地球と地球儀の距離

来条恵夢

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疑問 2003/1/ 8

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 二人は刀を構えた。
 一本は日本刀、もう一本は青竜刀。どちらも、刀身は青白く光っている。
 対する二人の前には、体が猿で尾が蛇という、ぬえを連想させる…というか、出来損ないのような妖物。
 二人と一匹だけが、そこにはいた。


「前から、気になってたんだけど」
「ん?」

 ともにまだ小学生か中学生くらいの二人は、驚くほど似ていた。一目で双子と判る。もしこれで、表情の変化がなければ、本人たちでさえ見分けることは不可能だっただろう。

「どうして、同じようにお祖父じいさんに剣道習ってて、そんな構えになる?」

 背筋を伸ばして上段に構える少年に対して、もう一人の少年は、軽く曲げた右足を前方の中空に出し、右手を婉曲させて剣の先を妖物に向けて構えている。
 きっちりと服を着込んだ少年は、答を求めて、妖物を挟んで立つ少年を見た。こちらは、動きやすさだけを重視したくたびれたような服を着て、腰にはモデルガンがある。

「えーと。毎朝の太極拳の成果と、香港アクション映画の真似したらこうなったのと、どっちだと思う?」
「…馬鹿だろう、実は」
「今更気付くなよ。十三年も一緒に過ごしてきてそれか」

 呆れたような表情をするが、構えは崩さない。見事なものだった。
 少年二人に挟まれた妖物は、猿の顔に、明らかな威嚇の表情を浮かべていた。この間に逃げればいいようなものだが、結界が張られているため、そうはいかなかった。

「ってかさー。いいかげん、疲れるんだけど。まだみつかんないの? こいつの弱点」
「弱点じゃなくて急所」
「いっしょいっしょ」

 気楽に言う少年に、溜息をつく。それならお前がやれと言いたいが、じゃあ頭を切り落とそう、と即答されるのはわかっている。経験済みだった。
 あの時は、落とした首に更に襲われ、二人は生死の境をさまよいかけた。遅いことを心配した従兄弟が近くにいなければ、本当にあの世にでも行っていたかもしれない。
 いっそ、一人でやったほうが危険度が下がる気がする。
 それでも少年――サイには、ケンが必要だった。

尻尾しっぽ。多分。…あ。それと咽喉のど。……で、終わり」
「んじゃ、俺ノドな」

 あっさりと言う。
 いつも思う。この兄弟には、恐怖心はないのだろうか。急所を探るために閉じていた眼を開くと、自分によく似た、だが確実に違う顔が笑みさえ浮かべていた。

「お前、尻尾。いいな?」

 うん。肯くと、二人は全く同時に飛び掛った。


 最後に浄化用の水をいて、終わり。
 聖水の入っていたペットボトルの蓋を閉めて、うし、と呟く。相方を見やると、脱力したような呆けたようなかおをしていた。

「砕? おーい? 帰らねえの?」

 二人の手に、もう刀はない。
 建は、あれを精神物質か何かだろうと理解している。理解というと違うのだが、あるものはあるのだろうし、それを区分付けるなら精神物質になるのだろうという、漫画から引っ張ってきた知識が固定したものだった。
 両隣を空家に囲まれ、裏は川でその向こうは山。残る一辺に対する小道と砕を見比べ、建は頭を傾げた。
 こんな空き地で、まだ何をするというのか。清めは終わったし、そろそろ日付が変わる。明日も学校のある身としては、はやく帰って寝たいところだ。

「建は」
「はい?」
「強いね」
「はいぃ?」

 月明かりの下でまじまじと砕の顔を見て、建はどうにか舌打ちをとどまった。砕がこういうかおをするときは、大抵がたいしたことのない事を気にしているときだ。
 建には大したことがなくても、砕には違う。それが酷くもどかしかった。

「怖くない? 僕は怖い。一人前でもないのに、こうやってることが、ひどく怖い」
「あーのーなー」

 がっくりと首を落として、建は言った。ペットボトルを、モデルガンと一緒にベルトにとめる。

「俺が怖くないって思ってると思う? なわけないだろ。じいちゃんに散々話聞かされてんだぜ? ありゃ絶対、体験記じゃなくて怪談だ」
「でも」
「何を勘違いしてるかしらねえけど、俺が大丈夫に見えてるんだとしたら、お前がいるからだ。こればっかは、半人前でよかったと思ってる」

 砕と建は、半人前だ。
 能力が半人前というなら、前例はいくらだってある。特殊なのは、双子だったせいか、能力まで「一人分」を分け合ってしまった点だ。もっとも、砕が九割弱に対して建が一割強といったところだが。
 その上、砕の持つ力は、建がいなければ最大限の発揮はできない。力はこれから鍛えることもできるが、この特異体質ばかりはどうなるかわからない。
 そのため、二人は必ず一組で依頼を受けるのだ。

「ほら、帰る。また学校休むつもりか?」
「…うん」

 月明かりに照らされながら、二人は歩いていった。
 ちなみに、建が車を呼ぶということに思い至ったのは、翌日の朝のことだった。歩きたいのかと思った、という砕の言葉頭をかきむしったのは、言うまでもない。
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