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2005/12/13
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暗闇に灯りがともり、緊張感めいたものを抱きつつ目を凝らした澄樹は、照らし出された顔を見て、首を傾げた。
「何や正也、よくここが判ったな」
「判ったなって…予告状、お前が出したんじゃないのか?」
懐中電灯を、何を思ってか下から照らす同級生は、恐怖映画の主人公や脇役のような演出で、不思議そうに目を見張る。
うん? と眉をひそめた澄樹は、はっとして、先ほど入ってきたばかりの鉄扉にとって返した。が、鍵がかかっている。港近くの倉庫で、出入り口はそこしかない。いや、もう一つ、あるにはあるが、そこへ繋がる扉に鍵がかかっている。
うわぁと口の中で呟いている間に、右後方に少年がやってきていた。
「何か起きたのか?」
「閉じ込められた」
「…。どうして」
嘘は泥棒の始まりという。それなら、泥棒は嘘をつかない完全なる正直者ではないはずだが、正也は、閉じ込められたという言葉自体を疑おうとはしない。
本当に、これは、愛すべき馬鹿だ。
「まず、順番に事態を追っていこう。正也。なんでここに来た」
「だから、お前が…って、違うのか。偽の予告状が来たんだ。ここに盗み入るって、時刻と一緒に書いてあった。狙うのは、密輸品の中のブルー・ダイヤ。これは本当か?」
ちっと、舌打ちをする。
「当たり。それを知ってるとなると、多分、うちの奴らやな」
「密輸業者にばれたってことは?」
「アホか。それでお前巻き込んだら、最悪、警察呼ばれるやろ。それなら、俺一人始末した方がずっとまし。場所変えるのでもいいやろうし」
「ああ、そうか。だけど、お前の身内って方が考えにくくないか?」
「…正也は、あいつらの外面しか知らんからなぁ」
常識外れの両親と兄、妹を思い浮かべる。さて、今回のこれは、誰がしでかしたものか。誰であってもさほどおかしくないところが、とてつもなく厭だ。
常識人の正也は、訝しげに眉をひそめる。
そこでふと、気付く。今日のこれは半ば突発的で、今日に決めた理由はといえば――妹の一言。そうして、近頃、何故か正也のことをしきりに気にしていたことも思い出す。
「妹や」
「え?」
「俺を捕まえるって息巻いてる奴と友達やってるなんて、不自然や、不義理やと、責められててなあ。実力行使に出やがった。大方、事実を知って悩みながらも一層深まる友情、あたりを期待したんやろう。好きやからなあ、少年漫画」
「そういう問題? それより、俺がお前のやってること知ってるって、言ってないの?」
正也が追っている泥棒が同級生の、とりあえず友人と呼べる人物であると知っているということは、とりあえずは秘密だ。露見すれば、澄樹はしょっ引かれてしまう。
正也の目的は勿論それなのだが、正々堂々と、現行犯で捕まえたいということだ。
趣味が泥棒だ、と告げた澄樹を正也は妙なものを見る目で見たが、澄樹に言わせれば、正也だって、趣味で泥棒を追いかけているとしか思えない。
だからと言って、実は趣味ではなく家業だと、告げるわけにもいかない。
「言わんやろ、普通。正也やって、誰にも言ってないんやろ?」
「ああ、そうか。それと一緒か。いやでも、だからって実力行使…って、お前が泥棒やってることは知ってるのか? それもどうなんだよ」
無言で、肩をすくめる。
あ、でもと、正也は声に出して言って、にっこりと笑顔を見せた。ただし、演出は恐怖映画で。
「これって、絶好の機会だよな。犯人は逃げられないんだから。妹さんのシナリオに添えないのは、申し訳ないけど」
「…これはこれでありと思われてそうで、めっちゃ厭」
さてどうしたものかと、笑顔でじりじりと距離をあけながら、声にはせずに呟く澄樹だった。
「何や正也、よくここが判ったな」
「判ったなって…予告状、お前が出したんじゃないのか?」
懐中電灯を、何を思ってか下から照らす同級生は、恐怖映画の主人公や脇役のような演出で、不思議そうに目を見張る。
うん? と眉をひそめた澄樹は、はっとして、先ほど入ってきたばかりの鉄扉にとって返した。が、鍵がかかっている。港近くの倉庫で、出入り口はそこしかない。いや、もう一つ、あるにはあるが、そこへ繋がる扉に鍵がかかっている。
うわぁと口の中で呟いている間に、右後方に少年がやってきていた。
「何か起きたのか?」
「閉じ込められた」
「…。どうして」
嘘は泥棒の始まりという。それなら、泥棒は嘘をつかない完全なる正直者ではないはずだが、正也は、閉じ込められたという言葉自体を疑おうとはしない。
本当に、これは、愛すべき馬鹿だ。
「まず、順番に事態を追っていこう。正也。なんでここに来た」
「だから、お前が…って、違うのか。偽の予告状が来たんだ。ここに盗み入るって、時刻と一緒に書いてあった。狙うのは、密輸品の中のブルー・ダイヤ。これは本当か?」
ちっと、舌打ちをする。
「当たり。それを知ってるとなると、多分、うちの奴らやな」
「密輸業者にばれたってことは?」
「アホか。それでお前巻き込んだら、最悪、警察呼ばれるやろ。それなら、俺一人始末した方がずっとまし。場所変えるのでもいいやろうし」
「ああ、そうか。だけど、お前の身内って方が考えにくくないか?」
「…正也は、あいつらの外面しか知らんからなぁ」
常識外れの両親と兄、妹を思い浮かべる。さて、今回のこれは、誰がしでかしたものか。誰であってもさほどおかしくないところが、とてつもなく厭だ。
常識人の正也は、訝しげに眉をひそめる。
そこでふと、気付く。今日のこれは半ば突発的で、今日に決めた理由はといえば――妹の一言。そうして、近頃、何故か正也のことをしきりに気にしていたことも思い出す。
「妹や」
「え?」
「俺を捕まえるって息巻いてる奴と友達やってるなんて、不自然や、不義理やと、責められててなあ。実力行使に出やがった。大方、事実を知って悩みながらも一層深まる友情、あたりを期待したんやろう。好きやからなあ、少年漫画」
「そういう問題? それより、俺がお前のやってること知ってるって、言ってないの?」
正也が追っている泥棒が同級生の、とりあえず友人と呼べる人物であると知っているということは、とりあえずは秘密だ。露見すれば、澄樹はしょっ引かれてしまう。
正也の目的は勿論それなのだが、正々堂々と、現行犯で捕まえたいということだ。
趣味が泥棒だ、と告げた澄樹を正也は妙なものを見る目で見たが、澄樹に言わせれば、正也だって、趣味で泥棒を追いかけているとしか思えない。
だからと言って、実は趣味ではなく家業だと、告げるわけにもいかない。
「言わんやろ、普通。正也やって、誰にも言ってないんやろ?」
「ああ、そうか。それと一緒か。いやでも、だからって実力行使…って、お前が泥棒やってることは知ってるのか? それもどうなんだよ」
無言で、肩をすくめる。
あ、でもと、正也は声に出して言って、にっこりと笑顔を見せた。ただし、演出は恐怖映画で。
「これって、絶好の機会だよな。犯人は逃げられないんだから。妹さんのシナリオに添えないのは、申し訳ないけど」
「…これはこれでありと思われてそうで、めっちゃ厭」
さてどうしたものかと、笑顔でじりじりと距離をあけながら、声にはせずに呟く澄樹だった。
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