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事故
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とりあえず問題は見つからず、目を覚ましたのが夕方だったせいで検査の都合もあり退院は目覚めた二日後にはなったが、笹倉や結愛が用意してくれた着替えなどもまとめて自分で持って病室を後にできた。
「無理しちゃだめだよ?」
「わかってる、大丈夫だから」
「…ホントかなあ」
バスと電車で帰るつもりでいたところを、タクシーにしろと説き伏されたばかりなので視線が痛い。並んでソファーに座っているのに、結愛は体ごと雪季を向いて目を逸らさない。
そう言われても、雪季の認識としては本当になんともないのだが。さすがに立ち回りとなれば怪しいが、昨日一日で病院内をエレベーターなしでも歩き回れる程度には回復している。
「家まで送って行かなくて、本当にいいの?」
「そのためのタクシーだろ。真柴だって忙しいんだから、そこまで」
「私が、来たくて来てるの。ユキちゃんに会いたくて。ユキちゃんだって、私に何かあったらきっと来てくれるでしょ、この間みたいに」
「…真柴は、ちゃんと他に心配してくれる人がいるだろ」
「ユキちゃん? 結婚しようって話、今ここでしてもいい?」
「やめてくれ…」
雪季が結愛からどれだけのものをもらっているか、それらを全く返せていないということを、きっと結愛は理解してくれはしないのだろう。逆に結愛こそ、雪季には返しきれない恩があるとさえ言う。妙なすれ違いだ。
ただ、そういったものがあるから結愛との縁を切れないわけではない。
「真柴」
「うん?」
「頼む」
甘え切っては、きっと、雪季は結愛の友人ですらいられない。甘えて、雪季の事情に結愛を巻き込んでしまえば、こうやって隣り合って座ることすらできなくなる。
「入院の準備するのに、寮? に、行こうかって言われたんだよね。笹倉さんに。でも、河東君に止められた。ユキちゃんが招かないなら、場所も教えちゃ駄目だよって笹倉さんにも言って。…ねえ、ユキちゃん。ユキちゃんが私を大切に想ってくれてるのは知ってるよ。だから、なの? 私を本当だったら遠避けたいように思えるときがあるのは、困っているように思えるのは、だからなの?」
「…もう、遅いのかもしれないけど」
雪季の生活が安定したからか、結愛の言うように何かが変わったからか、会う回数も増えた。これだけ頻繁に会っていて、関わり合いを隠すも何もない。雪季のことを調べれば、すぐにでも結愛は浮かび上がるだろう。
だからといって、まだ思い切れずにいる。英にも、それを気付かれていたのだろうか。
「だったら。諦めがついたら、ユキちゃんの家にも遊びに行かせてね。結婚のこともまたちゃんと考えてね?」
「…最後のそれはさすがに飛躍が過ぎる」
「えー? 会社のプレゼンみたいに、利点とかまとめた書類作って説明した方がいい?」
「勘弁してくれ」
立ち上がると、唇を尖らせた結愛も腰を上げる。病院のロビーを出ると寒いだろうとは思うが、日差しだけはあたたかそうだ。
自動ドア越しに病院前のタクシー乗り場にちらりを目をやって、雪季は、時計を確認する。
「…少し早いが、昼めしでも食べていくか?」
「それだったら、向かいのお蕎麦屋さんが美味しかったよ。かつ丼が絶品」
「ずいぶんとがっつりとしたものを」
「え? あ! 食べたのセットのミニ丼だからね?!」
「セットの時点で」
「そういうこと言う?!」
ダイエットなど気にしていなさそうな結愛だが、大食らいだと言われるには抵抗があるらしい。健啖家ぶりはよく知っているのだから、今更のはずなのだが。
素直に病院を出てすぐに目に入る蕎麦屋に向かうと、開店直後とあって席も好きに選べた。店の奥に、雪季が入り口を向いて四人掛けの席に座る。
