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02 背中を押す
04
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試合終了の笛が鳴り響いた。結果は、2-1の負け。それでも、みんなは清々しい顔をしていた。わたしはすぐさまコートに駆け出して、琢磨の体を支えた。
「ちょ、ハル」
「今すぐ! 病院いくよ!」
琢磨の体は重かった。それくらい、自分の体を自身の足で支えられてないってことだ。本当に、バカ。こんなになるまで、無理をして。
「……こんなんで、二度とサッカー出来なくなったら、承知しないんだから」
わたしは小さく囁いた。琢磨は苦しそうに笑った。
「……当たり前だろ。今度は死ぬ気でリハビリするよ。また、サッカーが出来るように」
「決まってるでしょ、バカ」
泣きそうだった。琢磨は本気で、試合をやり遂げた。
「……ハル」
「何!?」
「ありがとな……背中、押してくれて」
──……っ。
今、ここで、こんなこと言うなんて。反則だ。
「……バカ。バカバカ、バカタク」
「何とでも言え」
琢磨は笑った。その笑顔は、まだまだ何でもやってくれちゃいそうな──。
「……お客様」
突如聞こえた声に、わたしと琢磨は顔をあげた。視線の先には、いつか見た、二人組。
「……頑張り屋さん」
「もう片方の『頑張り』を、返してもらいに来ました」
シーザさんは前と変わらない柔らかな笑みを浮かべた。わたしはポケットをごそごそ探って、空の小瓶をシーザさんに手渡す。それを受け取って、「はい、確かに」と言ったシーザさんは、わたしを見て笑う。まるで、わたしがそっちを飲まないのを、わかりきっていたみたいに。
「にしても……」
小瓶をコロットに手渡しながら、シーザさんは琢磨を見た。琢磨もシーザさんを見て、笑みを返す。
──知り合い?
わたしの疑問を、シーザさんはあっさりと解決した。
「ずいぶん無茶をしましたね、お客様?」
「はは、シーザさんの『頑張り』、効果ありすぎ……」
「え? え?」
わたしはわけがわからずシーザさんと琢磨を交互に見る。シーザさんは、いたずらっ子のような笑みを浮かべて、わたしに言った。
「実は、あなたがくる少し前に、こちらのお客様が来店していたのですよ」
「え!?」
「私がお渡ししたのは『なにがなんでも目標を達成する頑張り』。彼には“代償は大きいよ”と言ったのですが、彼の覚悟はなかなかのものでした」
わたしは開いた口が塞がらない。そんな、ことって……。
「でも、また頑張りたいことが出来たよ、シーザさん。俺は、絶対またサッカーやる。そのために、リハビリ頑張る。もし挫けそうになったら、また、『頑張り』を売ってよ」
「そうですか? ですが、あなたには、もう私が作った『頑張り』など要らないくらい、強い意志があるように見えますが」
「え?」
「あなたには、その頑張りをやり遂げるための支えがあるようですから」
その瞬間、シーザさんと目が合う。シーザさんはやっぱり真意のわからない笑みを浮かべたのだった。わけがわからず琢磨を見ると、琢磨は顔を赤くして、わたしから慌てて目をそらしてしまう。なんだって言うんだ、二人して。
「では、これにて失礼いたしましょう。お大事に」
「あっ、はい!」
「ありがとうございました!」
わたしと琢磨は、ペコリとお辞儀をした。不思議な二人組の背中は、だんだん小さくなっていったのだった。
* * *
「シーザさぁん、さっきの、どういう意味ですか? 『頑張り』が要らないって」
コロットの発言に、シーザは苦笑いを浮かべた。
「コロットにはまだ早いかもしれないね」
「何ですか? 早いって。シーザさんはいっつも僕を子供扱いするんだから」
「子供じゃないか、君は」
不貞腐れたコロットの頭を撫でながら、シーザは言った。
「コロット、私たちがつくる『頑張り』に匹敵するものは、何だかわかるかい?」
「『頑張り』に? 分からないですよぉ!」
ぴょこぴょこ跳ねながら答えるコロットに、シーザはクスリと笑った。
「それはね、コロット。『誰かを思う強い気持ち』だよ」
その気持ちは、時に強い力を生む。彼らには、それがあった。
