地球と地球儀の距離

来条恵夢

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空 2003/5/20

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 時々、泣きたくなるような空がある。
 何故なのかはわからないのだが、泣きたくなるのだ。
 それは、白と青の対比あざやかな空だったり深い赤の空だったり濃紺にぽつぽつと白い星の浮かぶ空だったりで、一定しない。一つ断言するならば、それはとてつもなくきれいなのだ。

 そんな空に出会ったとき、佐奈サナはオオムネ実際に泣く。
 なるべく人の居ない場所に駆け込んで、ぼけっと空を見上げて「泣く」。
 佐奈はそんな泣き場所をいくつも持っているが、それは田舎ゆえの利点だと認識していた。心底、田舎に暮らしていて良かったと思う。

 この日も、そんな空が広がっていた。

 夕暮れに、薄く闇色付いていく空を見上げる視線が、にじむ。泣きながら寝ると耳に涙が入って中耳炎になるらしいので、しっかりとハンカチの用意もしている。

「お? なんだお前、また泣いてるのか」

 呆れたような面白がるような声と能天気な犬の鳴き声が聞こえて、佐奈はただ真っ直ぐに上に向けていた目線をずらした。
 眼鏡をかけたひょろりとした青年が居る。

「カズ兄ちゃんこそ。なんでいっつも、あたしが行くとこに出現するの」
「タクの散歩」

 比較的最近やってきた数雄カズオは、薄茶色の毛をした柔らかそうな子犬を持ち上げて見せた。
 抱かれた子犬が、嬉しそうに尾を振っている。
 数雄は、十七歳の一応高校二年生。しかし今は、学校には行っていない。ある日突然に、行けなくなったらしい。
 だから数雄は、この片田舎に黒のボストンバックと汚れた子犬を一匹つれただけでやってきた。

「何が見える?」

 はじめて泣いているのを見られたとき、数雄は見て見ぬ振りをして立ち去った。
 声をかけられたのは、それからもう五回ほどは泣いているときに遭遇した後だった。失恋でもしたのかと思ったと、そのとき数雄は言った。
 今ではなんとなく会話を交わすが、こんな風に訊いてくるのははじめてだった。

「空。凄くきれい」

 ごろんと、数雄も佐奈の隣に寝転ねころんだ。

「ああ、ホントだ」

 その一言が、耳に心地良かった。

 それから何度か、佐奈と数雄は一緒に空を見上げた。ぽつりぽつりと雲や星について話す数雄は、とても博識だった。
 数雄が去ったのは、夏の終わりだった。たった半年、それだけだった。

 今でも佐奈は、泣きたくなるような空に出会う。
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