雪季がかつ丼と蕎麦のセットを選び、結愛は悩んだ末にミニカレー蕎麦とミニカツ丼に決める。
「また濃そうなのを」
「カツ丼美味しかったし、今はカレーの気分…。ユキちゃんこそ、ミニ丼かミニ蕎麦のセットじゃなくて両方ほぼ一人分ずつあるやつじゃない」
「…病院食ってちょっと味気ないよな」
雪季は食事制限がかかっていないからごく普通の食事だったはずだが、多少物足りない感じは拭えなかった。
意識がなかった間や目覚めた夜は点滴のみだったので、病院での食事は昨日の三食と今朝の朝食だけでしかないのだが、長期入院になれば間食がはかどりそうだなと思ってしまったほどだ。
運ばれてきた蕎麦と丼は、確かに美味しかった。カツが卵とじなのも、雪季の好みに合う。
「河東君、忙しいの? 聞いてるとは思ったけど一応、メールもしたんだけど返事もなくて」
「…できるなら、アドレスも番号もすぐに変えてあいつとは縁を切った方が」
「…ユキちゃんはどうしてそう河東君を遠ざけたがるの。今回、私がユキちゃんの入院を知れたのは河東君のおかげなんだけど」
やや呆れの混じった視線に、何をどう言ったものか悩む。そもそもの接点が雪季なのが心苦しいが、何かの時に有用な駒として結愛を使いかねないので、なるべく関わってほしくはないのだが。
「家族でも恋人でもない私が面接時間外でも出入りできるように掛け合ってくれたり、差額は自分で持つからって個室にしたり、河東君、お見舞いにこそ来なかったけどかなり色々とやってくれてるよ?」
「そもそもの原因はあいつだし」
「え?」
「…え?」
考え込んでいたせいで、何を口にしたかをあまり意識しておらず、結愛の意外そうな反応に改めて自分の言葉を思い返して、首を傾げる。
あの事故の運転者は、一度は逃げたものの結局捕まったと聞いているのだが。目の前の結愛から。
「事故を起こしたの、ルキーノ・ベッテルだったんだろ? あの人、河東の知り合いで、多分痴情のもつれが理由じゃないかと…あ」
会社の面々が英の色恋事情を平然と話題にするので感覚が鈍っていたが、結愛はそんなことまで知らないだろう。口が滑った。
食後に出してもらったほうじ茶の湯呑を両手で抱えた状態で、結愛は硬直していた。何かいろいろと考え事をしているのは、眼の動きで判る。
「あいつが色々とあいつなりに手を回してくれたのはわかったしその件に関して礼は言っとくが、それと真柴が親交を持つのは別だからな。その…色々と見境がない奴だから、あまり近付かない方がいい」
「…ユキちゃんと河東君って付き合ってるの? だから、ユキちゃんが轢かれそうになったとか…?」
「真柴?」
雪季自身驚くほどに、にこやかな声に不穏さを纏わせられた。結愛が、あたふたと両手を上下させる。とりあえず、湯呑は置いた方がいいと思うのだが。
「ごめんなんか友達じゃなくて恋人なら私物凄く明後日な方向にいろいろ力説しちゃってたかなとか結婚押し付けるみたいになってたの嫌がらせの域入るかなとかこううわーって走馬燈のように駆け巡っちゃって」
「違う。それはない。勘弁してくれ」
「…ごめん…? ええと、ただ…ユキちゃん、勝手に人のそういうの暴露しちゃうのはどうかと」
「そうだな。あいつが別に隠してないものだから、うっかりした。あとで謝っとく」
その機会があれば、だが。
今回、英は雪季が入院している間一度も病院には来なかったようだった。
昨日のうちに会社に連絡して、迷惑をかけたお詫びや退院日にでもとりあえず顔を出そうかと言って叱られたりした合間に、雪季が把握していた以上に予定を増やしていたことも聞いた。
社員共有で使っているアプリを見ても、顔を顰めたくなるほどの詰め込み具合だった。
それらを踏まえても、今回英がそういった行動を取ったのは、単に意識がなければ会いに来たところで意味がないと思っただけか、興味を失ったか、といったところではないかと雪季には思えた。