シーザは、お互いを支え合う二人の姿を思い浮かべながら、また笑った。わけは分からなかったが、嬉しそうなシーザの様子に、コロットもまた笑みをこぼしたのだった。
「ちょ、ハル」
「今すぐ! 病院いくよ!」
琢磨の体は重かった。それくらい、自分の体を自身の足で支えられてないってことだ。本当に、バカ。こんなになるまで、無理をして。
「……こんなんで、二度とサッカー出来なくなったら、承知しないんだから」
わたしは小さく囁いた。琢磨は苦しそうに笑った。
「……当たり前だろ。今度は死ぬ気でリハビリするよ。また、サッカーが出来るように」
「決まってるでしょ、バカ」
泣きそうだった。琢磨は本気で、試合をやり遂げた。
「……ハル」
「何!?」
「ありがとな……背中、押してくれて」
──……っ。
今、ここで、こんなこと言うなんて。反則だ。
「……バカ。バカバカ、バカタク」
「何とでも言え」
琢磨は笑った。その笑顔は、まだまだ何でもやってくれちゃいそうな──。
「……お客様」
突如聞こえた声に、わたしと琢磨は顔をあげた。視線の先には、いつか見た、二人組。
「……頑張り屋さん」
「もう片方の『頑張り』を、返してもらいに来ました」
シーザさんは前と変わらない柔らかな笑みを浮かべた。わたしはポケットをごそごそ探って、空の小瓶をシーザさんに手渡す。それを受け取って、「はい、確かに」と言ったシーザさんは、わたしを見て笑う。まるで、わたしがそっちを飲まないのを、わかりきっていたみたいに。
「にしても……」
小瓶をコロットに手渡しながら、シーザさんは琢磨を見た。琢磨もシーザさんを見て、笑みを返す。
──知り合い?
わたしの疑問を、シーザさんはあっさりと解決した。
「ずいぶん無茶をしましたね、お客様?」
「はは、シーザさんの『頑張り』、効果ありすぎ……」
「え? え?」
わたしはわけがわからずシーザさんと琢磨を交互に見る。シーザさんは、いたずらっ子のような笑みを浮かべて、わたしに言った。
「実は、あなたがくる少し前に、こちらのお客様が来店していたのですよ」
「え!?」
「私がお渡ししたのは『なにがなんでも目標を達成する頑張り』。彼には“代償は大きいよ”と言ったのですが、彼の覚悟はなかなかのものでした」
わたしは開いた口が塞がらない。そんな、ことって……。
「でも、また頑張りたいことが出来たよ、シーザさん。俺は、絶対またサッカーやる。そのために、リハビリ頑張る。もし挫けそうになったら、また、『頑張り』を売ってよ」
「そうですか? ですが、あなたには、もう私が作った『頑張り』など要らないくらい、強い意志があるように見えますが」
「え?」
「あなたには、その頑張りをやり遂げるための支えがあるようですから」
その瞬間、シーザさんと目が合う。シーザさんはやっぱり真意のわからない笑みを浮かべたのだった。わけがわからず琢磨を見ると、琢磨は顔を赤くして、わたしから慌てて目をそらしてしまう。なんだって言うんだ、二人して。
「では、これにて失礼いたしましょう。お大事に」
「あっ、はい!」
「ありがとうございました!」
わたしと琢磨は、ペコリとお辞儀をした。不思議な二人組の背中は、だんだん小さくなっていったのだった。
* * *
「シーザさぁん、さっきの、どういう意味ですか? 『頑張り』が要らないって」
コロットの発言に、シーザは苦笑いを浮かべた。
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「何ですか? 早いって。シーザさんはいっつも僕を子供扱いするんだから」
「子供じゃないか、君は」
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「それはね、コロット。『誰かを思う強い気持ち』だよ」
その気持ちは、時に強い力を生む。彼らには、それがあった。
シーザは、お互いを支え合う二人の姿を思い浮かべながら、また笑った。わけは分からなかったが、嬉しそうなシーザの様子に、コロットもまた笑みをこぼしたのだった。
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