上 下
11 / 11
第一章

05.職業の迷走(挿絵有)

しおりを挟む
別の扉が開いた気配がした、どうやら声の主は鍵を持っているらしい。そうすると不審人物ではないのかな。
母さんをチラリと見ればとても嬉しそうな顔をしている、うん、父親だねこれ。

「あれ?エルザいないの?エールーザーーー???エーーールーーーーザーーーー????」

「えーー、居ないのエルザーーーー???なぁ隠れてるのかーーーーー???」

とても大きくて間延びたのん気な声で、母さんの名前(?)を呼んでいる。ちょっと笑っている。居るのわかってるねこれ。
ズカズカと足音が聞こえる、足音まで大きい。大分大股だな、足の長さから考えてもかなりの大男な感じだ。
あ、母さんわざと声出してない。ニコニコしている、遊んでいるなこれ。僕と目が合ったら「シー」ってされたからシーってしておく。

「俺のエルザはここかな~~~???」

別の場所の扉を開けている、彼わざとやっていない?本当はどこにいるかもわかっているんじゃないかな。
この後もどこかなーと言いながら全部別の場所を開けている、それを聞きながら母さんは吹き出しそうになるのをこらえている。
楽しそうだなぁ、この遊び。かくれんぼって僕はしたことがないし出来ない。なんせ僕もランゲツもある一定の間合いに入られればお互いに場所がわかるから。
こんなに楽しそうなやり取りとかまずしない。いっそランゲツが切れそう、とっとと出てこいやと。
僕は…こういうやりとりちょっと好き…大声では言えないけれど。

「ふっふっふここだなエルザ。流石はエルザだ、隠れるのがすごく上手だなぁ。」

いや全く隠れていないよ母さんは。くだらない茶番なのに僕まで顔がにやけてしまう。
ここが最後なんだろうか。扉が開かれて、これでもかと思う程の満面の笑みを浮かべた男が入ってきた。
一瞬部屋の様子に怪訝な顔をしつつも、それは本当に一瞬ですぐに彼の表情が抜け落ちた。
声の主の彼と僕はばっちりと目が合った。


え 、 若 い 。 (本日二度目)


若すぎない?ちょっと、どう見ても彼も10とそこそこしか生きていないでしょう?
それに凄く大きい、え、ランゲツより大きくない?かなり大柄で真面目そう、精悍な顔立ちなのに幼さが色濃く残っている。
ね、ねえ、本当に、僕のこと作っているの?作っちゃダメな年齢じゃないの??この世界どうなっているの??僕困惑。
あんまりにも大きいから見上げていると首が痛い。少し困っていれば母さんが心底楽しそうに僕に語りかけた。


「リュウキ、ご挨拶してあげて。リュウキのお父さんよ、わかる?」

「うん、わかるよ母さん。」

「…」

「父さん、僕だよ、僕。」

「…」


ぽかんとしたまま帰ってこない。既視感あるな、うん、攻めよう。
僕は母さんから離れて、先程同様に手をパタパタさせてみる。そして今度は違う方向にくるりとその場で回る合わせ技で行ってみた。


「ねぇ僕だよ、僕。見てみて、僕こんなにげ『『可愛いいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!』』


え?なんで母さんまで??

程同時に二人から揉みくちゃにされる僕。二人とも落ち着いてほしい、僕の年齢の子にそれをやったら危なすぎるよ。実際に苦しいし。


「ああああ喋ってパタパタして回るリュウキ可愛いいいいいいいい!!!!天使いいい!!!!」

「天使が、天使が二人いるーーー!!!天使がさらに倍増されていて更に天使に磨きがかかって天使が輝いているーーーーー!!!」


母さんはともかく父さんの方は大丈夫なんだろうか?
何を言っているのかもうわからないよ。
僕は容赦なく父さんの方をバシバシたたく、苦しいから離れてと気持ちを込めて叩けば伝わったようだ。
すまんと言いながら二人とも離れ、僕は深く一息ついた。

彼、びくともしないな…うーん…

僕から二人は離れると今度は互いにぎゅっと抱き合った。母さんをすっぽりと抱き込む父さんの姿に僕はドキリとする。
僕の知っているものとは違う、と瞬時に感じてしまった。あの世界でも睦事を見る機会が結構あったけれど、こんな抱擁を見たことは一度もない。
ただ抱きしめているだけなのに甘やかさが伝わるような抱擁だ。
本当はじっと見ちゃいけないんだろうけれど、まじまじと見てしまう。


「良かった。良かったなぁエルザ。ほら、俺の言ったとおりになっただろ?」

「ええ、本当に良かったよぉ、昔の私と同じ状態になるなんて思わなかったからねぇ。」

「「魔力過多症」なんて不治の病だからな、でも俺とエルザの子だしそこは大丈夫だとは思っていたんだけれどな。」

「私は生後三か月間ぐらいだったからねぇ、この子はもうすぐ2歳になるから本当に心配で心配で…」


僕二年位しか生きていないんだ、それは小さいよ。っというか、親が子供の年齢覚えているんだねこの世界。
それに聞きなれない単語が出てきたな。「魔力過多症」か、後で調べてみよう。

