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Ⅲ 番のアルファ?

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 「二人とも、もう少し幸せな感じを出してくれるかなぁ」
カメラマンの困った声に申し訳なくなる。

緊急抑制剤が効いて頭が冴えてくると説明も言い訳もしてこない蓮に腹が立ってきていた。それがルカの表情や態度に出ていたと思う。

「仕事だ。ちゃんとしろ」
無表情のまま小さな声で呟く蓮。その高圧的な態度に心が怒りに揺れる。

「緊急抑制剤、四時間しか効かないはずだ。早く終わらせるべきだ」
続く言葉にぎくりとする。そうだ。蓮と長くいれば発情が誘発されてしまう。長くごまかし続けていたオメガの部分がルカの中で騒ぎ出してしまう。

「休憩、休憩を入れてもらって良いでしょうか!」
川口さんが声を上げる。ありがたいけれど、一刻も早く撮影を済ませたほうが良い事は確かだ。

「大丈夫です。すみません。続けてください!」
深呼吸してざわつく心をなだめ、気持ちを切り替える。蓮を見上げれば、少しだけ柔らかく微笑んでくる。それだけで心臓がドクリと歓喜に震える。怒りや苦しみの心よりオメガの部分が勝ってしまう自分が悔しかった。でも、今はそんなオメガの部分に頼ろうと思った。

「あぁ、すっごくいいね。神様の逢瀬みたいだ。そのまま、そのままで」
ステンドグラスの光が降り注ぐチャペル内の壇にあがる階段。壇上には大きな十字架。ピンクシルバーのタキシード姿のルカの手を蓮が握り、エスコートをしているようなポージング。黒いタキシード姿の蓮が差し込む光で幻想的に見えてしまう。あまりに美しい連の存在に圧倒される。

(俺の、アルファだ)

そんな欲がルカに沸き上がる。吸い寄せられるように連と目を合わせたまま、その胸にゆっくり引き寄せられる。

「いい雰囲気だよ。そのまま、蓮がLUCaを後ろから抱きしめて」
蓮にゆっくり身体の向きを変えられて、後ろからハグ。

途端に、ルカの心臓が恐怖の音を立てる。あの、夜道に噛まれた時の痛みが蘇る。身体がビクリと緊張する。蓮の顔が見えないと、怖い。徐々にガタガタと細かく震える身体。ちょっと、これはヤバい。眩暈がして前に逃げようとしたとき、ふわりと連に抱き上げられる。驚いて恐怖心が吹き飛ぶ。

「ちょ、ちょっと!」
指示されていない動きにとまどいの声をかける。蓮はチラリと腕の中のルカを見つめ、そのままバージンロードを扉に向けて歩いていく。

「どこ行くんだよ? 蓮?」
カメラマンがシャッター音を響かせながら追いかけてくる。照明などスタッフも後に続く。

ガチャリと教会のドアを開け外でルカを降ろす。二メートル近くある蓮がルカの目線に合わせるように屈む。片手でルカの頬に触れる。
「大丈夫か? 外の方が空気いいだろう?」
心の中まで見通されるような黒い瞳だ。色素が薄めのルカとは全く違う瞳。

「お前は、綺麗だな」
小さく呟く蓮の声。褒めてくれた。嬉しくてルカがフフっと照れ笑いを溢す。すると蓮が満足そうに微笑む。

「あぁ、すごくいいね! 最高だ!」
カメラのシャッター音と周囲の声が頭をすり抜ける。そのまま、キスを。そう思ったけれど。

「はい、ここの場所はこれでOK。着替えて披露宴会場に行こう!」
カメラマンの声にハッと現実に戻る。周りを見れば、頬を染めたスタッフと怖い顔の川口さんが目に映った。
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