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そうして、事態は発覚する
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「残念ながら、いろいろと無茶を通すのには自分で経営している学校というのが最適で」
「あの」
中等部入学を控えている方の乙成が、給仕の皿にまごつきながら、おまけにバカ息子を筆頭とした面々の視線を集めて身をすくませながらも、私を真っ直ぐに見つめる。
わずかに頬が上気している気がするのは、緊張のせいだろう。気の毒になって、なるべく優しく先を促す。
「家庭教師を雇われていたと聞きました。その…基礎の基礎から、まとめて学ばれていたと」
「…宣伝したつもりはなかったんだけど、それ、有名?」
「え。はい、多分。その、すみません…」
「謝ることはないよ。突然現れた跡継ぎに興味を持つなって言う方が無理だろうしね」
とはいえ、中学入学前、つまりは小学生の少年の耳にまで入っているとは。
私は、中学校はおろか小学校にすらほとんど通っていない。一応家庭教師はついていたし本も読んでいたけれど、いかんせん、それらに使える時間が少なすぎた。
紅子の最優先事項は、とにかく体調を崩さないことだったのだから。
いくら義務教育は出席日数だけでなく校長の判断で卒業もできるとはいえ、小学校を卒業したことすら、無理が過ぎたと思う。
晧としても病であまり学校に通えていなかったとの設定を押し通し、学校に通う以上は年相応に追いつき、できれば超えるため、小中の内容の勉強を教えるエキスパートを雇った。
おかげで中等部に在籍していた半年ほどは授業中が息抜きという勉強体制で、あまり思い出したくもない。
お飾りとはいえ後々表舞台に立つのは響ではなく私なのだからと会社関係の勉強は続けているけれど、今は当時に比べればかなりましだ。
高校での勉強に関しては、授業と教師を最大限活用して済ませている。
「それで?」
「え?」
「訊きたいだろう内容を聞いてないよ。そのことが、どうかした?」
「いえあの……無茶ができるなら、勉強なんてその、しなくたって…大学を卒業した後のことだって、決まってるのに…」
最後にはうつむいてしまったけれど、言いたいことは言っている。意外に骨がありそうだと、頭の隅に留めておく。
最終的に羽山成に連なる各社を羽山成家から切り離し独立させたい身としては、親族であっても使える人材なら把握しておきたい。
それもあって、意識して柔らかな笑みを浮かべてみせる。
「これも知っているかもしれないけど、私も、紅子ほどではないけど病気だったんだ。どうにか治ったけど、あまり勉強はできていなかった。先々必要かどうかなんてわからないけど、みんなに追いつけるならそうしたいと思ったんだ。この先、人に指示を出したり付き合いを広げたりすることは、それこそ決まっているだろうから、あまり無様なことはしなくはないし。でも、ほんっとーに、大変だったからおすすめはしないよ。やっぱり、一年分の勉強量は一年くらいかけたいよ」
「先のことが決まっているというのは否定されないんですね」
「小夜」
冷たい口調と慌ててたしなめるような小声は、やはり正反対に響く。しかしこの双生児は、根底ではよく似ていると私は思っている。
小夜子ちゃんだって、好き好んでとがっているわけではないだろう。ごめんなさいと、心の隅で呟く。
「あの」
中等部入学を控えている方の乙成が、給仕の皿にまごつきながら、おまけにバカ息子を筆頭とした面々の視線を集めて身をすくませながらも、私を真っ直ぐに見つめる。
わずかに頬が上気している気がするのは、緊張のせいだろう。気の毒になって、なるべく優しく先を促す。
「家庭教師を雇われていたと聞きました。その…基礎の基礎から、まとめて学ばれていたと」
「…宣伝したつもりはなかったんだけど、それ、有名?」
「え。はい、多分。その、すみません…」
「謝ることはないよ。突然現れた跡継ぎに興味を持つなって言う方が無理だろうしね」
とはいえ、中学入学前、つまりは小学生の少年の耳にまで入っているとは。
私は、中学校はおろか小学校にすらほとんど通っていない。一応家庭教師はついていたし本も読んでいたけれど、いかんせん、それらに使える時間が少なすぎた。
紅子の最優先事項は、とにかく体調を崩さないことだったのだから。
いくら義務教育は出席日数だけでなく校長の判断で卒業もできるとはいえ、小学校を卒業したことすら、無理が過ぎたと思う。
晧としても病であまり学校に通えていなかったとの設定を押し通し、学校に通う以上は年相応に追いつき、できれば超えるため、小中の内容の勉強を教えるエキスパートを雇った。
おかげで中等部に在籍していた半年ほどは授業中が息抜きという勉強体制で、あまり思い出したくもない。
お飾りとはいえ後々表舞台に立つのは響ではなく私なのだからと会社関係の勉強は続けているけれど、今は当時に比べればかなりましだ。
高校での勉強に関しては、授業と教師を最大限活用して済ませている。
「それで?」
「え?」
「訊きたいだろう内容を聞いてないよ。そのことが、どうかした?」
「いえあの……無茶ができるなら、勉強なんてその、しなくたって…大学を卒業した後のことだって、決まってるのに…」
最後にはうつむいてしまったけれど、言いたいことは言っている。意外に骨がありそうだと、頭の隅に留めておく。
最終的に羽山成に連なる各社を羽山成家から切り離し独立させたい身としては、親族であっても使える人材なら把握しておきたい。
それもあって、意識して柔らかな笑みを浮かべてみせる。
「これも知っているかもしれないけど、私も、紅子ほどではないけど病気だったんだ。どうにか治ったけど、あまり勉強はできていなかった。先々必要かどうかなんてわからないけど、みんなに追いつけるならそうしたいと思ったんだ。この先、人に指示を出したり付き合いを広げたりすることは、それこそ決まっているだろうから、あまり無様なことはしなくはないし。でも、ほんっとーに、大変だったからおすすめはしないよ。やっぱり、一年分の勉強量は一年くらいかけたいよ」
「先のことが決まっているというのは否定されないんですね」
「小夜」
冷たい口調と慌ててたしなめるような小声は、やはり正反対に響く。しかしこの双生児は、根底ではよく似ていると私は思っている。
小夜子ちゃんだって、好き好んでとがっているわけではないだろう。ごめんなさいと、心の隅で呟く。
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