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桃太郎 番外編②
隣同士がいちばん自然《祐樹目線》
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鬼退治騒動から、はや1週間。突如現れて俺を振り回したこの女は、どうやら問題が解決してからも俺を振り回す気でいるらしい。
「……は?」
「だーかーらっ! これからも一緒にご飯食べようよ! 週2くらいで、集まって!」
俺は隣にいる二人の顔を伺った。相変わらず一真はニコニコしてやがるし、純平は無表情だが少し嬉しそうに見えた。
「……いいじゃん。集まろうよ」
「一真まで」
「何でよ! 祐樹、嫌なの?」
女──桃は俺の服の袖を掴んでじっと俺を見つめた。……だからそうやって俺を下から見るんじゃねぇよ! 俺はさっと桃から目を逸らした。
「そういう、わけじゃ」
「じゃ、決定ね!」
ぱっと手を離し、ニコニコと嬉しそうにする桃をじとりと睨む。こいつ、本当に何なんだよ。
「やったね、祐樹」
「……はっ倒すぞ」
「……本当は嬉しいくせに」
「てめーも黙れ!」
純平の頭をどつくと、俺はポケットに手を突っ込んで歩きだした。ここは退散したほうが賢明だ。
「明日ー! いつものとこねー!」
背中にかかる桃の声に、振り向かないでヒラヒラと手を振った。
* * *
少し4限が長引いた。俺は終わると同時に鞄を持って、屋上の階段に向かう。きっと奴らは揃ってる。少し急ぐか。あの二人と桃を一緒にさせておくのは何だか気が引け──って、何言ってんだよ! 俺は慌てて頭を掻く。
あれだ、俺を寄って集ってからかってないか不安だからだ。そうだ。そうでしかない。
「あ、祐樹来たぁ」
上から降ってきた間抜けな声に顔を上げる。こっちはこいつが現われてからいろいろ考えてるっていうのに、呑気な声出しやがって。
「遅かったね」
「4限長引いた」
一真の声に返事をしながら、俺は一真と桃の間に腰を下ろした。純平はそんな俺を眺めて、ポツリと呟いた。
「……猿山先輩、いつもその位置ですよね」
「は?」
「あぁ、確かに。いつも俺と桃の間だよね」
完全に無意識だったことを指摘されて、俺はキョトンとしてしまった。いつもだったか?
「たまたまだろ」
「じゃあ、今日は交換してよ。俺、桃の隣」
ニヤリ、と一真が笑う。何か企んでるような笑みに見えて仕方がないが、断る理由もないし俺は立ち上がって移動した。一真が横にずれて、俺は桃の真正面になった。
「ねーねー祐樹、4限何の授業だったの?」
「日本史……」
ふと、桃を見る。いつもと変わらないチャラチャラした格好の桃が俺を見ていた。いつもは横にいたからか、あんまりまじまじ見ることはなかったけど。こうやって真正面に座ると、こいつのアホ面がよく見えて──。
「あれぇ? 祐樹、顔赤くない?」
「は!? 何言って……!」
「……目が泳いでます、先輩」
「そんなことなっ……!」
「何で目のやり場に困ってんのさ。だからって俺を見つめないでよ」
「誰がてめーを見つめるか!」
思わず口元を袖で拭うと、確かに自分の顔が熱を持ってることが分かった。……何だってんだ! すると、肩を震わせていた一真が立ち上がり、俺と純平の間に腰を下ろした。
「ほら、ずれて。そこは俺の席」
俺は言われるがままに横にずれて、いつもの席に戻った。桃の、隣。
「ねーねー、日本史って言うだけなのに何で照れたの?」
「……何でもねーよ!」
