上 下
38 / 41

悪役ではなく

しおりを挟む
 エレノアの言葉に、クレアは激昂して赤くなった顔を一気に青くさせた。


「な…!なんで…?!」

「だってそうでしょ?
 真実はどうあれ、貴族の底辺である男爵の……それも庶子が、殿下に横恋慕して、殿下の婚約者である私に妄言を吐いて危害を加えたのよ?
 温情ある処分で済まそうとしている慈悲深い私に、どんな証言をするのかしら?
『待ち伏せして揉みあって、勝手に落ちて行ったのです』とか?周りがどう思って行動するか…止めきれなかったらごめんなさいね?」

「あんたがそうしろっって言ったんじゃない!」
「もぅ、ちゃんと聞いてらして?『やりたいならやってみたら?』と言ったの。発言は自己責任よ?私の責任になさらないで」


 まるで出来の悪い小さな生徒を諭すように言ったエレノアは、青ざめたクレアに「分かったかしら?」と小首を傾げて優しく微笑む。


「…あなたの失敗は私を巻き込んだことよ。私に関わらなければ、放っておいたもの。
 そうしたらうまく行った可能性は、ほんの少しくらいあるかしら?遠い地で、仲良く慎ましやかに過ごす事くらいは叶ったかもしれないわね。何人道連れにする気だったか知らないけど」
「遠い…なん…でよ」

「だから、貴女が最下位の男爵令嬢で庶子だからよ?
 まずは殿下。王族に嫁ぐには侯爵家以上、状況によって伯爵家からと定められているの。だからそもそも奪えたとしても廃嫡は決定ね。
 次にどなたにも言えることだけれど、家が決めた婚約を、子が正当な理由なく覆す事など以ての外。その上利益にもならない貴女を、後釜に据えて喜んで迎えるはず無いでしょう?
 だからね?なんとか上手く奪えたとしても、その先は無いのよ」



 事実を淡々と語るエレノアに、反論出来ようもなく、クレアはハクハクと口を開閉させる。



「キチンと学べばヒントは沢山あったのに。貴族の学園に通う貴女が『知らなかった』では済まされないわ。
 私が言えるのはこんなところかしら。足掻きたいなら足掻きなさいな。止めはしないわ。いつでも遊んであげてよ?では、ご機嫌よう」


 言い終えたとばかりに背中を向けて去ろうとするエレノアに、クレアは口汚く暴言をぶつけた。



「このっクソ悪役令嬢!」



 暴言の意味がわからず、振り返って目を瞬かせるエレノアは、次の瞬間には綺麗な淑女の微笑みを作る。


「悪役だなんて…ふふふ。そんなベタなものに分類しないで?私はそうねぇ…言うなればフィクサーかしらね?」


 ウフフと微笑み去っていくエレノアの背中を、クレアは今度こそ呆然とした面持ちで黙って見つめた。
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

【完結】フェリシアの誤算

伽羅
恋愛
前世の記憶を持つフェリシアはルームメイトのジェシカと細々と暮らしていた。流行り病でジェシカを亡くしたフェリシアは、彼女を探しに来た人物に彼女と間違えられたのをいい事にジェシカになりすましてついて行くが、なんと彼女は公爵家の孫だった。 正体を明かして迷惑料としてお金をせびろうと考えていたフェリシアだったが、それを言い出す事も出来ないままズルズルと公爵家で暮らしていく事になり…。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

公爵令嬢エイプリルは嘘がお嫌い〜断罪を告げてきた王太子様の嘘を暴いて差し上げましょう〜

星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「公爵令嬢エイプリル・カコクセナイト、今日をもって婚約は破棄、魔女裁判の刑に処す!」 「ふっ……わたくし、嘘は嫌いですの。虚言症の馬鹿な異母妹と、婚約者のクズに振り回される毎日で気が狂いそうだったのは事実ですが。それも今日でおしまい、エイプリル・フールの嘘は午前中まで……」  公爵令嬢エイプリル・カコセクナイトは、新年度の初日に行われたパーティーで婚約者のフェナス王太子から断罪を言い渡される。迫り来る魔女裁判に恐怖で震えているのかと思われていたエイプリルだったが、フェナス王太子こそが嘘をついているとパーティー会場で告発し始めた。 * エイプリルフールを題材にした作品です。更新期間は2023年04月01日・02日の二日間を予定しております。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。

悪役令嬢ってこれでよかったかしら?

砂山一座
恋愛
第二王子の婚約者、テレジアは、悪役令嬢役を任されたようだ。 場に合わせるのが得意な令嬢は、婚約者の王子に、場の流れに、ヒロインの要求に、流されまくっていく。 全11部 完結しました。 サクッと読める悪役令嬢(役)。

【完結】溺愛される意味が分かりません!?

もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢 ルルーシュア=メライーブス 王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。 学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。 趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。 有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。 正直、意味が分からない。 さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか? ☆カダール王国シリーズ 短編☆

姉の厄介さは叔母譲りでしたが、嘘のようにあっさりと私の人生からいなくなりました

珠宮さくら
恋愛
イヴォンヌ・ロカンクールは、自分宛てに届いたものを勝手に開けてしまう姉に悩まされていた。 それも、イヴォンヌの婚約者からの贈り物で、それを阻止しようとする使用人たちが悪戦苦闘しているのを心配して、諦めるしかなくなっていた。 それが日常となってしまい、イヴォンヌの心が疲弊していく一方となっていたところで、そこから目まぐるしく変化していくとは思いもしなかった。

【完結】その人が好きなんですね?なるほど。愚かな人、あなたには本当に何も見えていないんですね。

新川ねこ
恋愛
ざまぁありの令嬢もの短編集です。 1作品数話(5000文字程度)の予定です。

悪役令嬢に転生したので、推しキャラの婚約者の立場を思う存分楽しみます

下菊みこと
恋愛
タイトルまんま。 悪役令嬢に転生した女の子が推しキャラに猛烈にアタックするけど聖女候補であるヒロインが出てきて余計なことをしてくれるお話。 悪役令嬢は諦めも早かった。 ちらっとヒロインへのざまぁがありますが、そんなにそこに触れない。 ご都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...