75 / 95
2006/8/5
しおりを挟む
時々、酷く焦燥感に駆られる。
平穏で、平凡だが幸せな日々。特別楽しいことがなくとも、小さな幸せはたくさんあり、穏やかに流れる、そんな毎日。
そこに、私がいていいはずがないと、こんなにも幸せではいけないのだと、そう、思ってしまう。
――私は、妹を殺したのだから。この手で、確かに――
「兄さん、どうなさったの。眉間にしわが。考え事?」
ふうと、暗い闇から引き戻された。目の前では、連れ添って十年以上になる妻が、心配そうに見つめている。そういえば、夕飯の途中だった。
「兄さん、だなんて」
「あら。昼間に、アルバムの整理をしていたせいね」
私が笑ったからか、妻も笑い返した。
そう。私に、妹はいない。あえて「兄」と呼ぶ者があるとすれば、それは、従妹の妻くらいのものだ。
「懐かしいわね」
遠くを見つめるように、笑う。
その顔を見ながら、思うのだ。この罪悪感は――もしかすると、未来からの警告だろうか、と。私は、いつか妻を、この手で――。
何も知らず、彼女は、私の前で微笑んでいた。
平穏で、平凡だが幸せな日々。特別楽しいことがなくとも、小さな幸せはたくさんあり、穏やかに流れる、そんな毎日。
そこに、私がいていいはずがないと、こんなにも幸せではいけないのだと、そう、思ってしまう。
――私は、妹を殺したのだから。この手で、確かに――
「兄さん、どうなさったの。眉間にしわが。考え事?」
ふうと、暗い闇から引き戻された。目の前では、連れ添って十年以上になる妻が、心配そうに見つめている。そういえば、夕飯の途中だった。
「兄さん、だなんて」
「あら。昼間に、アルバムの整理をしていたせいね」
私が笑ったからか、妻も笑い返した。
そう。私に、妹はいない。あえて「兄」と呼ぶ者があるとすれば、それは、従妹の妻くらいのものだ。
「懐かしいわね」
遠くを見つめるように、笑う。
その顔を見ながら、思うのだ。この罪悪感は――もしかすると、未来からの警告だろうか、と。私は、いつか妻を、この手で――。
何も知らず、彼女は、私の前で微笑んでいた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
皇帝陛下は身ごもった寵姫を再愛する
真木
恋愛
燐砂宮が雪景色に覆われる頃、佳南は紫貴帝の御子を身ごもった。子の未来に不安を抱く佳南だったが、皇帝の溺愛は日に日に増して……。※「燐砂宮の秘めごと」のエピローグですが、単体でも読めます。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
除霊と妖狐
陽真
ライト文芸
裏稼業として《除霊》を行う九条家の次男としては生まれた九条怜は目立たないように、過ごすが関わってくるのは、少し面倒臭い人ばかり。
兄、姉はブラコンで父は親バカ。
頭を抱えながら裏稼業の手伝いをしながら、大切なにかを見つけて行く物語のはず‥‥‥。
【完結】少年の懺悔、少女の願い
干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。
そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい――
なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。
後悔しても、もう遅いのだ。
※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。
※長編のスピンオフですが、単体で読めます。
パパLOVE
卯月青澄
ライト文芸
高校1年生の西島香澄。
小学2年生の時に両親が突然離婚し、父は姿を消してしまった。
香澄は母を少しでも楽をさせてあげたくて部活はせずにバイトをして家計を助けていた。
香澄はパパが大好きでずっと会いたかった。
パパがいなくなってからずっとパパを探していた。
9年間ずっとパパを探していた。
そんな香澄の前に、突然現れる父親。
そして香澄の生活は一変する。
全ての謎が解けた時…きっとあなたは涙する。
☆わたしの作品に目を留めてくださり、誠にありがとうございます。
この作品は登場人物それぞれがみんな主役で全てが繋がることにより話が完成すると思っています。
最後まで読んで頂けたなら、この言葉の意味をわかってもらえるんじゃないかと感じております。
1ページ目から読んで頂く楽しみ方があるのはもちろんですが、私的には「三枝快斗」篇から読んでもらえると、また違った楽しみ方が出来ると思います。
よろしければ最後までお付き合い頂けたら幸いです。
私の主治医さん - 二人と一匹物語 -
鏡野ゆう
ライト文芸
とある病院の救命救急で働いている東出先生の元に運び込まれた急患は何故か川で溺れていた一人と一匹でした。救命救急で働くお医者さんと患者さん、そして小さな子猫の二人と一匹の恋の小話。
【本編完結】【小話】
※小説家になろうでも公開中※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる