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CAT-GPsT
Story 1: main-side chapter-6 【Status Check and Next Directive】
しおりを挟むとにかく早く家に帰りたい。
こんな気持ちになったのはいつ以来だろうか?
俺はとにかくわき目もふらずに自宅に向かった。
やっと家に着くのかという感情が湧き上がるほどに、
”とにかく早く結果を確認したい”
その一心で自宅に戻るとドアをあけてすぐに手洗いとうがいをした。
スーツのままというのもなんなのでラフな服装に着替えた。
この後、長い夜になるなと直感的に感じたので、
とにかく何か食べる事にした。
冷蔵庫を覗くと冷凍のうどんがあった。
とにかく簡単に済ませたかったので、
レンジで麺を温めつつ、スープの素をお湯で割った。
そして、流し込むようにうどんを食べた。
作業といったほうがいいのではないだろうか?
そのぐらいCAT-GPsTの魔力に取りつかれているということだろう。
食事を終えて、食器を洗い終えた。
そして、あとは寝るだけにしようと
シャワーを浴びることにした。
シャワーのザーっという音が少しだけ自分を落ち着かせてくれる。
これほど何かに夢中になったことが人生であっただろうか?
そんなことがふと脳裏によぎった。
これまでの人生はとにかく日陰で消極的に生きてきた。
あたかもそれが当たり前であるかのように。
自分自身もそれに全く疑問を持つことがなかった。
定められた運命を受け入れるかのように。
しかし、そんな惨めな人生とももうおさらばだ。
俺にはCAT-GPsTがある。
コイツとの出会いがついに俺の人生を変えることになるんだ!
そう強く確信しながらシャワーを浴びた。
シャワーを浴びたことで、
高揚するばかりの気持ちが少し落ち着いた。
同時に汗が流れてサッパリしたことに爽快感を感じた。
チャンスが訪れたことがない人生だけに、
どうしてもこういうとき焦ってしまう。
そんな自分がいることもわかっている。
ここは少し冷静になって一つ一つ確実に実行していこう。
そう自分に言い聞かせる時間になった。
これですべての準備が整った。
あとはCAT-GPsTと向き合うだけだ。
俺はパソコンの前に座り、電源を入れた。
そして、CAT-GPsTを起動する。
我ながら慣れた手つきでPWを入力し、
いつもの画面が現れた。
「おかえりなさい。1日お疲れ様でした。」
いつも起動時に挨拶をしてくれる。
こういうところもAIらしいというべきなのだろうか?
心の中でなぜか「ありがとう」と言ってる自分がいた。
不思議とそんな自分がも悪くないなと感じる。
とはいえ、まずやるべきことがある。
昨夜出した指示がどのような状況を生み出しているのか?
しっかりと確認する必要がある。
俺はチャットウィンドウにこう入力した。
「10人の女性に指示したとおりの情報は伝達できたのか?」
すぐにこう表示された。
「はい。間違いなく情報の伝達は実行されました。」
よし。ここまでは問題ない。
次は早川幸雄とすでに別れた女性がいるかどうかの確認だ。
ここはさっきの質問に繋げるようにして回数消費を抑えよう。
無意識のそんなことを考えていた。
「では、その情報伝達の結果、早川幸雄と別れた女性はいるのか?」
少し間があいてこう表示された。
「はい。すでに5名の女性が早川幸雄に別れを告げています。」
よし、半分はこちらが手を下さずとも目的を達成してくれた。
思わず口元が緩んでいるのが鏡を見なくてもわかる。
では、残りの5人にどんな指令を出すか?
