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Ⅶ それぞれの道

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蓮とルカの関係は大きく動いている。良い方向に動いていると思う。

蓮と居るとオメガであることに意地を張らなくてもいい自分がいる。そんな安心感で心が楽になる。蓮に寄り添う自分を受け入れようとルカは思った。否定ばかりしなくていいと思い気持ちが楽になった。

アルファに甘えて幸せを感じるのも、ありのままのルカなのだと思えた。顔も知らないまま番にされてから今の状況まで、ずいぶん遠回りをしたように思う。思い返してクスリと笑いが漏れる。

「なんだ? 一人で楽しそうにして」
密着する蓮が不思議そうな声を出す。

「何でもない。そうだなぁ。強いて言えば蓮が世界に認められる俳優になって欲しいって考えていたくらいかなぁ」
「おいおい。ハードル上げてくれるな。俺としたら一刻も早くルカの横に立てるよう必死なのだから」

困った顔をしながら優しくルカに触れる蓮の手。温かさを感じて頬が緩む。

「蓮らしく生きてみろって言ってんの。本気出せば、蓮なら世界を狙える」
目を見開いてルカを見つめる蓮。

「蓮、満足する結果をとれよ。それが出来たら、俺に膝ついて言う事あるだろ?」
ルカを見ていた蓮の頬がわずかに紅潮する。

「そうか。そうだな。その通りだ。ルカ。待っていてくれ。やっぱりお前は凄いオメガだ」
愛おしそうにルカを見る蓮に一言。

「ま、結果次第じゃキズモノアルファになるかも、だけどな」
ルカの言葉に二人で声を上げて笑った。

蓮は何度も『俺の最高のオメガ』と褒めたたえていた。番のアルファにそう言われて悪い気はしないから放っておくけれど、蓮は変わったアルファなのだと思う。世間のアルファのイメージとは違う。オメガを弱者とせずルカ個人を認めてくれているような安心感。まぁこんな蓮だからルカが受け入れられるのかもしれない。


 「じゃ、頑張れよ。蓮」
「ルカ、助けが必要な時には必ず連絡をくれ」

名残惜しそうにルカに触れる手を優しく拒否する。困ったような微笑みを浮かべる蓮。ルカは蓮に向かって満面の笑みを向けて小さく手を振った。ホテルのセミスイートルームから出ると田村さんが待っていてくれた。全て察した顔でルカの背中をポンポン叩く田村さん。何も言わない優しさにルカの目にジワリと涙が浮かんだ。

「田村さん、ありがとう」
「いいよ。さ、ルカ君はルカ君の生きる道を精一杯頑張ろうよ。蓮さんに胸を張っていられるようにね」

優しい田村さんの言葉に深呼吸して前を向く。

「そうですね。蓮が迎えに来るまでに俺がコケたら恥ずかしすぎる」
「あはは。その意気で売れっ子キープしてくれよ」

田村さんと笑いあった。温かい気持ちと共に(頑張ろう)と心に誓った。

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