桃が俺の服の袖を引っ張った。俺はそれを振り払うと顔を背けた。「えー?」なんて呟く桃の声が聞こえて、目を逸らした先で一真と目が合う。一真の笑みに何笑ってんだよと思いながらも、俺はこの位置が一番マシだと感じた。……真正面は、心臓に悪い。
(C)確かに恋だった
「……は?」
「だーかーらっ! これからも一緒にご飯食べようよ! 週2くらいで、集まって!」
俺は隣にいる二人の顔を伺った。相変わらず一真はニコニコしてやがるし、純平は無表情だが少し嬉しそうに見えた。
「……いいじゃん。集まろうよ」
「一真まで」
「何でよ! 祐樹、嫌なの?」
女──桃は俺の服の袖を掴んでじっと俺を見つめた。……だからそうやって俺を下から見るんじゃねぇよ! 俺はさっと桃から目を逸らした。
「そういう、わけじゃ」
「じゃ、決定ね!」
ぱっと手を離し、ニコニコと嬉しそうにする桃をじとりと睨む。こいつ、本当に何なんだよ。
「やったね、祐樹」
「……はっ倒すぞ」
「……本当は嬉しいくせに」
「てめーも黙れ!」
純平の頭をどつくと、俺はポケットに手を突っ込んで歩きだした。ここは退散したほうが賢明だ。
「明日ー! いつものとこねー!」
背中にかかる桃の声に、振り向かないでヒラヒラと手を振った。
* * *
少し4限が長引いた。俺は終わると同時に鞄を持って、屋上の階段に向かう。きっと奴らは揃ってる。少し急ぐか。あの二人と桃を一緒にさせておくのは何だか気が引け──って、何言ってんだよ! 俺は慌てて頭を掻く。
あれだ、俺を寄って集ってからかってないか不安だからだ。そうだ。そうでしかない。
「あ、祐樹来たぁ」
上から降ってきた間抜けな声に顔を上げる。こっちはこいつが現われてからいろいろ考えてるっていうのに、呑気な声出しやがって。
「遅かったね」
「4限長引いた」
一真の声に返事をしながら、俺は一真と桃の間に腰を下ろした。純平はそんな俺を眺めて、ポツリと呟いた。
「……猿山先輩、いつもその位置ですよね」
「は?」
「あぁ、確かに。いつも俺と桃の間だよね」
完全に無意識だったことを指摘されて、俺はキョトンとしてしまった。いつもだったか?
「たまたまだろ」
「じゃあ、今日は交換してよ。俺、桃の隣」
ニヤリ、と一真が笑う。何か企んでるような笑みに見えて仕方がないが、断る理由もないし俺は立ち上がって移動した。一真が横にずれて、俺は桃の真正面になった。
「ねーねー祐樹、4限何の授業だったの?」
「日本史……」
ふと、桃を見る。いつもと変わらないチャラチャラした格好の桃が俺を見ていた。いつもは横にいたからか、あんまりまじまじ見ることはなかったけど。こうやって真正面に座ると、こいつのアホ面がよく見えて──。
「あれぇ? 祐樹、顔赤くない?」
「は!? 何言って……!」
「……目が泳いでます、先輩」
「そんなことなっ……!」
「何で目のやり場に困ってんのさ。だからって俺を見つめないでよ」
「誰がてめーを見つめるか!」
思わず口元を袖で拭うと、確かに自分の顔が熱を持ってることが分かった。……何だってんだ! すると、肩を震わせていた一真が立ち上がり、俺と純平の間に腰を下ろした。
「ほら、ずれて。そこは俺の席」
俺は言われるがままに横にずれて、いつもの席に戻った。桃の、隣。
「ねーねー、日本史って言うだけなのに何で照れたの?」
「……何でもねーよ!」
桃が俺の服の袖を引っ張った。俺はそれを振り払うと顔を背けた。「えー?」なんて呟く桃の声が聞こえて、目を逸らした先で一真と目が合う。一真の笑みに何笑ってんだよと思いながらも、俺はこの位置が一番マシだと感じた。……真正面は、心臓に悪い。
(C)確かに恋だった
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