おとぎ日和

天乃 彗

文字の大きさ
上 下
17 / 57
桃太郎 番外編

何度も

しおりを挟む
“ごめんね? えーと、あたし、2年2組の川崎桃。今日はあなたに頼みたいことがあって来たんだけど”

 あの日、いつもの場所で寝ていた俺の目の前に、突然現れた。駄々漏れ先輩の画策により、苦しい目覚めをした俺に、優しく水を差し出して。
 俺はすぐに先輩に落ちた。あの日で、俺の生活はよくも悪くも変わってしまった。

 桃先輩の好きなところ。天真爛漫で、可愛いところ。優しいところ。単純なところ。料理が上手いところ。
 桃先輩の嫌いなところ。鈍感なところ。誰にでも平等なところ。

 出会ってから、新たな面を知るたびに、足したり、引いたり。この恋はなかなかに不毛だ。ライバルも多く、俺はまだ、告白の返事を貰えていない。

「はぁ」

 想いが募れば募るほど、動きづらくなっていく。今動いたら、先輩は離れていってしまう気がしたから。
 俺はごろんと寝返りをうった。いつの間にか、俺の、ではなく四人の場所になった踊り場で。めんどくさかったから4限をサボってここにいる。どうせ今日は一緒にお昼を食べる日だし、誰か来たら起こしてくれるだろう。
 目を閉じる。そのまま眠りにつく。あの日みたいに、目を開けたら先輩がいればいいのにと思いながら。


 * * *


 ゆさゆさと体を揺さぶられる感覚で、ぼんやりとしていた頭が徐々に冴えていく。まだ眠い。寝ていたい。開けようとした目をそっと閉じる。

「──……ぺいくん、おき……」

この 声は──。

「……もも、せんぱい……?」

 夢じゃない……? 
 あの日から俺は、何度も何度も、眠りにつくたび、願ったんだ。目を開けたら、どうか、先輩がいるようにと。遠くで声が聞こえる。「あと十秒だけだよ」と、ゆっくりゆっくり、じゅうを数える──。
 それに安心して、また俺は目を閉じた。少しだけ、よく眠れた。


 * * *


「純平くん、疲れてるみたいだから起こしちゃだめだよ? 何回起こしても起きなかったんだから」
「……だからって、なんでお前が膝枕してんだよ?」
「なんか、寝ぼけたまま頭乗っけてきた」
「……っ!」
「眉間のシワすごいよ、祐樹」
「黙れ!」


 * * *


 あの日、目が覚めたら先輩がいた。その瞬間、俺のなかで確かに何かが変わったんだ。あのとき、あの瞬間だけは、先輩は俺だけを見ていてくれたから。
 だから俺は、目を閉じよう。目を開けたら、あの日みたいに先輩がいるまで、何度も。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

処理中です...