前者であってもその間に他に面白そうな対象を見つけてそちらに夢中になっているかもしれないし、後者であれば当然のように、この妙な雇用体制も遠からず終わるかもしれない。
「あれ? でもそれなら、私そういう意味では全然心配しなくていいんじゃないの?」
「見境がないって言っただろ。男だろうが女だろうが関係ない」
「…まあ、凄くモテそうだもんね、河東君…」
そういう問題ではないはずだが。
昼時が近付いたために人も増え始め、食べ終えているのに長居をし過ぎたと、二人は席を立った。
「…あのね。これ、ただの私の勝手な推測かも知れないけど…河東君って、誰か親しい人を亡くされてたりする?」
「…さあ」
雪季が把握している範囲内では、生みの親も育ての親も兄弟もまだ生きているはずだが。祖父母や他の親戚までとなれば全てを知っているとは思えない。更に、幼少時の友人などとなればそこまでは調べていない。
ただ、親も含めてそういった人たちを英が親しいと見做すかは怪しいものだ。
結愛は、タクシー乗り場までの短い距離をゆっくりと歩く。
「…病院、もしかして、来るのこわかったのかなと思って。もちろん大半の人は元気に退院していくだろうけど、死んでいく人を見送る場所でもあるから。病気や老衰で緩やかに亡くなっていく場合って、病院へのお見舞いって…亡くなることを受け入れていく時間でもあるでしょ。だから、意識の戻らないユキちゃんを見るのが怖かったのかなって、ちょっと考えちゃって」
「あいつにこわいものがあるとは思えないな。そもそも、恐怖も感じるんだか」
「…ユキちゃん、河東君のこと…サイコパスだと思ってる?」
「ああ」
慎重に差し出された言葉に、雪季はあっさりと肯いた。
意外に思ったとすれば、結愛が、雪季が意識を失っていた間にどの程度の接点があったにせよ、さほど会ってもいないはずの英に対してか雪季の反応でか、同じ結論を多少なりと感じているだろうことだった。少しでも疑わなければ、この言葉は出て来なかっただろう。
結愛は短く考え込み、顔を上げて、真っ直ぐに雪季を見つめた。
「ユキちゃん、もうちょっと時間、いい?」
「無理しちゃだめだよ?」
「わかってる、大丈夫だから」
「…ホントかなあ」
バスと電車で帰るつもりでいたところを、タクシーにしろと説き伏されたばかりなので視線が痛い。並んでソファーに座っているのに、結愛は体ごと雪季を向いて目を逸らさない。
そう言われても、雪季の認識としては本当になんともないのだが。さすがに立ち回りとなれば怪しいが、昨日一日で病院内をエレベーターなしでも歩き回れる程度には回復している。
「家まで送って行かなくて、本当にいいの?」
「そのためのタクシーだろ。真柴だって忙しいんだから、そこまで」
「私が、来たくて来てるの。ユキちゃんに会いたくて。ユキちゃんだって、私に何かあったらきっと来てくれるでしょ、この間みたいに」
「…真柴は、ちゃんと他に心配してくれる人がいるだろ」
「ユキちゃん? 結婚しようって話、今ここでしてもいい?」
「やめてくれ…」
雪季が結愛からどれだけのものをもらっているか、それらを全く返せていないということを、きっと結愛は理解してくれはしないのだろう。逆に結愛こそ、雪季には返しきれない恩があるとさえ言う。妙なすれ違いだ。
ただ、そういったものがあるから結愛との縁を切れないわけではない。
「真柴」
「うん?」
「頼む」
甘え切っては、きっと、雪季は結愛の友人ですらいられない。甘えて、雪季の事情に結愛を巻き込んでしまえば、こうやって隣り合って座ることすらできなくなる。
「入院の準備するのに、寮? に、行こうかって言われたんだよね。笹倉さんに。でも、河東君に止められた。ユキちゃんが招かないなら、場所も教えちゃ駄目だよって笹倉さんにも言って。…ねえ、ユキちゃん。ユキちゃんが私を大切に想ってくれてるのは知ってるよ。だから、なの? 私を本当だったら遠避けたいように思えるときがあるのは、困っているように思えるのは、だからなの?」
