上 下
26 / 41

クレアの聴取

しおりを挟む
 クレアは状況を他人事のようにぼーっとしたまま脳内で眺めていた。

 暫くすると鍵の解錠音が聞こえ、開かれた扉からマーティンと警備員、騎士の3名が入ってきた。

 警備員は書き物机に座り、対面の椅子にはマーティンが座り、マーティンの後ろに騎士が見張るように距離を置いて立つ。


「オーガスティン嬢、何があったのか正直に話してくれ」
「マーティン…!私何もっっ!信じて!」


 ガタッと音を立てて、前のめりに立ち上がったクレアを、素早く騎士が押さえて座らせた。


「落ち着いてくれ。それから私も言ったと思うが、許しもしていないのに呼び捨てにしないでくれ」
「そんあ、マーティ」
「メルウォートだ。オーガスティン嬢」
「メルウォート…様」


 なんだか既視感のあるやりとりに、眉を寄せて戸惑うクレアに、マーティンは静かに声をかける。


「君は殿下の証言により、ハーレイ嬢が転落した時に、階段の最上部からハーレイ嬢に向けて手を伸ばした状態で立っていたと聞いている。
 私たちがその場に到着した時には階段上で手を胸の前で曲げて握り込み、殿下に向けて弁明をしているところだったが…」
「わっっ私何も!突き落としたりなんてしていないわ!あの女がいきなり…!」


 クレアの言葉に騎士はスッと射抜くように目を細め、腰に下げた剣に手をかけた。それを後ろ手に手をあげて制したマーティンは、クレアに初めて厳しい視線を向けた。


「オーガスティン嬢、目上の爵位の者を『あの女』などと言うな。弁えて発言しろ」


 凍てつくような視線を向けられたクレアは、たじろいで言葉をつまらせたが、先を言うように促される。


「わたしっっっ、そう、あの…ハーレイ様に呼び止められて…」
「なぜだ?」
「え…と、殿下…の事で…?」
「そもそも君はあの授業にいなかったはずだ。あの時間にあそこにいた理由は?」
「ゃ…ぇ…」


「待ち伏せていました」と言えるはずもなく、言葉に詰まったまま沈黙してしまったクレアに、マーティンはため息を溢した。
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

巻き戻される運命 ~私は王太子妃になり誰かに突き落とされ死んだ、そうしたら何故か三歳の子どもに戻っていた~

アキナヌカ
恋愛
私(わたくし)レティ・アマンド・アルメニアはこの国の第一王子と結婚した、でも彼は私のことを愛さずに仕事だけを押しつけた。そうして私は形だけの王太子妃になり、やがて側室の誰かにバルコニーから突き落とされて死んだ。でも、気がついたら私は三歳の子どもに戻っていた。

【完結】その人が好きなんですね?なるほど。愚かな人、あなたには本当に何も見えていないんですね。

新川ねこ
恋愛
ざまぁありの令嬢もの短編集です。 1作品数話(5000文字程度)の予定です。

逆行転生した侯爵令嬢は、自分を裏切る予定の弱々婚約者を思う存分イジメます

黄札
恋愛
侯爵令嬢のルーチャが目覚めると、死ぬひと月前に戻っていた。 ひと月前、婚約者に近づこうとするぶりっ子を撃退するも……中傷だ!と断罪され、婚約破棄されてしまう。婚約者の公爵令息をぶりっ子に奪われてしまうのだ。くわえて、不貞疑惑まででっち上げられ、暗殺される運命。 目覚めたルーチャは暗殺を回避しようと自分から婚約を解消しようとする。弱々婚約者に無理難題を押しつけるのだが…… つよつよ令嬢ルーチャが冷静沈着、鋼の精神を持つ侍女マルタと運命を変えるために頑張ります。よわよわ婚約者も成長するかも? 短いお話を三話に分割してお届けします。 この小説は「小説家になろう」でも掲載しています。

妹よ。そんなにも、おろかとは思いませんでした

絹乃
恋愛
意地の悪い妹モニカは、おとなしく優しい姉のクリスタからすべてを奪った。婚約者も、その家すらも。屋敷を追いだされて路頭に迷うクリスタを救ってくれたのは、幼いころにクリスタが憧れていた騎士のジークだった。傲慢なモニカは、姉から奪った婚約者のデニスに裏切られるとも知らずに落ちぶれていく。※11話あたりから、主人公が救われます。

執着はありません。婚約者の座、譲りますよ

四季
恋愛
ニーナには婚約者がいる。 カインという青年である。 彼は周囲の人たちにはとても親切だが、実は裏の顔があって……。

私を選ばなかったせいで破滅とかざまぁ、おかげで悪役令嬢だった私は改心して、素敵な恋人できちゃった

高岩唯丑
恋愛
ナナは同級生のエリィをいびり倒していた。自分は貴族、エリィは平民。なのに魔法学園の成績はエリィの方が上。こんなの許せない。だからイジメてたら、婚約者のマージルに見つかって、ついでにマージルまで叩いたら、婚約破棄されて、国外追放されてしまう。 ナナは追放されたのち、自分の行いを改心したら、素敵な人と出会っちゃった?! 地獄の追放サバイバルかと思いきや毎日、甘々の生活?! 改心してよかった!

どうして別れるのかと聞かれても。お気の毒な旦那さま、まさかとは思いますが、あなたのようなクズが女性に愛されると信じていらっしゃるのですか?

石河 翠
恋愛
主人公のモニカは、既婚者にばかり声をかけるはしたない女性として有名だ。愛人稼業をしているだとか、天然の毒婦だとか、聞こえてくるのは下品な噂ばかり。社交界での評判も地に落ちている。 ある日モニカは、溺愛のあまり茶会や夜会に妻を一切参加させないことで有名な愛妻家の男性に声をかける。おしどり夫婦の愛の巣に押しかけたモニカは、そこで虐げられている女性を発見する。 彼女が愛妻家として評判の男性の奥方だと気がついたモニカは、彼女を毎日お茶に誘うようになり……。 八方塞がりな状況で抵抗する力を失っていた孤独なヒロインと、彼女に手を差し伸べ広い世界に連れ出したしたたかな年下ヒーローのお話。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID24694748)をお借りしています。

処刑から始まる私の新しい人生~乙女ゲームのアフターストーリー~

キョウキョウ
恋愛
 前世の記憶を保持したまま新たな世界に生まれ変わった私は、とあるゲームのシナリオについて思い出していた。  そのゲームの内容と、今の自分が置かれている状況が驚くほどに一致している。そして私は思った。そのままゲームのシナリオと同じような人生を送れば、16年ほどで生涯を終えることになるかもしれない。  そう思った私は、シナリオ通りに進む人生を回避することを目的に必死で生きた。けれど、運命からは逃れられずに身に覚えのない罪を被せられて拘束されてしまう。下された判決は、死刑。  最後の手段として用意していた方法を使って、処刑される日に死を偽装した。それから、私は生まれ育った国に別れを告げて逃げた。新しい人生を送るために。 ※カクヨムにも投稿しています。

処理中です...