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そうして、歪に日常になる
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「今から、指輪交換ならぬ腕輪と冠の交換をしたいと思います! 立会人は、ここにいる皆ということで! さあ先生方、どうぞ!」
おろおろと怒ったように視線をさまよわせる田中先生に藤本先生が何か言ったようで、渋々といった様子ながらティアラを持ち上げて、藤本先生の頭に載せた。
秋山先輩はその近くで茶々を入れながらの実況中継を行い、生徒たちは、またもや大きく拍手をする。
「生徒会長も、大した手腕だ。どこで聞きつけたんだか、あの二人が付き合っててプロポーズ間際だって知った上で、この好きな人の告白だとかいうバカバカしい企画を通したわけでしょ?」
「公衆の面前でのプロポーズ、忘れられないだろうね」
「良くも悪くもね。放送部がカメラ回してるし」
多少、チョコレートの数の操作はしているかもしれないけど、文句を言う人もいないだろう。
ちなみに、二位は田中先生として、三位は元野球部の三年生だった。彼には既に恋人がいるということで、堂々と宣言していた。
一位の発表はこれからだけど、響ではない…と、思う。以前ならともかく今は、何を言い出すかわからないのでやめてほしい。
「秋山先輩に見込まれたら終わりだよね。まあ、決定的に悪いことや厭がることはしないと思うけど」
「見ている分には楽しいけど、張本人になるのはちょっと勘弁してほしい」
「そうそう。一で済むことを、わざわざ十の規模に広げるんだから」
テンポよく司会を進める秋山先輩を眺めながら雑談をしている間に、舞台から教師二人は退場して、一位が発表されていた。
横から紙を渡された秋山先輩が、じらすようなドラム音の響く中、いよいよ紙を広げようとしたところで用紙を奪われ、タイミングよくドラム音もひときわ強い音で終わりを告げた。
用紙を奪い取った生徒会役員は、予備のマイクを手に、高らかに秋山先輩の名を読み上げる。
秋山先輩は、びっくりした顔をした後で満面の笑みを浮かべた。手慣れた役者のようだ。好きな人への告白を促されても笑顔は崩れない。
「みんな好きだーッ! 女子限定ッ!」
予想通りと言えば予想通りの回答に、会場が湧く。そのまま調子に乗って喋り続ける秋山先輩を先ほどの生徒会役員が回収して、あとは、終了時刻や注意事項などが告げられていく。
あちこちに並べられているチョコレート菓子は、閉会時間を待たずに食べつくされそうだ。
「茜さんは、これから部活?」
「文芸部と漫研と組んで、今回の密着ルポ出すんだ。今日中に新聞記事形式の予告編作って、明日の朝一で刷って配る。ルポ自体は予約制での販売だから、面白そうだったら予約して」
「凄い。それ、ちゃんと寝る時間あるの?」
「さあ? そっちは?」
「四月からここに通う親戚と待ち合わせ」
「へえ。面倒くさい相手?」
「…顔に出てる?」
「まあ、そこそこ」
あっさりと言われて、額を押さえる。
約束をしているのは、前回放課後に会う約束をすっぽかした小夜子ちゃんだ。あの誘拐事件以来、まだ顔もあわせていない。
茜さんたちの様子からすると記憶はなさそうだけど、気は重い。だからといって、それを知らせるつもりはないのだけど。
深呼吸をして、笑みを浮かべてみる。
「…どっちかっていうとあんたも、あの会長寄りだね」
「うーん、嬉しくない。褒められてる気がしない」
「褒めてないし」
さっくり告げてくれた茜さんとは新聞部の部室の前で別れ、校門へと向かう。
おろおろと怒ったように視線をさまよわせる田中先生に藤本先生が何か言ったようで、渋々といった様子ながらティアラを持ち上げて、藤本先生の頭に載せた。
秋山先輩はその近くで茶々を入れながらの実況中継を行い、生徒たちは、またもや大きく拍手をする。
「生徒会長も、大した手腕だ。どこで聞きつけたんだか、あの二人が付き合っててプロポーズ間際だって知った上で、この好きな人の告白だとかいうバカバカしい企画を通したわけでしょ?」
「公衆の面前でのプロポーズ、忘れられないだろうね」
「良くも悪くもね。放送部がカメラ回してるし」
多少、チョコレートの数の操作はしているかもしれないけど、文句を言う人もいないだろう。
ちなみに、二位は田中先生として、三位は元野球部の三年生だった。彼には既に恋人がいるということで、堂々と宣言していた。
一位の発表はこれからだけど、響ではない…と、思う。以前ならともかく今は、何を言い出すかわからないのでやめてほしい。
「秋山先輩に見込まれたら終わりだよね。まあ、決定的に悪いことや厭がることはしないと思うけど」
「見ている分には楽しいけど、張本人になるのはちょっと勘弁してほしい」
「そうそう。一で済むことを、わざわざ十の規模に広げるんだから」
テンポよく司会を進める秋山先輩を眺めながら雑談をしている間に、舞台から教師二人は退場して、一位が発表されていた。
横から紙を渡された秋山先輩が、じらすようなドラム音の響く中、いよいよ紙を広げようとしたところで用紙を奪われ、タイミングよくドラム音もひときわ強い音で終わりを告げた。
用紙を奪い取った生徒会役員は、予備のマイクを手に、高らかに秋山先輩の名を読み上げる。
秋山先輩は、びっくりした顔をした後で満面の笑みを浮かべた。手慣れた役者のようだ。好きな人への告白を促されても笑顔は崩れない。
「みんな好きだーッ! 女子限定ッ!」
予想通りと言えば予想通りの回答に、会場が湧く。そのまま調子に乗って喋り続ける秋山先輩を先ほどの生徒会役員が回収して、あとは、終了時刻や注意事項などが告げられていく。
あちこちに並べられているチョコレート菓子は、閉会時間を待たずに食べつくされそうだ。
「茜さんは、これから部活?」
「文芸部と漫研と組んで、今回の密着ルポ出すんだ。今日中に新聞記事形式の予告編作って、明日の朝一で刷って配る。ルポ自体は予約制での販売だから、面白そうだったら予約して」
「凄い。それ、ちゃんと寝る時間あるの?」
「さあ? そっちは?」
「四月からここに通う親戚と待ち合わせ」
「へえ。面倒くさい相手?」
「…顔に出てる?」
「まあ、そこそこ」
あっさりと言われて、額を押さえる。
約束をしているのは、前回放課後に会う約束をすっぽかした小夜子ちゃんだ。あの誘拐事件以来、まだ顔もあわせていない。
茜さんたちの様子からすると記憶はなさそうだけど、気は重い。だからといって、それを知らせるつもりはないのだけど。
深呼吸をして、笑みを浮かべてみる。
「…どっちかっていうとあんたも、あの会長寄りだね」
「うーん、嬉しくない。褒められてる気がしない」
「褒めてないし」
さっくり告げてくれた茜さんとは新聞部の部室の前で別れ、校門へと向かう。
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