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すれ違い、からの悪夢再びです!

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 時刻は夕方、仕事も終わり自宅に帰り着いた僕は、軽く顔や手を洗い流すと、グァテマラ産のコーヒー豆を荒く挽き、コーヒーをドリップしていくのだった。

    部屋の中がほろ苦いコーヒーの香りに包まれていき、程なくお気に入りの1杯が出来ると、カップを近づけ匂いを嗅ぐ。 そして一口飲む。
    ほどよいコクと、芳醇な味わいに心が休まるひと時である。
    
  「やっと落ち着いた」

独りきりの部屋で、ぽつりとこぼす。

    僕は最近、忙しい日々が続いていた。
    託児所での勤務は楽しかったが、いつも元気いっぱいの子供達から毎日揉みくちゃになりながら、一日、また一日と時は過ぎていき、仕事から帰宅すると、料理や洗濯など家事をこなし、お風呂から上がってようやくゲームの時間となるのだった。
    
    この頃の僕は、少し疲れていたのかもしれません。
    ゲームをプレイして暫くは良かったのだが、時刻が夜中を廻ると、疲れからか途端に激しい眠気に襲われ、不意に意識が飛ぶようになったのでした。
     つまり、寝落ちをする様になってしまったのだった。
    
     それはある日のゲーム中でのこと
     ギルドのみんなにお休みを言って姫と二人きりになった時の出来事でした

    「ヒーロ?」

      会話の途中、日付けが変わったあたりでのこと、白姫が話しかけていたのだが、応答はなかったので、もう一度問いかけてみた。

    「ねぇ、ヒーロ?」
    「どうしたの?」
    「返事して!」

      相変わらず無反応だったので、さすがに少し不満に思ってしまう白姫であった。
      僕はその時、完全に寝落ちしていた為、いつの間にか朝になってしまった時には、次の日に白姫とのチャットの画面を見て、物凄く落ち込んでしまったのだった。

       その日ずっと、姫が怒ってるかもと思いながら、憂鬱な気分で過ごした。
       仕事も終わり、自宅に帰ると程なく、ゲームを始めた。
       僕は姫がインしてるのを確認すると、すぐにギルドのみんなに挨拶をし、姫に個チャで謝ろうとしたのでした。

       「姫、昨日は本当にごめんなさいです!」
       「疲れて寝落ちしてしまって、結果的に姫を途中で放置してしまったです!」

         会って早々、白姫に対しての謝罪からのスタートになったのである。

         「疲れてたのなら仕方ないの。」
         「次からは気をつけて欲しいけど!」

       そう言って 姫は許してくれたのでした。
       その場は丸く収まり、僕は心からホッとしたのだった。
       気をつけなきゃいけない、そう思いながら、僕はまたしても同じ過ちをしてしまうのだった。
        姫と一緒にいる時間が心地いいから、または落ち着くからなのか、深夜になると耐え難い眠気に襲われ、もちろん駄目だと思いながらもその日、会話の途中に意識が途切れるのでした。

         「次のイベントも頑張ろうね!」
         「もっとギルドが盛り上がるといいの!」
         「ヒーロ、何かいいアイデアとかある?」

        そう言って姫は、僕に意見を求めた。

          「ヒーロ?」
          「どうしたの?」

        だがしかし、僕からの返事は無く、虚しく時間ばかりが過ぎていく。

          「ヒーロ、またなの?」
          「私といるのがつまらないの?」

        白姫の少し怒ってるような、悲しいようなどちらともとれるチャットを、僕は次の日の朝、激しい後悔の中、読むことになるのだった。

            「また、やってしまった!」

          再び寝落ちした翌日の朝、
激しい後悔の中、僕は、姫にあわせる顔がないと、落ち込んでいた。

            「取り敢えず、謝ろう!」

         自分にそう言い聞かせ、仕事も終わり部屋に帰りそうそう、ゲームを起動し姫に挨拶をするのだった。

             「姫、また寝落ちして、本当にごめんです!」
             「約束守れなくて、ごめんです!」

          僕なりに、誠意を示したつもりではいたのだが、姫の答えは、

             「何度も寝落ちして、疲れてるのなら、もうゲームしなくていいの!」
             「もしかして、私と一緒は、楽しくないの?」

           姫は怒った口調で、そう伝えるのでした

              「そんな事、、、」
              「姫と一緒にいる時が楽しくない訳ないです!」
              「寝落ちしたのは僕が本当に悪かったです。 謝るので、どうか許して欲しいです!」

            まったく悪気があった訳じゃないのだが、自分のしてしまった事に、反省しつつも、
まさか、姫がここまで怒るなんて、考えてなかったのだった。
  
              「ヒーロ、私が今どんな気持ちなのか分からないの?」

            静かに、ただしあきらかに怒りのこもった感情のオーラを感じ、思わず怖気ついて しまった僕は、無言になってしまったのだった。

                「・・・・・・・・・・・・」


           しばらく何も言えずにいると、

                「どうして何も答えてくれないの?」
                「私の事、嫌いになってしまったの?」
                「ヒーロ、早くこたえて!」

