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わらしべ長者
01 NOと言えない日本人
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「NOと言えない日本人」──その顕著な例とも言える少女が、ここ豊木高校にはいた。
名は若草千花。肩くらいの黒い髪を二つにまとめた、見るからにおとなしそうな少女である。見た目通りおとなしく根が優しいこの少女は、頼まれ事などをされるとつい「YES」と言ってしまう、超お人好しなのだ。
そんな彼女が、この日は珍しく自分のために走っていた。その理由は、この日の彼女の母の発言にある。
* * *
「きゃー!」
千花は、目覚ましよりけたたましい母の叫び声で目を覚ました。何事かと慌てて母の元に行くと、エプロン姿の母が菜箸片手にわたわたと動き回っていた。
「……お母さん、どうしたの?」
「あぁっ、千花ちゃん、ごめんね! 千花ちゃんのお弁当、引っ繰り返しちゃったの!」
涙目で告げる母の視線を辿ると、確かにそこには裏返ったお弁当箱があった。
「ありゃりゃ……」
「今からじゃ作り直せないし……本当にごめんね!」
そう言いつつ、母は自分の鞄を探り始めた。中から財布をとりだして、金色に光る硬貨を差し出す。ピカピカの500円玉。
「今日はお昼、購買で買ってくれる? 500円あげるからっ」
──購買……。
高校に購買はある。しかしそこは昼にはいつも混雑しており、もたもたしていると売り切れてしまう。千花の友人たちはそれを見越して全員お弁当持参なのだ。だから千花も、いつもはお弁当を作ってもらっていたのだが。
「……うん、わかった」
千花は500円玉を受け取ると、自分の財布にしまった。いやだなんて言えない。仕方がない、今日は頑張って購買で買おう。千花は母に聞こえないように小さくため息を吐くと、制服に着替えるために自分の部屋に戻った。
* * *
名は若草千花。肩くらいの黒い髪を二つにまとめた、見るからにおとなしそうな少女である。見た目通りおとなしく根が優しいこの少女は、頼まれ事などをされるとつい「YES」と言ってしまう、超お人好しなのだ。
そんな彼女が、この日は珍しく自分のために走っていた。その理由は、この日の彼女の母の発言にある。
* * *
「きゃー!」
千花は、目覚ましよりけたたましい母の叫び声で目を覚ました。何事かと慌てて母の元に行くと、エプロン姿の母が菜箸片手にわたわたと動き回っていた。
「……お母さん、どうしたの?」
「あぁっ、千花ちゃん、ごめんね! 千花ちゃんのお弁当、引っ繰り返しちゃったの!」
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「ありゃりゃ……」
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