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Ⅳ章 リリアに幸あれ
3 ルドからの書状
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『リリア国王
我がルド国皇子を殺害している野蛮な国家よ。
さらに我が国が天の川の神に献上した神の御使いまで略奪する横暴さ。これらの貴国の重大なる罪はリリア全国民の死をもって償うしかなかろう。
だが我に謝罪し、我が属国に収まると宣誓するなら償いに応じる。少しでも善なる心を持つならば、神の子となった我が子ミゴを我に献上することを以て誠意を示せ。
偉大なるルド国王 バード・ルシ・ルド』
ルドから流れつく手紙には全て同じ事が書かれている。
内容を初めて知ったロンは火が付いたように怒り狂った。同席してくれていたルーカス様がロンを力でねじ伏せてくれて正気に戻った。
「ロン、落ち着くんだ。キレるかもしれないと案じていたが、予想道理の行動だ。参謀としては感情がストレートすぎて失格だ」
ロンを余裕で押さえつけて、少し笑うルーカス様。徐々にロンの荒い息が平静になる。荒ぶる心を抑え、平静を取り繕う。
「すみま、せん。離していただいて、大丈夫です」
普段経験しないような圧倒的な力の差に身動きが取れない。ルーカス様は王族の獅子なのだと実感した。
「そうか? では、座り直して話をしよう」
ニコリと笑い、椅子に着座する姿を目で追い床から起き上がる。
ふと見れば部屋の調度品が倒れている。主城の調度品だ! その価値を考えてロンの顔が青くなる。
「気にするな。俺も昔、いくつも壊した」
「いや、殿下はご自身の持ち物みたいなものでしょうけれど……」
「じゃ、俺が倒したことにするから、いいさ」
調度品を起こそうとするが、殿下に着座を再度勧められて調度品をそのままに席に着く。
「申し訳ありません」
殿下に深々と頭を下げる。
「いいさ。むしろ、この内容を見てキレないようならミーと別れさせるところだ。それより、早急に話がしたい。この内容はまだ父王と俺、政務大臣、国防大臣しか知らない。本来ロンは臨時国防会議で知るはずだが、参謀が会議中に暴れたら失脚ものだからな」
「殿下、冗談がきついです……」
あはは、先に見せて良かった、と笑われた。正直、見せてもらえて助かった。
会議で初読みしていたら間違いなくお偉い様方の前でブチギレていた。もう一度テーブルに置かれた手紙のコピーを見る。ロンの中でミーを守り抜くと誓った熱い想いが再燃する。
「ルーカス様、俺は絶対にミーを守る。ミーはルドに渡さない。絶対に」
「もちろんだ。タクマもミーもリリアの神の子であり、我らの大切なパートナーだ。俺も父王も同意見だから大丈夫だよ。さあ、問題はそこじゃないんだ。どうだろう? ロンの気持が冷静になれないようなら、俺の話したいことは別日にする。だが国防会議の開催が早いかもしれん。あまり時間に猶予が無い」
何だ? ルーカス様が気になる事? もう一度胸糞悪い書状を見る。冷静になれ、と自分に言い聞かせ文面を読む。が、分からない。少し眉をひそめて考える。
「ロン、この書状は川を流れて来た。念のため毒物調査や危険物の調査をしたが、ただの書状だ」
毒物? 危険物? はっとして殿下をじっと見る。
「太古より悪意がある者や害をなすものは川を渡れないし浮かぶこともできない。だが、今回の書状はリリアに流れ着いた。書状自体は害がないとしよう。だが、書状の内容は攻撃的なものだ。なぜルドは書状を流してきたと思う? これは俺の憶測だが、ルドは実験をしているのではないか? 神はどこまで許すのか」
「では、では、もしかしたらルドは、すでに毒物や爆弾などをリリアに向けて流しているかもって事ですか? 全てがこちらに流れ着いていないとしても、攻撃の手段を探っている?」
