36 / 95
なぜ 2004/4/17
しおりを挟む
雪の降る夜。
セルフェウスは、雪道を歩いていた。人通りの少ない、山のすそ野のようなところを歩いていると、手が見えた。
手。
「…は?」
煙草の煙をくゆらせながら、雪に埋もれた手を見て、どうしたものかと、少し考えた。
「おい、生きてるか?」
とりあえず、爪先でつついてみる。
小さな雪山が揺れたような気がして、しゃがみ込む。
「生きてるか?」
雪を積もらせて、倒れた人間。
拾うとすれば、厄介な荷物には違いないが――
「生きたいか?」
返事はない。手を握る。かすかにではあるが、握り返された。
もちろんセルフェウスは、それが意志ではなく反射の結果であるだろうことは知っている。しかし、だからこそ、まだ生きているということが判る。
生きているのなら、それが例え無意識でも、生きようとしているのなら、見捨てようとは思わない。
肩をすくめて、冷え切った手を引っ張り上げる。思っていたよりも軽かった。
「ん……?」
リリィアが目覚めたのは、質素ながらも暖かい部屋だった。
見覚えは、一切無い。
「飲むか?」
突然、目の前に出されたカップと、それを持つ男を見る。そり損ねたらしい無精ひげが、似合ってしまっている。
しばらく男とカップを見比べて迷っていたが、盛大に腹が空腹を訴え、苦笑されながらカップを手渡された。その前に、体を起こすのも手伝ってくれた。どうも、慣れているようだった。
「…あなたは? 私、どうしてここに…」
「とりあえず、もう少し休みが必要だな。話を聞くのもするのも、後だ。ゆっくり休め」
まるで子供にするように、軽く頭をなでる。幼い日の、危険の心配もしなかった頃のことを思い出す。すっと、眠りが訪なった。
「厄介なもん、拾っちまったなあ」
本当にそう思っているのか怪しいような口調で、セルフェウスは呟いた。少女に気遣ってか、くわえている煙草には、火はついていなかった。
セルフェウスは、雪道を歩いていた。人通りの少ない、山のすそ野のようなところを歩いていると、手が見えた。
手。
「…は?」
煙草の煙をくゆらせながら、雪に埋もれた手を見て、どうしたものかと、少し考えた。
「おい、生きてるか?」
とりあえず、爪先でつついてみる。
小さな雪山が揺れたような気がして、しゃがみ込む。
「生きてるか?」
雪を積もらせて、倒れた人間。
拾うとすれば、厄介な荷物には違いないが――
「生きたいか?」
返事はない。手を握る。かすかにではあるが、握り返された。
もちろんセルフェウスは、それが意志ではなく反射の結果であるだろうことは知っている。しかし、だからこそ、まだ生きているということが判る。
生きているのなら、それが例え無意識でも、生きようとしているのなら、見捨てようとは思わない。
肩をすくめて、冷え切った手を引っ張り上げる。思っていたよりも軽かった。
「ん……?」
リリィアが目覚めたのは、質素ながらも暖かい部屋だった。
見覚えは、一切無い。
「飲むか?」
突然、目の前に出されたカップと、それを持つ男を見る。そり損ねたらしい無精ひげが、似合ってしまっている。
しばらく男とカップを見比べて迷っていたが、盛大に腹が空腹を訴え、苦笑されながらカップを手渡された。その前に、体を起こすのも手伝ってくれた。どうも、慣れているようだった。
「…あなたは? 私、どうしてここに…」
「とりあえず、もう少し休みが必要だな。話を聞くのもするのも、後だ。ゆっくり休め」
まるで子供にするように、軽く頭をなでる。幼い日の、危険の心配もしなかった頃のことを思い出す。すっと、眠りが訪なった。
「厄介なもん、拾っちまったなあ」
本当にそう思っているのか怪しいような口調で、セルフェウスは呟いた。少女に気遣ってか、くわえている煙草には、火はついていなかった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる