月夜の猫屋

来条恵夢

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中編

序幕1

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 素っ気無い雑居ビルに、気の抜けるような歌声が響いている。しかも、童謡。子どもの声に聞こえるそれは、さっきから延々と、童謡ばかりを歌い続けていた。
 今日は祝日だが、このあたりは休日の方が人通りが少なくなる。歌声を耳にしているのは、似たり寄ったりの雑居ビルで仕事をしている者がほとんどだった。
「…またか」
 葉山直樹はやまなおきは、自然と微笑していた。
 直樹は、自転車操業の探偵社で報告書を書いていた。数少ない同僚たちは、今は出払ってしまっている。
 おばけなんてないさ、と軽やかに歌っていたはずが不自然に切れ、直樹は思わず窓の外を見た。もっとも、歌っている声の主がいるのは同じビルの一階下だから、見えるわけではないのだが。
「客でも来たか?」
 呟いて、首を傾げる。客だって?
 一度好奇心に駆られて入ろうとしたことがあるが、あまりに胡散臭そうでやめてしまった。
 少し待ってみたが、続きも別の歌も、聞こえてこない。
「…飽きたかな」
 それっきり、直樹は報告書に専念することにした。     
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