「ビンゴ。今回の書状については、内容が問題なのではない。ルドがリリアに何かする手段を模索し始めている、という現実だ」
真剣な殿下を見つめ、ゴクリと唾を飲み下す。
「過去二回、ルドの皇子たちは川を越えることは出来た。だが、帰ることが出来なかった。行きと帰りの違いは、何であろうな? 万が一、行きだけでも川を超える手段がある場合、死を覚悟したテロ目的の軍隊を送ってくる可能性もある」
ゾクリとする。
「今回の書状、いくつかの内、何個が流れ着くのか把握していたかもしれん。これが書状ではなく、爆弾だったら? 数個流れ着くだけでもリリア国民を恐怖に陥れる行為になる」
ロンの額から汗が一筋垂れる。本格的な戦争を、衝突を危惧しなくてはいけない。自然と速くなる心臓。
「もう一つ。ルドの目的を明らかにしたい。侵略か? 領地の拡大か? 支配欲か? それとも書状の通り、神の子なのか」
「ルーカス様、どれもダメです。この国はリリアであり、ルドには渡せない。ミーもタクマ様も絶対に渡さない。全ては、リリアのものです」
「その通りだ。ロン、そのための対策を。国民がルドからの漂流物に触れるのは避けたい。漂流物の対策をお前に任せる。軍においてはルドの動向を探る事と、目的の明確化。内政に関しては国防費の追加に国民への対策。迎撃を含めた防衛対策を会議に進言する。守るべきは、リリアの全てだ」
ルーカス様の気迫に背筋がゾクリとする。ロンは椅子を立ち、ルーカス殿下に最敬礼の姿勢をとる。
「ルーカス殿下に忠誠を誓います。誠心誠意任務を遂行し、リリアの平和に尽くします!」
ルーカス様が微笑んで席を立つ。ポンポンとロンの背中を叩く。
「ロン、リリアを守ることが俺たちの最愛の人を守ることになる」
囁くような一言に「はっ!」と敬礼の姿勢で返答し、退室する殿下をお見送りした。
殿下が去った後、城の使用人と部屋の棚を一緒に片づけた。
謝りながら(俺は大型獣人なのだなぁ)と反省しきりだった。
我がルド国皇子を殺害している野蛮な国家よ。
さらに我が国が天の川の神に献上した神の御使いまで略奪する横暴さ。これらの貴国の重大なる罪はリリア全国民の死をもって償うしかなかろう。
だが我に謝罪し、我が属国に収まると宣誓するなら償いに応じる。少しでも善なる心を持つならば、神の子となった我が子ミゴを我に献上することを以て誠意を示せ。
偉大なるルド国王 バード・ルシ・ルド』
ルドから流れつく手紙には全て同じ事が書かれている。
内容を初めて知ったロンは火が付いたように怒り狂った。同席してくれていたルーカス様がロンを力でねじ伏せてくれて正気に戻った。
「ロン、落ち着くんだ。キレるかもしれないと案じていたが、予想道理の行動だ。参謀としては感情がストレートすぎて失格だ」
ロンを余裕で押さえつけて、少し笑うルーカス様。徐々にロンの荒い息が平静になる。荒ぶる心を抑え、平静を取り繕う。
「すみま、せん。離していただいて、大丈夫です」
普段経験しないような圧倒的な力の差に身動きが取れない。ルーカス様は王族の獅子なのだと実感した。
「そうか? では、座り直して話をしよう」
ニコリと笑い、椅子に着座する姿を目で追い床から起き上がる。
ふと見れば部屋の調度品が倒れている。主城の調度品だ! その価値を考えてロンの顔が青くなる。
「気にするな。俺も昔、いくつも壊した」
「いや、殿下はご自身の持ち物みたいなものでしょうけれど……」
「じゃ、俺が倒したことにするから、いいさ」
調度品を起こそうとするが、殿下に着座を再度勧められて調度品をそのままに席に着く。
「申し訳ありません」
殿下に深々と頭を下げる。
「いいさ。むしろ、この内容を見てキレないようならミーと別れさせるところだ。それより、早急に話がしたい。この内容はまだ父王と俺、政務大臣、国防大臣しか知らない。本来ロンは臨時国防会議で知るはずだが、参謀が会議中に暴れたら失脚ものだからな」
