邪ひかない?」
「寒いけど……部屋でしょんべんするよりマシ」
池上は手を後ろについて、香月の動きに合わせて腰を揺らした。
「香月くんは、潮吹かせたことある?」
香月が頷くと、池上は、すげ~、とレアカードを見た小学生みたいな反応をした。
「俺が凄いんじゃなくて、ウケ側のコツとか体質とかだと思う」
香月はあまり興味がないのか、事務的に手を動かす。
池上はそれを雑な手コキだと思いつつ、的確に性感を刺激されて腹筋が震えた。
「イッてからも続けるから、キツくても我慢して」
池上は頷くと同時に、香月の手の中で射精した。昼間に寸止めされた精液は、腹に飛び散った後もとろとろと流れ出て、香月の手を汚す。
「あっ♡あっ♡待って♡ちょっ……手、止めて!♡」
射精後の敏感な亀頭を弄られて腰を捩るが、香月は手を離さない。
「も、漏れちゃう……♡」
迫り上がってくる尿意に似た感覚に、思わず香月に抱きついた。その瞬間、プシャっと音を立てて噴き出した潮は、池上の肌と香月の服を濡らした。
おそるおそる見上げると、困惑したように眉を顰める香月と目が合う。
「だ、だって、なんか怖くて……」
池上がおどおどと言い訳すると、香月は無言のまま濡れた服を脱いだ。
「……で、どうだった?」
香月に訊かれて、池上は気まずそうに口ごもった。
「気持ちいい……かなあ……?」
放尿に似た開放感はあるが、射精後もずっと扱かれる過程が辛い。これならわざわざしなくても……というのが正直な気持ちだった。
池上は目を伏せると、香月のマスクの上に唇を押し当てた。
「……俺だけイクの、淋しいじゃん」
ベッドに移動すると、ごく自然にゴムやローションが出てきた。
「ディルドとかあるの?」
「あるけど、あんまり……」
見せてよと香月が言うと、今度、と躱されてしまった。あまり深くは追求せず、ゆっくりと挿入する。
「体、平気?」
気遣うような声に、池上は頷いた。怠さは残っているが、それが妙にむらむらしてしまう。
池上の体調を心配しているのか、いつもよりも穏やかな腰の動きに焦ったさを感じながらも、中を掻き分けるように擦られる感覚に、声が漏れた。
池上の上に覆い被さっていた香月が、ふと顔を上げる。
「隣の人、帰ってきた?」
壁を隔てて、玄関のドアがバタンと音を立てる。微かに聞こえるくぐもった生活音に緊張したのか、池上は体をこわばらせた。
「ここ、結構音響くね」
香月が耳元で呟きながら、のしかかるようにして奥の襞に押し当てる。
「お……奥、やだ♡」
声を抑えて、力の入らない手で香月の胸を押し返すが、どうしても甘ったるい喘ぎが漏れてしまう。
「隣ってどんな人?」
「知らな……多分、同じ年くらいの女の人……」
隣人にメス喘ぎを聞かれるかもしれないと思うと、無意識に中が締まった。
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揶揄うような口調に香月のことを睨むが、にやにやと笑われてしまった。
香月はわざと音を立てようとしているみたいに、ぐぽぐぽと奥を突く。池上は声を抑えようと歯を食いしばるが、甘えるような喘ぎが漏れた。
「も……しつこい……♡」
「奥、いや?」
香月はそう言うと、今度は前立腺を押し潰すような動きをする。
「あっ♡やだやだ♡ちょっ、待っ……♡えっ!? 出っ、漏れ……!♡♡」
内腿が痙攣し、じょぽじょぼと潮が溢れ出た。
あぁ……と絶望するような声と同時に、ビクンッビクンッと震える陰茎から、どろっとザーメンが漏れて流れ出る。
池上は放心したように香月を見上げた。
「ちんちんバカになっちゃうよお……」
ぼろぼろと涙を溢しながら助けを求めるようにぎゅっとしがみついてくる池上の顔を、そばにあったタオルで拭いてやる。
「もう一回くらいいけそうだね」
「あ~~~~~~♡もうやだ~~~~~~♡♡」
池上は泣きながら、香月の言う通りもう一度潮を吹いた。
「香月くん、シーツ変えてよ」
「濡らしたの池上くんじゃん」
「俺、病人だから」
潮で濡れたシーツが冷たい。
香月も池上も、濡れていない場所に縮こまってうとうととしていた。さっさと片付けてさっぱりして寝たらいいと思うのに、体が動かない。
「てか、いい加減帰んなよ」
池上の嫌味を聞いているのかいないのか、香月は目を閉じたまま何も言わなかった。
「もうちょっとそっち寄って」
池上は香月の体をぐーっと蹴ると、狭……と呟きながら、香月の隣の乾いたスペースに横になる。
「……実家で飼ってた猫がさ、わざわざ布団でおしっこ漏らすんだよ」
唐突に始まった話に、池上は訝しむような表情で香月を見た。
「臭いし腹立つんだけど、悪いと思ってるのか、しょんぼりしてるのがかわいくてさ……だからまあ……池上くんもあんまり気にする必要ないと思うよ」
「え……なんの話……」
「潮吹きって癖になるらしいから、ペット用のトイレシート使うといいよ。あ、うちのベッドで漏らすのはやめてね」
香月はうとうとしながら言うだけ言ってしまうと、そのまま寝息を立て始めた。
「えっ、癖!?」
池上の疑問に応える人はおらず、戸惑う声は香月の耳に届くこともなく、暗闇に消えていった。
香月をベッドの下に落として、ベッドパッドとシーツを変えよう……と考えたところで池上も眠りに落ちてしまい、翌日に二人は揃って熱を出した。
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