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Ⅱ章 リリア王都編
3 消えた神の子 <SIDE:ルーカス>
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「タクマ! どこだ! 誰か、タクマを見ていないか!」
声を張り上げて探し回る。嫌な汗が背中を伝う。
「殿下、西区に応援を呼びます!」
「我々は本日の視察ルートを見てまいります!」
「我々は街の有力者に神の子様を見た者がいるか、聞いてまいります!」
護衛の者たちが青い顔でバタバタと動く。
王都西区を視察。森に繋がる地区で木工品が名産。木彫り体験や職人技の視察を楽しく過ごした。こうしてリリアの国に触れて、神の子として国民に慕われて、この国でタクマの生きる場所を作れたらいい、そう思って外出にも連れ出していた。
十三区と違いルド国から侵入者の心配はない。国内ならば敵意を持つ者はいない。そう考え、護衛を必要最低限で出かけていた。何かあれば俺が守れる。俺はこの国で父以外の獣化できる獅子。相当なことが無い限り負けることは無いから、そう思っていた。
帰り際の木材倒壊事故。
大型家具を製作する会社の資材置き場。大きな木工品会社で、見学用の制作ショールームを大通りに設けている。職人が制作する過程を見せることで人の目を引き、職人のモチベーションアップにもなっている。上手い戦略方法だ。
ただ、大型家具や工芸品を作るには木材が必要。賑やかな王都で場所の確保が難しい。それらの解決のため、道沿いに見える木材保管がされていた。都会の喧騒に居ると木材の香りが懐かしく嬉しくなる。常に新しい木材を積んであり、獣人ならば自然の香りに心惹かれる。
その木材が倒壊した。夕方の人通りの多い時間で巻き込まれた獣人が多い。手が足りない。助けを求められて、力を貸したい。国民を助けに行きたい。だが、タクマを知らない場所に一人残せない。心に迷いが生じた。
俺の迷いが見えたのだろう。救助を優先して、と言うタクマ。その通りだ。俺は何を迷っていたのか。
すぐに現場に駆け寄り、木材の撤去、けが人の搬送、現場の安全確保など警備隊たちと出来る限りのことをした。幸い死人は出ていなかった。一息つくまであっという間の三時間。三時間もたっている!
救助用にライトアップされていて気が付かなかったが、すでに空は夜空。皆の感謝の声をすり抜け、広場に戻る。閑散とした広場。残された王族用馬車。馬たちはすでに落ち着きを取り戻している。
遅くなってゴメンと駆け寄ろうとしたのに、タクマがいない。周囲を見る。もしかしたら誰かが室内に入れてくれたのか?
「タクマ、どこだ?」
すぐに声をかけながら広場内を探す。
きっと近くで休んでいる。きっとすぐ見つかる。ドクドク鳴る心臓を必死でなだめる。護衛を多人数つければよかった。後悔が押し寄せる。すぐに見つかると自分に言い聞かせるが、もしタクマが居なくなってしまったら、という不安が全身を駆け巡る。時間の経過とともに、ざわつく心と不安が大きくなっていった。
「西区の人の出入りを全て監視しろ。徹底して住人の家庭調査を行え。全部の家に立ち入り調査をしろ!」
「殿下、ここは商業地区です。出入りの監視はかなり困難かと。立ち入りなどは権限を越えております」
「うるさい! どこかにタクマが隠されているかもしれんだろう! 誰かがタクマを奪ったかもしれん!」
「いけません。むやみに疑ってはルーカス様の信用を落とします。それに、国民の生活に影響がでてしまいます」
目の前のテーブルを蹴とばす。ガターンと大きな音で吹き飛ぶ。
それに動じず犬耳を立てて正面に立つ護衛隊長。分かっている。本当は獅子の怒りに怯えて、耳が垂れそうになっている。小さく足が震えている。
必死で俺に正論を伝えてくれている。その姿を見て、自分が情けなくなる。八つ当たりばかりして申し訳なさがこみ上げる。イライラする頭を抱え、椅子に座る。大きく深呼吸する。
「……すまない。わかっている。止めてくれて感謝する」
「殿下。お気持ちは分かっているつもりです。我々もタクマ様を心配し、出来る限りの捜索をしております。神の子が早くお戻りになる事を皆祈っております。引き続き街での聞き取り情報収集、不審者の情報収集を行います」
「……それでいい。よろしく頼む」
西区広場に特設したタクマの捜索本部。ここに泊まり込んでいる。手が震える。タクマはどうして消えた? タクマは十三区では森を怖がる時もあった。暗くなってから森には入らないだろう。
目撃情報がない事から、この近くに監禁されている可能性が高い。無体な事を強いられていたら、と不安がよぎる。
無事でいてくれ。生きていてくれ。そればかりを願う日々。そしてもし、タクマが元の自分の世界に戻されてしまっていたら……。もう二度と会えないかもしれない。
ゾワゾワと沸き上がる不安に押しつぶされそうになる。タクマ、愛しいタクマ。黒い瞳を輝かせて俺を見るタクマ。抱き締めるとそっと頭を寄り添わせてくるタクマ。愛らしい笑顔が見たい。寂しいよ。