「殿下、冗談がきついです……」
あはは、先に見せて良かった、と笑われた。正直、見せてもらえて助かった。
会議で初読みしていたら間違いなくお偉い様方の前でブチギレていた。もう一度テーブルに置かれた手紙のコピーを見る。ロンの中でミーを守り抜くと誓った熱い想いが再燃する。
「ルーカス様、俺は絶対にミーを守る。ミーはルドに渡さない。絶対に」
「もちろんだ。タクマもミーもリリアの神の子であり、我らの大切なパートナーだ。俺も父王も同意見だから大丈夫だよ。さあ、問題はそこじゃないんだ。どうだろう? ロンの気持が冷静になれないようなら、俺の話したいことは別日にする。だが国防会議の開催が早いかもしれん。あまり時間に猶予が無い」
何だ? ルーカス様が気になる事? もう一度胸糞悪い書状を見る。冷静になれ、と自分に言い聞かせ文面を読む。が、分からない。少し眉をひそめて考える。
「ロン、この書状は川を流れて来た。念のため毒物調査や危険物の調査をしたが、ただの書状だ」
毒物? 危険物? はっとして殿下をじっと見る。
「太古より悪意がある者や害をなすものは川を渡れないし浮かぶこともできない。だが、今回の書状はリリアに流れ着いた。書状自体は害がないとしよう。だが、書状の内容は攻撃的なものだ。なぜルドは書状を流してきたと思う? これは俺の憶測だが、ルドは実験をしているのではないか? 神はどこまで許すのか」
「では、では、もしかしたらルドは、すでに毒物や爆弾などをリリアに向けて流しているかもって事ですか? 全てがこちらに流れ着いていないとしても、攻撃の手段を探っている?」
「ビンゴ。今回の書状については、内容が問題なのではない。ルドがリリアに何かする手段を模索し始めている、という現実だ」
真剣な殿下を見つめ、ゴクリと唾を飲み下す。
「過去二回、ルドの皇子たちは川を越えることは出来た。だが、帰ることが出来なかった。行きと帰りの違いは、何であろうな? 万が一、行きだけでも川を超える手段がある場合、死を覚悟したテロ目的の軍隊を送ってくる可能性もある」
ゾクリとする。
「今回の書状、いくつかの内、何個が流れ着くのか把握していたかもしれん。これが書状ではなく、爆弾だったら? 数個流れ着くだけでもリリア国民を恐怖に陥れる行為になる」
ロンの額から汗が一筋垂れる。本格的な戦争を、衝突を危惧しなくてはいけない。自然と速くなる心臓。
「もう一つ。ルドの目的を明らかにしたい。侵略か? 領地の拡大か? 支配欲か? それとも書状の通り、神の子なのか」
「ルーカス様、どれもダメです。この国はリリアであり、ルドには渡せない。ミーもタクマ様も絶対に渡さない。全ては、リリアのものです」
「その通りだ。ロン、そのための対策を。国民がルドからの漂流物に触れるのは避けたい。漂流物の対策をお前に任せる。軍においてはルドの動向を探る事と、目的の明確化。内政に関しては国防費の追加に国民への対策。迎撃を含めた防衛対策を会議に進言する。守るべきは、リリアの全てだ」
ルーカス様の気迫に背筋がゾクリとする。ロンは椅子を立ち、ルーカス殿下に最敬礼の姿勢をとる。
「ルーカス殿下に忠誠を誓います。誠心誠意任務を遂行し、リリアの平和に尽くします!」
ルーカス様が微笑んで席を立つ。ポンポンとロンの背中を叩く。
「ロン、リリアを守ることが俺たちの最愛の人を守ることになる」
囁くような一言に「はっ!」と敬礼の姿勢で返答し、退室する殿下をお見送りした。
殿下が去った後、城の使用人と部屋の棚を一緒に片づけた。
謝りながら(俺は大型獣人なのだなぁ)と反省しきりだった。
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