20 / 21
サイドストーリー・王子の後悔
絶望の底で
しおりを挟む
『わた、私はそんなっ!殿下に虚偽なんて言っておりません!そうでしょう殿下?!私、オフィーリア様が私に何かしたなどと、言っておりませんっっ!そうですよね?』
恐怖に顔を引き攣らせながらも、最後には口角を上げた、庇護した気でいた女の弁明する姿が浮かぶ。
「くそっっっ!あの女さえっ!あいつさえっ……!」
『躍起になられても、娘は帰ってきませんがね……』
射る様に貫かれた宰相の最後の眼差しが、苛立ちの色を謝罪へと変えさせる。
「すまないっすまないっっ」
『私は何もやっておりません!』
涙をこぼして捕らえられた、悲痛な姿に手を伸ばすが届かずに宙を掻く。
「オフィーリア……オフィーリアっ!」
腕が過ったがオフィーリアは花びらに覆われて、幼い日のオフィーリアに姿が変わる。
『およめさんに……』
「オフィー……リア……っ!」
大切だと感じたことは嘘では無かったはずなのに、あの日からやり直せたらと願望が見せる幻は
『 もうなれないね 』
「ぐぅぅっっっ……すまない……」
「ぅ……ぅ゛あああああっ!」
絶叫を上げて身体を起こした。
今日もまた過ちの夢と、苛む声が聞こえる。
「ハァ……ハァ……ハァ……くそっ、すまない、すまない……知らなかったんだ……!」
まだ明け切らない時間にこうして飛び起きるのは何度目だろう。
あの葬儀の日から、まともに眠れない日々が続いている。
寝台の上で懺悔を繰り返すうちに、日が差し込み薄らと部屋が明るくなってくると、使用人が朝の身支度のために静かに入ってくる。
殿下の顔を見るなり、表情を一層暗くする使用人に目もくれずに、ぼんやりと窓の外へ視線を向けていた。
どうしてもっと周りの言葉を聞いて知ろうとしなかったのか?
どうして簡単に惑わされて、気づかなかったのか?
幾つもの後悔が降り積もって、息が苦しくて仕方がなかった。
オフィーリアと出会った当初は好ましく思っていた。
一緒に勉強を頑張る姿も、笑顔で励まし合った時も。
同じ菓子が好き、同じ香りが好き。
幾つもの共通点を見つけては、くすぐったく思った。
それは成長するにつれて、少しずつ変わっていった。
厳しいと評判の教師に褒められていたのが羨ましいと思った。
彼女の周りには、いつも彼女を慕う者が多く集まった。
はっきりと注意されることが増えた。
長い時間共有して、同じところを見つけていったはずなのに、いつの間にか違うところばかりを探してしまっていた。
「どうして……」
答えを探して考えに耽る。
その時、胸の奥底にあった小さなものに、ようやく気づいた。
「あぁ……そうか……俺は…………」
信じられない思いで、その気持ちを噛み締める。だけど、もう目を逸らすことができない。
目からは失望の涙が溢れる。抑える様に手で顔を覆うが、隙間からは止めどなく抑えきれなかった涙が溢れていく。
「俺は……君に嫉妬していたのか……」
コトリと胸の奥で音が鳴った気がした。
恐怖に顔を引き攣らせながらも、最後には口角を上げた、庇護した気でいた女の弁明する姿が浮かぶ。
「くそっっっ!あの女さえっ!あいつさえっ……!」
『躍起になられても、娘は帰ってきませんがね……』
射る様に貫かれた宰相の最後の眼差しが、苛立ちの色を謝罪へと変えさせる。
「すまないっすまないっっ」
『私は何もやっておりません!』
涙をこぼして捕らえられた、悲痛な姿に手を伸ばすが届かずに宙を掻く。
「オフィーリア……オフィーリアっ!」
腕が過ったがオフィーリアは花びらに覆われて、幼い日のオフィーリアに姿が変わる。
『およめさんに……』
「オフィー……リア……っ!」
大切だと感じたことは嘘では無かったはずなのに、あの日からやり直せたらと願望が見せる幻は
『 もうなれないね 』
「ぐぅぅっっっ……すまない……」
「ぅ……ぅ゛あああああっ!」
絶叫を上げて身体を起こした。
今日もまた過ちの夢と、苛む声が聞こえる。
「ハァ……ハァ……ハァ……くそっ、すまない、すまない……知らなかったんだ……!」
まだ明け切らない時間にこうして飛び起きるのは何度目だろう。
あの葬儀の日から、まともに眠れない日々が続いている。
寝台の上で懺悔を繰り返すうちに、日が差し込み薄らと部屋が明るくなってくると、使用人が朝の身支度のために静かに入ってくる。
殿下の顔を見るなり、表情を一層暗くする使用人に目もくれずに、ぼんやりと窓の外へ視線を向けていた。
どうしてもっと周りの言葉を聞いて知ろうとしなかったのか?
