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 エレノアはクレアの調査を依頼した女子生徒を伴い、王族関係者しか使えない、特別なサロンで給仕に出されたお茶の香りを楽しんでいた。

 食堂でクレアと接触した一件があってから、クレアはメイナードを始め、側近たちと一緒にいる所を見られておらず、普通科の商会の息子とも距離を置かれているようだ。


「─というように、現在は一人で昼食を摂る事が多いようです」
「そう……商人の息子までも離れていくとは思わなかったわね」
「元々打算的な人物でしたので、高位貴族との繋がりを見出せなくなって離れたのでしょう」
「ふぅん?そういう方なのね。覚えておきましょう。
 ではそろそろ監視以外は元に戻しましょうか」
「承知いたしました」
「ごめんなさいね?こんな低次元なことに、お父様の子飼いである貴方達を使ってしまって」

「いいえ、主人である公爵様より仰せつかっておりますので。
 今のうちに対処しておかないと、最悪の場合ご主人様が王太子を変更してしまう事も考えられました。これでよかったのです」

「……………そうね。
 戯れるだけならまだしも、万が一子ができたり、私と婚約破棄などになれば、挿げ替えどころか簒奪すら起こしてしまいそうね」


 女子生徒は、エレノアの大袈裟とも言える予想に、反論することなく静かに頷き続けた。


「では、皆に伝えて参りますので、先に失礼いたします」


 スッと立ち上がり礼をすると、振り返ることなく立ち去っていく女子生徒を見つめ、エレノアは考えを巡らせる。



 エレノアは常に『どこの調整が必要か』を念頭に置くようにしている。

 不満があれば話を聞き、害意があれば取り除くと言ったように。

 しかしエレノアは聖人君子ではない。あくまで自分の環境に影響するものや、追々面倒ごとに発展しそうであればの範疇での対処である。

 気がついていても影響がなければ対象外とみなし、その相手がどうなろうと気にも留めない。
 気が乗れば“施し”ても良いかな、くらいには思うのだが。



 狙った全ての男性が目の前から消えた今、自分に絡んできた憐れな対象のクレアがどう行動するのか?

 エレノアはそのほっそりとした手を伸ばしてカップを手に取ると、綺麗な澄んだ赤褐色の表面が揺れる様を眺めて美しく、そして楽しげに微笑むのであった。
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