もう少し情報を集めよう。
「わかった。では残りの5人は早川幸雄と別れたいと考えているのか?」
この後、ほおっておけば目的を達成できるのか、
はたまたやはり追加の指示が必要なのか。とても重要なところだ。
そんなことを考えていると、すぐにこう表示された。
「現時点で4名の女性はこれから別れを切り出そうとしています。
しかし、1名はどうしても別れたくないようです。」
ほうとなると、1人だけがターゲットとなるわけか。
しかし、残りの4人もすぐに別れを切り出すとは限らない。
そろそろ次の指令を出していこうか。
一旦考えを整理しながらまずこう入力した。
「では、その別れを切り出そうとしている
4人は明日の朝までに早川幸雄と別れさせることは可能か?」
かなり切り込んだ指示を書いてみた。
すぐにこう表示された。
「はい。可能です。いますぐ実行しますか?」
もちろん「実行してくれ」と入力した。
「わかりました。では、4名への同時指示となりますので、
残り回数から3回分の指示を消費します。よろしいですか?」
やはり同時指示はこういうリスクもある。
一応残り回数を確認しておくとするか。
「わかった。ではこれを実行すると今日の残り回数は何回ある?」
すぐにこう表示された。
「これを実行しますと、本日の残り回数は3回となります」
ふむ、まだ余裕があるな。
そう考えた俺はすぐに「では先ほどの指示を実行してくれ」と入力した。
「はい。かしこまりました。
では、いますぐ4名の女性が早川幸雄に別れを告げるよう指令を送信します。
しばらくお待ちください。」
画面には「Wait a moment」とだけ表示されて
なにかのゲージが動いているのがわかる。
しばらくくすると100%になり、こう表示された。
「指令を実行しました。結果は明日の朝確認できます。」
そうか、さすがにすぐには結果はわからないか。
一つ仕事を終えたという安堵感か大きなため息を無意識についていた。
そして、最後の1人にどういう指示を出すか?
少し考えることにした。
なお、その1人というのはまさか社内の人間ではないだろうか?
確認してみることにした。
「さっき別れなくないといった1人の女性はウチの会社の社員か?」
するとこう表示された。
「はい。あなたの会社の社員です。」
そうか、となるとまずさっきの4人と別れるとする。
であれば、残るのはその1人だけということになる。
おそらくいきなり9人からフラれたとなれば、
いつも強気のヤツでもダメージは相当なものだろう。
では、ヤツに更なるダメージを与えるのには
どうすればいいのだろうか?
俺は必死に考えた。
そしてある事を思いついた。
一旦、この女性がどうしても別れたくない!
という気持ちを変えることはやめよう。
ただし、逆に早川幸雄がその女性のことを
いままでにないぐらいに好きになるという指示はどうだろうか?
その上であっさりと別れさせる。
こうするほうがヤツへのダメージはより大きくなるだろう。
我ながらどうして次から次へと
アイデアが湧き出てくるのか不思議でしょうがない。
しかし、これは素晴らしいアイデアだ。
すぐにこう入力した。
「では、早川幸雄がその女性をいままでに
ないぐらい愛しているという気持ちにさせることは可能か?」
すこし間があいてこう表示された。
「早川幸雄はこの女性を都合のいい女性と認識しているようです。
もちろんその認識を変更することは可能です。
ただし、元の認識と大きく乖離するため、
本日の残り回数をすべて消費しますがよろしいでしょうか?」
なるほど。
本人の元の認識と乖離が大きい場合も処理が多くなるのだな。
しかし、これは絶対にヤツへの復讐としては実行しておきたい。
「わかった。では残り回数を使った実行してくれ。」
すぐにこう表示された。
「わかりました。
では、明日の朝までに早川幸雄の認識を変更いたします。
これで本日の使用回数が上限に達しました。
また明日のご利用をお待ちしております。」
そして続けて「see you」と表示されて、
いつものようにチャット画面が表示されなくなった。
気がつけばもう深夜2時になっていた。
我ながら凄い集中をしていたようだ。
どっと疲れを感じた。
しかし、これでヤツへの復讐は着実に進められる。
ある意味で気分のよい疲労感というところだろうか?
ひと段落したので、
今夜もよく眠れるなとパソコンの電源を切り、
ベッドに倒れこむように横になった。
そして、そのまま眠りについた。
こうして、CAT-GPsTを使った
復讐プラン第一フェーズの仕上げの夜が終わった。
最後に一つやることは残っているが、
復讐は順調というところだろうか?
しかし、もうこの夜の時点で、
俺は完全に引き返せないところまできていたとは、
この時点で知る由もなかった。
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