「…もう、遅いのかもしれないけど」
雪季の生活が安定したからか、結愛の言うように何かが変わったからか、会う回数も増えた。これだけ頻繁に会っていて、関わり合いを隠すも何もない。雪季のことを調べれば、すぐにでも結愛は浮かび上がるだろう。
だからといって、まだ思い切れずにいる。英にも、それを気付かれていたのだろうか。
「だったら。諦めがついたら、ユキちゃんの家にも遊びに行かせてね。結婚のこともまたちゃんと考えてね?」
「…最後のそれはさすがに飛躍が過ぎる」
「えー? 会社のプレゼンみたいに、利点とかまとめた書類作って説明した方がいい?」
「勘弁してくれ」
立ち上がると、唇を尖らせた結愛も腰を上げる。病院のロビーを出ると寒いだろうとは思うが、日差しだけはあたたかそうだ。
自動ドア越しに病院前のタクシー乗り場にちらりを目をやって、雪季は、時計を確認する。
「…少し早いが、昼めしでも食べていくか?」
「それだったら、向かいのお蕎麦屋さんが美味しかったよ。かつ丼が絶品」
「ずいぶんとがっつりとしたものを」
「え? あ! 食べたのセットのミニ丼だからね?!」
「セットの時点で」
「そういうこと言う?!」
ダイエットなど気にしていなさそうな結愛だが、大食らいだと言われるには抵抗があるらしい。健啖家ぶりはよく知っているのだから、今更のはずなのだが。
素直に病院を出てすぐに目に入る蕎麦屋に向かうと、開店直後とあって席も好きに選べた。店の奥に、雪季が入り口を向いて四人掛けの席に座る。
雪季がかつ丼と蕎麦のセットを選び、結愛は悩んだ末にミニカレー蕎麦とミニカツ丼に決める。
「また濃そうなのを」
「カツ丼美味しかったし、今はカレーの気分…。ユキちゃんこそ、ミニ丼かミニ蕎麦のセットじゃなくて両方ほぼ一人分ずつあるやつじゃない」
「…病院食ってちょっと味気ないよな」
雪季は食事制限がかかっていないからごく普通の食事だったはずだが、多少物足りない感じは拭えなかった。
意識がなかった間や目覚めた夜は点滴のみだったので、病院での食事は昨日の三食と今朝の朝食だけでしかないのだが、長期入院になれば間食がはかどりそうだなと思ってしまったほどだ。
運ばれてきた蕎麦と丼は、確かに美味しかった。カツが卵とじなのも、雪季の好みに合う。
「河東君、忙しいの? 聞いてるとは思ったけど一応、メールもしたんだけど返事もなくて」
「…できるなら、アドレスも番号もすぐに変えてあいつとは縁を切った方が」
「…ユキちゃんはどうしてそう河東君を遠ざけたがるの。今回、私がユキちゃんの入院を知れたのは河東君のおかげなんだけど」
やや呆れの混じった視線に、何をどう言ったものか悩む。そもそもの接点が雪季なのが心苦しいが、何かの時に有用な駒として結愛を使いかねないので、なるべく関わってほしくはないのだが。
「家族でも恋人でもない私が面接時間外でも出入りできるように掛け合ってくれたり、差額は自分で持つからって個室にしたり、河東君、お見舞いにこそ来なかったけどかなり色々とやってくれてるよ?」
「そもそもの原因はあいつだし」
「え?」
「…え?」
考え込んでいたせいで、何を口にしたかをあまり意識しておらず、結愛の意外そうな反応に改めて自分の言葉を思い返して、首を傾げる。
あの事故の運転者は、一度は逃げたものの結局捕まったと聞いているのだが。目の前の結愛から。
「事故を起こしたの、ルキーノ・ベッテルだったんだろ? あの人、河東の知り合いで、多分痴情のもつれが理由じゃないかと…あ」
会社の面々が英の色恋事情を平然と話題にするので感覚が鈍っていたが、結愛はそんなことまで知らないだろう。口が滑った。
食後に出してもらったほうじ茶の湯呑を両手で抱えた状態で、結愛は硬直していた。何かいろいろと考え事をしているのは、眼の動きで判る。