            感情に任せた文が送られてきて、どんどん追い詰められていった僕は、

                「本当にごめんです。」

            その一言をようやく書き込んで、チャットから逃げてしまうのだった。

            そのままゲームをやめて、スマホをテーブルの上に投げ出してソファに倒れ込んだ。

                「どうしよう・・・。」

                「また傷つけてしまった。」

            自分のあまりに情けない、不甲斐なさに、思い切りへこんでしまった僕は、何も出来ずに呆然として、ただ時が過ぎるのを待つしかないのでした。

            どれくらいの時が過ぎたのか、いつしか暗くなってしまった部屋の灯りをつけて、コップに水を汲み、それを一口飲んだ時だった。

            不意に、ピンポーン と来客を告げる音がした。
             その時の自分は、落ち込んでいて誰だろうと考える余裕もなかったので、そのままドアを開け、

                「どちら様でしょうか?」

            と言いながら、相手の顔を見た。
            そしてそのまま、固まったのだった。

                「・・・・・・えっ!!」

            本当に微動だに出来ずに固まってしまった。というよりも凍りつくと言う方が正しい表現であった。

                「何でっ、どうしてここが?」

            そこに、自分の目の前にいたのは、かつての恋人だった。

                 「・・・・・・・・・、真由。」

            頭の中はごちゃごちゃになっていて、思考がうまくまとまらなかったが、ようやく元彼女の名前を口にし、そのままドアを閉めようとした。

                「待って、お願いだから少しだけでいいから私の話を聞いて欲しいのっ!」

            必死に訴えかけてくる口調にも、その時の自分には何も響いてはこなかった。

                「何も話すことなんてないから、すぐに帰って!」

            複雑な気持ち、今も心の中にトラウマとして残った傷が僕を支配していった。

            僕の心の中に未だに彼女に対してある未練、好きという感情がある事実、そして裏切りに対する絶対に許さないという憎しみの感情、其のどちらもがぐるぐると頭の中で駆け巡っていた。

            しかし、次に彼女が発した言葉はまったく予想だに出来ない驚きのものだった。

                「私の話を聞いて、ヒーロ!」

            真由はいきなりそう言った。

                「・・・・・・・・・、ヒーロ!?」

            僕の頭の中はさらに混乱した。
            どうして真由がゲーム内の僕のキャラの名前のことを知ってる?
             本当にいろんな事が立て続けに起こって、もう何も考えることが出来なくなっていた僕は、投げやりに、

                「中に入って。」

            ポツリと言ったのでした。

            面と向かわずに、横並びにソファに二人して腰掛け、 おもむろに真由のことを改めて見ると、思わずはっとした。

                「髪を切ったんだね。」

            以前の彼女のトレードマークであったポニーテールの姿は何処にもなく、短く切ったショートカットの髪型がそこにあった。

                「うん。」

            一言そう言った真由だった。

                「どうしてこの場所が分かったの?」

            いろいろ聞きたい事があったが、取り敢えずその事から聞いてみた。

            暫く無言だったのだが、おもむろに重たい口を開いた

                「いけない事だって事は分かってはいたけど、、、どうしても貴方の事が忘れられなくて、、、」

                「それで、いろいろ調べてたら友達から、貴方の居場所を知ってるって聞いて。」

                「でもいきなり私が来ても迷惑だろうし、ずっと我慢してたの。」

            しおらしく彼女はそう言った。

                「なるほど、その事は分かった。」

                「それじゃぁ、僕のゲーム内でのキャラの名前の事を何で知ってるのか説明してくれる?」

            僕が一番疑問に思った事を聞いてみたのだった。

                「真由もあのゲームをやってるって事なの?」

            いろいろ思うところはあったのだが、どうしても疑問には勝てなかったのでした。

                「うん。」

            真由はまたしても、一言だけそう言った。

            そんなことは今まで全く考えた事も無かった僕は、またしても好奇心に負けて、

                「なんてキャラでやってるの?」
 
            興味本位で、ただそれだけの意味でそう聞いてみたのだった。

                「怒らないで聞いてくれる?」

            少し小さな声で、以前の明るくハキハキとした声ではなく、今にも泣きそうになりながらも、そうつぶやき、

                「白姫って名前です。」

            真っ白になった。その時は本当に頭の中が完全に真っ白になってしまった。
 
            理解出来なかったし、その事実を理解したくなかった。 多分、おそらくそうなのだろうが認めたくない気持ちが大きかった。

                「有り得ないだろっ!」

            長い沈黙の後、思わず叫んでしまった。

            自分の気持ちが最早限界だった。何も考えたくなかった。そして、

                「ごめんだけど、今日はもう帰って、お願いだから。」

            僕は そう伝えるのが精一杯だった。

            真由は何も言わず立ち上がり玄関へ行き、帰り際

                「今日は本当にごめんなさい。また貴方に迷惑をかけてしまったわね。」

                「でも一言だけ、最後に言わせて欲しいの、」

                「私は以前貴方に対して、取り返しのつかない事をしてしまった。」

                「決して許されないかもしれないけど、、、それでも、、、今でもずっと、」

                「貴方のことを愛しています!」

            目に涙を浮かべた彼女はそう伝えると、玄関のドアを開け帰って行ったのだった。

            静寂の中で、いったい今何時なのかさえ分からなかったのだが、その日はもう何も考えたくなかった。そのままベッドに倒れ込むように倒れると、死んだように眠りについた。
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