地球と地球儀の距離

来条恵夢

文字の大きさ
上 下
59 / 95

 2005/12/13

しおりを挟む
 暗闇にあかりがともり、緊張感めいたものを抱きつつ目を凝らした澄樹スミキは、照らし出された顔を見て、首をかしげた。

「何や正也マサヤ、よくここが判ったな」
「判ったなって…予告状、お前が出したんじゃないのか?」

 懐中電灯を、何を思ってか下から照らす同級生は、恐怖映画の主人公や脇役のような演出で、不思議そうに目を見張る。
 うん? と眉をひそめた澄樹は、はっとして、先ほど入ってきたばかりの鉄扉にとって返した。が、鍵がかかっている。港近くの倉庫で、出入り口はそこしかない。いや、もう一つ、あるにはあるが、そこへ繋がる扉に鍵がかかっている。
 うわぁと口の中で呟いている間に、右後方に少年がやってきていた。

「何か起きたのか?」
「閉じ込められた」
「…。どうして」

 嘘は泥棒の始まりという。それなら、泥棒は嘘をつかない完全なる正直者ではないはずだが、正也は、閉じ込められたという言葉自体を疑おうとはしない。
 本当に、これは、愛すべき馬鹿だ。

「まず、順番に事態を追っていこう。正也。なんでここに来た」
「だから、お前が…って、違うのか。偽の予告状が来たんだ。ここに盗み入るって、時刻と一緒に書いてあった。狙うのは、密輸品の中のブルー・ダイヤ。これは本当か?」

 ちっと、舌打ちをする。

「当たり。それを知ってるとなると、多分、うちの奴らやな」
「密輸業者にばれたってことは?」
「アホか。それでお前巻き込んだら、最悪、警察呼ばれるやろ。それなら、俺一人始末した方がずっとまし。場所変えるのでもいいやろうし」
「ああ、そうか。だけど、お前の身内って方が考えにくくないか?」
「…正也は、あいつらの外面そとづらしか知らんからなぁ」

 常識外れの両親と兄、妹を思い浮かべる。さて、今回のこれは、誰がしでかしたものか。誰であってもさほどおかしくないところが、とてつもなく厭だ。
 常識人の正也は、いぶかしげに眉をひそめる。
 そこでふと、気付く。今日のこれは半ば突発的で、今日に決めた理由はといえば――妹の一言。そうして、近頃、何故か正也のことをしきりに気にしていたことも思い出す。

「妹や」
「え?」
「俺を捕まえるって息巻いてる奴と友達やってるなんて、不自然や、不義理やと、責められててなあ。実力行使に出やがった。大方、事実を知って悩みながらも一層深まる友情、あたりを期待したんやろう。好きやからなあ、少年漫画」
「そういう問題? それより、俺がお前のやってること知ってるって、言ってないの?」

 正也が追っている泥棒が同級生の、とりあえず友人と呼べる人物であると知っているということは、とりあえずは秘密だ。露見すれば、澄樹はしょっ引かれてしまう。
 正也の目的は勿論もちろんそれなのだが、正々堂々と、現行犯で捕まえたいということだ。
 趣味が泥棒だ、とげた澄樹を正也は妙なものを見る目で見たが、澄樹に言わせれば、正也だって、趣味で泥棒を追いかけているとしか思えない。
 だからと言って、実は趣味ではなく家業だと、告げるわけにもいかない。

「言わんやろ、普通。正也やって、誰にも言ってないんやろ?」
「ああ、そうか。それと一緒か。いやでも、だからって実力行使…って、お前が泥棒やってることは知ってるのか? それもどうなんだよ」

 無言で、肩をすくめる。
 あ、でもと、正也は声に出して言って、にっこりと笑顔を見せた。ただし、演出は恐怖映画で。

「これって、絶好の機会だよな。犯人は逃げられないんだから。妹さんのシナリオに添えないのは、申し訳ないけど」
「…これはこれでありと思われてそうで、めっちゃ厭」

 さてどうしたものかと、笑顔でじりじりと距離をあけながら、声にはせずに呟く澄樹だった。  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

処理中です...