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エピローグ
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「行ってくるね、メデュナさん」
「えぇ、行ってらっしゃい!」
にこやかに手を振るメデュナに見送られながら、店を出た。首筋に触れる毛先がこそばゆい。なんだか少しだけ恥ずかしかった。
店を出て、数歩歩いてから気がつく。切った髪の毛だけじゃない、その違和感。
サラはUターンして、店のショーウィンドウの前に立つ。
「……行ってきます……?」
怪しまれないように、中の人形に話しかける。いつも元気よく返してくれる人形が、今日は一言も喋らない。いや、それだけじゃない。中の人形たちも、今日はやたら静かで──。
「……あ」
ハッとした。
彼女たちが喋らないんじゃない。もう彼女たちの声は聞こえないのだ、と。
いままでその声が聞こえていたのは、サラが同類だったからだ。人形のように生きていたからだ。でも、今は違う。生きる希望を見出して、自分の意思でここにいる。
──そっか。
サラはいままで出会ってきた人形たちのことを思い出した。
泣き虫な女の子。
おしゃべりな双子の男の子。
おませな女の子。
おじさんみたいなくまさん。
仕事熱心な女の子。
飄々とした男の子。
美しい大人のお姉さん。
そして、優しい笑みの老紳士。
大切なことを思い出させてくれた、たくさんの出会い。きっと、ずっと忘れることはない。
彼らの声は、もうサラには届かない。それでも。
「……行ってきます!」
そこには確かに命があるから。サラはいままで通り、笑顔で手を振るのだ。
雲ひとつない快晴の下。一人の少女が今、バスケット片手に駆け出した。
了
「えぇ、行ってらっしゃい!」
にこやかに手を振るメデュナに見送られながら、店を出た。首筋に触れる毛先がこそばゆい。なんだか少しだけ恥ずかしかった。
店を出て、数歩歩いてから気がつく。切った髪の毛だけじゃない、その違和感。
サラはUターンして、店のショーウィンドウの前に立つ。
「……行ってきます……?」
怪しまれないように、中の人形に話しかける。いつも元気よく返してくれる人形が、今日は一言も喋らない。いや、それだけじゃない。中の人形たちも、今日はやたら静かで──。
「……あ」
ハッとした。
彼女たちが喋らないんじゃない。もう彼女たちの声は聞こえないのだ、と。
いままでその声が聞こえていたのは、サラが同類だったからだ。人形のように生きていたからだ。でも、今は違う。生きる希望を見出して、自分の意思でここにいる。
──そっか。
サラはいままで出会ってきた人形たちのことを思い出した。
泣き虫な女の子。
おしゃべりな双子の男の子。
おませな女の子。
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仕事熱心な女の子。
飄々とした男の子。
美しい大人のお姉さん。
そして、優しい笑みの老紳士。
大切なことを思い出させてくれた、たくさんの出会い。きっと、ずっと忘れることはない。
彼らの声は、もうサラには届かない。それでも。
「……行ってきます!」
そこには確かに命があるから。サラはいままで通り、笑顔で手を振るのだ。
雲ひとつない快晴の下。一人の少女が今、バスケット片手に駆け出した。
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