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そうして、事態は発覚する
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見慣れない人物に気付く。校門をくぐってすぐの、校庭の端と呼べそうな場所にドラマの不良刑事か探偵のような格好の男の人が立っていた。
年は、三十半ばといったところだろうか。
切り損ねたように伸びた髪は、不潔な感じはしないけど不精な感じはする。生活指導の先生が見たら床屋に行けと怒鳴りそう、と思ってしまって苦笑をかみ殺す。
「君、生徒会室はどこだ」
視線に気付かれたのか、振り向き、声をかけられた。後ろ髪同様に長い前髪の下からは、無愛想な両目がのぞいている。
「…校舎の中にありますけど、どちら様でしょう?」
にこりと笑って当たり前のことを言うと、厭な顔をした。それがあまりにもあからさまで、やはり可笑しくなる。
男は不機嫌そうに、よれよれになった米軍放出品のような、年季の入った上着の内側を探った。取り出した手には、掌からはみ出すくらいの大きさの、折りたたみ式のパスケースのようなものがつかまれている。
「警察だ」
「警察手帳って、ちゃんと、写真の貼られた身分証のところを見せないと証明にならないんじゃないですか?」
「ちッ」
「今時、ドラマや小説で常識ですよ。ふうん、梨木巡査部長さん」
示された顔写真は、身なりに口うるさい人でもとりあえずは及第点を与えるくらいには、整っていた。写真を撮るときにレンズを睨んでしまう人は多いけど、目の前の男の場合、写真撮りのときだけではないようだ。
そんな男の眼を覗き込んで、首を傾げた。少しだけ、怯まれた。
「梨木巡査部長さん」
「これ以上文句があるか」
「娘さんとかご親戚に、茜という名前の人がいませんか?」
思い切り睨みつけられる。
そう簡単には認めないか、とひとつ嘆息し、なるべく無邪気そうに笑う。
「普通、事件に身内が絡めば捜査からは外されますよね? 苗字が同じなら、すぐに露見しそうなものだし。ねえ、違いますか、梨木巡査部長さん?」
「…邪魔したな」
「待ってください。私は何も、あなたが警察機構を無視してここにいるんじゃないかなんて、言うつもりはありませんよ」
「言ってるだろうが」
「あれ、付き合いがいいですね」
一旦は背を向けたにも拘らず口にした突っ込みに、思わず笑う。
振り向いた梨木は、渋いかおをしていた。意外な付き合いのよさが茜さんを髣髴とさせ、親しい身内に違いないと、勝手な決断を下す。
しかし、休暇を取ってしまえば警察手帳は持ち歩けないはずで、職務放棄、つまりはサボりかと勝手に判断する。警察への届出で気付いた――よりは、身内からの連絡で知り、飛んできたというところだろうか。
それならば、やる気はあるはずだ。
「あの、刑事さん?」
「なんだ」
「生徒会室までご案内します」
そう告げて歩き出したけど、ついてくる気配がない。
ある程度は予想していて振り返ると、どうしようもなく不機嫌そうに睨みつけられている。わがままをたしなめるように微笑した。
いつまでもここにいては、目立ってしまう。
年は、三十半ばといったところだろうか。
切り損ねたように伸びた髪は、不潔な感じはしないけど不精な感じはする。生活指導の先生が見たら床屋に行けと怒鳴りそう、と思ってしまって苦笑をかみ殺す。
「君、生徒会室はどこだ」
視線に気付かれたのか、振り向き、声をかけられた。後ろ髪同様に長い前髪の下からは、無愛想な両目がのぞいている。
「…校舎の中にありますけど、どちら様でしょう?」
にこりと笑って当たり前のことを言うと、厭な顔をした。それがあまりにもあからさまで、やはり可笑しくなる。
男は不機嫌そうに、よれよれになった米軍放出品のような、年季の入った上着の内側を探った。取り出した手には、掌からはみ出すくらいの大きさの、折りたたみ式のパスケースのようなものがつかまれている。
「警察だ」
「警察手帳って、ちゃんと、写真の貼られた身分証のところを見せないと証明にならないんじゃないですか?」
「ちッ」
「今時、ドラマや小説で常識ですよ。ふうん、梨木巡査部長さん」
示された顔写真は、身なりに口うるさい人でもとりあえずは及第点を与えるくらいには、整っていた。写真を撮るときにレンズを睨んでしまう人は多いけど、目の前の男の場合、写真撮りのときだけではないようだ。
そんな男の眼を覗き込んで、首を傾げた。少しだけ、怯まれた。
「梨木巡査部長さん」
「これ以上文句があるか」
「娘さんとかご親戚に、茜という名前の人がいませんか?」
思い切り睨みつけられる。
そう簡単には認めないか、とひとつ嘆息し、なるべく無邪気そうに笑う。
「普通、事件に身内が絡めば捜査からは外されますよね? 苗字が同じなら、すぐに露見しそうなものだし。ねえ、違いますか、梨木巡査部長さん?」
「…邪魔したな」
「待ってください。私は何も、あなたが警察機構を無視してここにいるんじゃないかなんて、言うつもりはありませんよ」
「言ってるだろうが」
「あれ、付き合いがいいですね」
一旦は背を向けたにも拘らず口にした突っ込みに、思わず笑う。
振り向いた梨木は、渋いかおをしていた。意外な付き合いのよさが茜さんを髣髴とさせ、親しい身内に違いないと、勝手な決断を下す。
しかし、休暇を取ってしまえば警察手帳は持ち歩けないはずで、職務放棄、つまりはサボりかと勝手に判断する。警察への届出で気付いた――よりは、身内からの連絡で知り、飛んできたというところだろうか。
それならば、やる気はあるはずだ。
「あの、刑事さん?」
「なんだ」
「生徒会室までご案内します」
そう告げて歩き出したけど、ついてくる気配がない。
ある程度は予想していて振り返ると、どうしようもなく不機嫌そうに睨みつけられている。わがままをたしなめるように微笑した。
いつまでもここにいては、目立ってしまう。
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