タクマ、どこにいる? 会いたい。不安と焦りで混乱する。混乱はイライラになる。怒りのようなやり場のない感情がグルグル巡る。
タクマが消えてから半月が経過していた。
声を張り上げて探し回る。嫌な汗が背中を伝う。
「殿下、西区に応援を呼びます!」
「我々は本日の視察ルートを見てまいります!」
「我々は街の有力者に神の子様を見た者がいるか、聞いてまいります!」
護衛の者たちが青い顔でバタバタと動く。
王都西区を視察。森に繋がる地区で木工品が名産。木彫り体験や職人技の視察を楽しく過ごした。こうしてリリアの国に触れて、神の子として国民に慕われて、この国でタクマの生きる場所を作れたらいい、そう思って外出にも連れ出していた。
十三区と違いルド国から侵入者の心配はない。国内ならば敵意を持つ者はいない。そう考え、護衛を必要最低限で出かけていた。何かあれば俺が守れる。俺はこの国で父以外の獣化できる獅子。相当なことが無い限り負けることは無いから、そう思っていた。
帰り際の木材倒壊事故。
大型家具を製作する会社の資材置き場。大きな木工品会社で、見学用の制作ショールームを大通りに設けている。職人が制作する過程を見せることで人の目を引き、職人のモチベーションアップにもなっている。上手い戦略方法だ。
ただ、大型家具や工芸品を作るには木材が必要。賑やかな王都で場所の確保が難しい。それらの解決のため、道沿いに見える木材保管がされていた。都会の喧騒に居ると木材の香りが懐かしく嬉しくなる。常に新しい木材を積んであり、獣人ならば自然の香りに心惹かれる。
その木材が倒壊した。夕方の人通りの多い時間で巻き込まれた獣人が多い。手が足りない。助けを求められて、力を貸したい。国民を助けに行きたい。だが、タクマを知らない場所に一人残せない。心に迷いが生じた。
俺の迷いが見えたのだろう。救助を優先して、と言うタクマ。その通りだ。俺は何を迷っていたのか。
すぐに現場に駆け寄り、木材の撤去、けが人の搬送、現場の安全確保など警備隊たちと出来る限りのことをした。幸い死人は出ていなかった。一息つくまであっという間の三時間。三時間もたっている!
救助用にライトアップされていて気が付かなかったが、すでに空は夜空。皆の感謝の声をすり抜け、広場に戻る。閑散とした広場。残された王族用馬車。馬たちはすでに落ち着きを取り戻している。
遅くなってゴメンと駆け寄ろうとしたのに、タクマがいない。周囲を見る。もしかしたら誰かが室内に入れてくれたのか?
「タクマ、どこだ?」
すぐに声をかけながら広場内を探す。
きっと近くで休んでいる。きっとすぐ見つかる。ドクドク鳴る心臓を必死でなだめる。護衛を多人数つければよかった。後悔が押し寄せる。すぐに見つかると自分に言い聞かせるが、もしタクマが居なくなってしまったら、という不安が全身を駆け巡る。時間の経過とともに、ざわつく心と不安が大きくなっていった。
「西区の人の出入りを全て監視しろ。徹底して住人の家庭調査を行え。全部の家に立ち入り調査をしろ!」
「殿下、ここは商業地区です。出入りの監視はかなり困難かと。立ち入りなどは権限を越えております」
「うるさい! どこかにタクマが隠されているかもしれんだろう! 誰かがタクマを奪ったかもしれん!」
「いけません。むやみに疑ってはルーカス様の信用を落とします。それに、国民の生活に影響がでてしまいます」
目の前のテーブルを蹴とばす。ガターンと大きな音で吹き飛ぶ。
それに動じず犬耳を立てて正面に立つ護衛隊長。分かっている。本当は獅子の怒りに怯えて、耳が垂れそうになっている。小さく足が震えている。
必死で俺に正論を伝えてくれている。その姿を見て、自分が情けなくなる。八つ当たりばかりして申し訳なさがこみ上げる。イライラする頭を抱え、椅子に座る。大きく深呼吸する。
「……すまない。わかっている。止めてくれて感謝する」
「殿下。お気持ちは分かっているつもりです。我々もタクマ様を心配し、出来る限りの捜索をしております。神の子が早くお戻りになる事を皆祈っております。引き続き街での聞き取り情報収集、不審者の情報収集を行います」
「……それでいい。よろしく頼む」
西区広場に特設したタクマの捜索本部。ここに泊まり込んでいる。手が震える。タクマはどうして消えた? タクマは十三区では森を怖がる時もあった。暗くなってから森には入らないだろう。
目撃情報がない事から、この近くに監禁されている可能性が高い。無体な事を強いられていたら、と不安がよぎる。
無事でいてくれ。生きていてくれ。そればかりを願う日々。そしてもし、タクマが元の自分の世界に戻されてしまっていたら……。もう二度と会えないかもしれない。
ゾワゾワと沸き上がる不安に押しつぶされそうになる。タクマ、愛しいタクマ。黒い瞳を輝かせて俺を見るタクマ。抱き締めるとそっと頭を寄り添わせてくるタクマ。愛らしい笑顔が見たい。寂しいよ。
タクマ、どこにいる? 会いたい。不安と焦りで混乱する。混乱はイライラになる。怒りのようなやり場のない感情がグルグル巡る。
タクマが消えてから半月が経過していた。
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