「あいつが色々とあいつなりに手を回してくれたのはわかったしその件に関して礼は言っとくが、それと真柴が親交を持つのは別だからな。その…色々と見境がない奴だから、あまり近付かない方がいい」
「…ユキちゃんと河東君って付き合ってるの? だから、ユキちゃんが轢かれそうになったとか…?」
「真柴?」
雪季自身驚くほどに、にこやかな声に不穏さを纏わせられた。結愛が、あたふたと両手を上下させる。とりあえず、湯呑は置いた方がいいと思うのだが。
「ごめんなんか友達じゃなくて恋人なら私物凄く明後日な方向にいろいろ力説しちゃってたかなとか結婚押し付けるみたいになってたの嫌がらせの域入るかなとかこううわーって走馬燈のように駆け巡っちゃって」
「違う。それはない。勘弁してくれ」
「…ごめん…? ええと、ただ…ユキちゃん、勝手に人のそういうの暴露しちゃうのはどうかと」
「そうだな。あいつが別に隠してないものだから、うっかりした。あとで謝っとく」
その機会があれば、だが。
今回、英は雪季が入院している間一度も病院には来なかったようだった。
昨日のうちに会社に連絡して、迷惑をかけたお詫びや退院日にでもとりあえず顔を出そうかと言って叱られたりした合間に、雪季が把握していた以上に予定を増やしていたことも聞いた。
社員共有で使っているアプリを見ても、顔を顰めたくなるほどの詰め込み具合だった。
それらを踏まえても、今回英がそういった行動を取ったのは、単に意識がなければ会いに来たところで意味がないと思っただけか、興味を失ったか、といったところではないかと雪季には思えた。
前者であってもその間に他に面白そうな対象を見つけてそちらに夢中になっているかもしれないし、後者であれば当然のように、この妙な雇用体制も遠からず終わるかもしれない。
「あれ? でもそれなら、私そういう意味では全然心配しなくていいんじゃないの?」
「見境がないって言っただろ。男だろうが女だろうが関係ない」
「…まあ、凄くモテそうだもんね、河東君…」
そういう問題ではないはずだが。
昼時が近付いたために人も増え始め、食べ終えているのに長居をし過ぎたと、二人は席を立った。
「…あのね。これ、ただの私の勝手な推測かも知れないけど…河東君って、誰か親しい人を亡くされてたりする?」
「…さあ」
雪季が把握している範囲内では、生みの親も育ての親も兄弟もまだ生きているはずだが。祖父母や他の親戚までとなれば全てを知っているとは思えない。更に、幼少時の友人などとなればそこまでは調べていない。
ただ、親も含めてそういった人たちを英が親しいと見做すかは怪しいものだ。
結愛は、タクシー乗り場までの短い距離をゆっくりと歩く。
「…病院、もしかして、来るのこわかったのかなと思って。もちろん大半の人は元気に退院していくだろうけど、死んでいく人を見送る場所でもあるから。病気や老衰で緩やかに亡くなっていく場合って、病院へのお見舞いって…亡くなることを受け入れていく時間でもあるでしょ。だから、意識の戻らないユキちゃんを見るのが怖かったのかなって、ちょっと考えちゃって」
「あいつにこわいものがあるとは思えないな。そもそも、恐怖も感じるんだか」
「…ユキちゃん、河東君のこと…サイコパスだと思ってる?」
「ああ」
慎重に差し出された言葉に、雪季はあっさりと肯いた。
意外に思ったとすれば、結愛が、雪季が意識を失っていた間にどの程度の接点があったにせよ、さほど会ってもいないはずの英に対してか雪季の反応でか、同じ結論を多少なりと感じているだろうことだった。少しでも疑わなければ、この言葉は出て来なかっただろう。
結愛は短く考え込み、顔を上げて、真っ直ぐに雪季を見つめた。
「ユキちゃん、もうちょっと時間、いい?」
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