どうして簡単に惑わされて、気づかなかったのか?
幾つもの後悔が降り積もって、息が苦しくて仕方がなかった。
オフィーリアと出会った当初は好ましく思っていた。
一緒に勉強を頑張る姿も、笑顔で励まし合った時も。
同じ菓子が好き、同じ香りが好き。
幾つもの共通点を見つけては、くすぐったく思った。
それは成長するにつれて、少しずつ変わっていった。
厳しいと評判の教師に褒められていたのが羨ましいと思った。
彼女の周りには、いつも彼女を慕う者が多く集まった。
はっきりと注意されることが増えた。
長い時間共有して、同じところを見つけていったはずなのに、いつの間にか違うところばかりを探してしまっていた。
「どうして……」
答えを探して考えに耽る。
その時、胸の奥底にあった小さなものに、ようやく気づいた。
「あぁ……そうか……俺は…………」
信じられない思いで、その気持ちを噛み締める。だけど、もう目を逸らすことができない。
目からは失望の涙が溢れる。抑える様に手で顔を覆うが、隙間からは止めどなく抑えきれなかった涙が溢れていく。
「俺は……君に嫉妬していたのか……」
コトリと胸の奥で音が鳴った気がした。
505
お気に入りに追加
3,674
あなたにおすすめの小説
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
王家も我が家を馬鹿にしてますわよね
章槻雅希
ファンタジー
よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。
『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。
今さら救いの手とかいらないのですが……
カレイ
恋愛
侯爵令嬢オデットは学園の嫌われ者である。
それもこれも、子爵令嬢シェリーシアに罪をなすりつけられ、公衆の面前で婚約破棄を突きつけられたせい。
オデットは信じてくれる友人のお陰で、揶揄されながらもそれなりに楽しい生活を送っていたが……
「そろそろ許してあげても良いですっ」
「あ、結構です」
伸ばされた手をオデットは払い除ける。
許さなくて良いので金輪際関わってこないで下さいと付け加えて。
※全19話の短編です。
元婚約者は戻らない
基本二度寝
恋愛
侯爵家の子息カルバンは実行した。
人前で伯爵令嬢ナユリーナに、婚約破棄を告げてやった。
カルバンから破棄した婚約は、ナユリーナに瑕疵がつく。
そうなれば、彼女はもうまともな縁談は望めない。
見目は良いが気の強いナユリーナ。
彼女を愛人として拾ってやれば、カルバンに感謝して大人しい女になるはずだと考えた。
二話完結+余談
契約破棄された聖女は帰りますけど
基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」
「…かしこまりました」
王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。
では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。
「…何故理由を聞かない」
※短編(勢い)
【短編】捨てられた公爵令嬢ですが今さら謝られても「もう遅い」
みねバイヤーン
恋愛
「すまなかった、ヤシュナ。この通りだ、どうか王都に戻って助けてくれないか」
ザイード第一王子が、婚約破棄して捨てた公爵家令嬢ヤシュナに深々と頭を垂れた。
「お断りします。あなた方が私に対して行った数々の仕打ち、決して許すことはありません。今さら謝ったところで、もう遅い。ばーーーーーか」
王家と四大公爵の子女は、王国を守る御神体を毎日清める義務がある。ところが聖女ベルが現れたときから、朝の清めはヤシュナと弟のカルルクのみが行なっている。務めを果たさず、自分を使い潰す気の王家にヤシュナは切れた。王家に対するざまぁの準備は着々と進んでいる。
妹を叩いた?事実ですがなにか?
基本二度寝
恋愛
王太子エリシオンにはクアンナという婚約者がいた。
冷たい瞳をした婚約者には愛らしい妹マゼンダがいる。
婚約者に向けるべき愛情をマゼンダに向けていた。
そんな愛らしいマゼンダが、物陰でひっそり泣いていた。
頬を押えて。
誰が!一体何が!?
口を閉ざしつづけたマゼンダが、打った相手をようやく口にして、エリシオンの怒りが頂点に達した。
あの女…!
※えろなし
※恋愛カテゴリーなのに恋愛させてないなと思って追加21/08/09
【完結済】後悔していると言われても、ねぇ。私はもう……。
木嶋うめ香
恋愛
五歳で婚約したシオン殿下は、ある日先触れもなしに我が家にやってきました。
「君と婚約を解消したい、私はスィートピーを愛してるんだ」
シオン殿下は、私の妹スィートピーを隣に座らせ、馬鹿なことを言い始めたのです。
妹はとても愛らしいですから、殿下が思っても仕方がありません。
でも、それなら側妃でいいのではありませんか?
どうしても私と婚約解消したいのですか、本当に後悔はございませんか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる