おとぎ日和

天乃 彗

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桃太郎 番外編②

照れ屋もここまでくると病気《一真目線》

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 バカは死んでも治らない、とは言うけれど。照れ屋やヘタレは、どうだろう? 


 * * *


 俺がセッティングした、祐樹と桃の勉強会の日の昼休み──祐樹が神妙な面持ちで俺の教室にやって来た。理由はまぁ、わかっている。

「逃げんなよって言ったのは自分じゃなかったっけ?」

 祐樹にそういうと、祐樹はぐっと渋い顔をした。

「……まだ逃げてねーだろ」
「じゃあ何で昼休みにわざわざ俺のところに来るのさ」
「それは……」

 言葉に詰まった祐樹は、しばし目を泳がせた後、俺を見据えた。

「……こんな会セッティングして、お前はいいのかと思ったから……」

 なるほど。そう来たか。俺は笑顔を崩さぬよう、背もたれにもたれかかる。お人好しなのか、ただ行きたくないからの言い訳なのか。
 進歩したかと思えば後退して。進化論もびっくり。こんなんじゃ、祐樹はいつまでたってもヒトにはなれないんじゃ? 

「この後に及んで、何でそんなうだうだする必要があるわけ? 好きなんでしょ? 桃のこと。人がせっかくチャンス作ってやったんじゃん」

 祐樹は何も言わない。言えない、の方が正しいのかもしれないけど。
 今まで何度もあったはずだ。それを、何度も、何度も、足踏みして。俺が一歩前に進むと、意地になって。……バカなの? だから俺が一歩引いて、こんなにしてあげてるのに、祐樹が同じラインに立つ気がないなら──仕方が無いね。

「わかったよ。じゃあ俺から桃に言っとくよ。“祐樹は桃と二人きりになるのが嫌だから来ないよ”って。“桃のこと、嫌いだから来れない”って──」
「──ッ! 好きだよ!! だからじゃねぇ……か……」

 お? 目をパチクリさせた俺を見て、さらに目をパチクリさせた祐樹は、自分の発言にようやく気づいたのかハッと口を塞いだ。
 どうやら、ちゃんと進化はしてるらしい。俺は思わず吹き出して、笑いながら頬杖をついた。

「俺に言ってどうすんの」
「……っ」

 そして、今から照れてどうすんの。照れ屋もここまでくると病気だ。
 バカは死んでも治らない、けど。一度死ぬ思いをすれば、照れ屋もヘタレも治るんじゃない? 

「当たって砕けてくれば?」
「……勘弁しろ……」

 あぁ、楽しい。俺は思わず時計を見た。あと約三時間後。進化か、後退か。
 俺は少し今日の放課後が楽しみになった。




(C)確かに恋だった
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