僕はじっとその場で二人を見ながら、初めの時から感じていた消えない違和感について考えていた。
どう考えても二人とも若すぎるし、それだけじゃなくて…


「ほら、リュウキ。」

「えっ」

ふいに父さんの手が伸びて、僕はグイっと抱き上げられる。
手がかなり大きい、尋常ではない程鍛えられた腕だ。
彼は僕を軽々と抱きあげて、そのままポンと、ポンと宙に投げたのだ。

「え?え?!」

少し低めに真上に投げて、すぐに僕を受け止める。

な、なに?なにこれ??
ちらりと母さんの方を見れば唖然としている、むしろ少し青ざめている。ああ、これ、正解じゃないやつだね。
そんなことを考えていれば、また彼が僕を真上に投げる、そして受け止めるの繰り返しだ。

…ん?アレ?楽しいかもしれない。

その後に、今度は僕をつかんでくるくると回る。早くはない、ゆっくりだから目は回らない。


「っふふ…」

「楽しいか?!!リュウキ!!!」

「うん、楽しいよ父さん!!」

「ちょっと、あんたぁ…それ以上は危ないからぁ」

「そっか、男の子だな、もっと高く投げるか?」

「え、いいの?!」

「え、リュ」

「ほら、高いたかーい!!!」

「ふふっ あはは!!」


こんなにも声をあげて笑うのなんて子供の時以来だ、今は子供だからいいよね、凄く楽しい。
好き好んで僕に触ろうとする人間自体が子供の頃は皆無だった。こんな風に遊んでもらうこと自体が初体験だ。


「ちょっと…危な…やめなよあんたぁ…」


段々と高くなるし、回す速さも回数も増えていって、僕としてはとてもとても楽しい。さらに声を高く上げて笑ってしまった。
大丈夫なのに、僕落とされた程度ではなんてことないよ。傷一つつかないからさ。
でも母さんは終始顔が真っ青で、でも段々と表情が変わっていって…あ、これはよく見たやばい奴だ。彼女がランゲツに爆発する前によくする表情だった。
父さんは僕のはしゃぐ様子に余程嬉しいのか母さんの変化にまるで気が付いていない。


「よし、今度はもっと速く回し『わたくしはおやめなさいと言っていますよアル!!』

「…も、申し訳ありませんお嬢様…」
 
「…」

怒られちゃったなとどこかのん気に(反省していないなこれ)僕に語りながら、父さんは僕を抱きあげたまま今度は肩に乗せた。
これはよく煌陽で見たことがある「肩車」だ。大人が子供にする奴だ。
思っていた以上に視点が高い、昔の自分よりも高い視線に心は踊る。これはこれですごく楽しい!!

浮かれる心とば別に、頭の中は冷静だ。感じていた違和感に関して、二人は完全に『確定』になった。

僕自身は王族だったけれど、王族として真っ当に育っていたわけではない。平民や下人や奴隷、それ以下の人間までどういうものかをよく知っているのだ。
二人とも少し乱暴な田舎言葉を上手く使ってはいるが、明らかに『上品』なのだ。生まれ持ってのものはどうやったって隠せるものではない。
言葉だけではない、仕草が「平民」のそれではない。どの階級の人間かまではわからないけれど、おそらくかなりの階級だと思う。
母さんから感じる力はとても強い、なんていうか異質。今はまだ異能がどれだけ使えるのかがわからないけれど、後で彼女は異能で確認するとして。

父さんの方がまた尋常ではないというか、なにこの人凄く強いんだけれど。
彼は武人だ、恐らくではなく『確実』だ。これが平民であるわけがない、あるならばある意味この世界に凄く期待を持てそうだけれど。
武人を知るのに能力は必要ない。ここからは僕の観察眼だ。
僕を肩に乗せながら母に謝る父に(母さん中々機嫌が直らない)僕はそっと肩やら手やらを触れる。足元の動きや目の使い方確認し、今までのしていた彼の動作を思い出す。腕の筋肉や足幅なんかも確認しつつ、僕は思考を巡らす。
かなり体幹も鍛えられている。少し動作に癖があるな、初動が遅れる場所がある…右側?でも視野が異常に広いからそれでも間に合う自信があるんだな。
これは面白いかも、あちらの世界では中々いないタイプだ。

左利き、武器は大剣か両手剣の重量級、でも片手でも扱えるように訓練しているみたいだ、両方の筋肉がこういう付き方しているのは振りぬく癖がついているから。ちゃんと鍛えないと腕持っていかれちゃうからね。それから体術もそこそこ使えるみたい。体重のかけ方が体術やっている人のそれ。
村人なのに体の仕上がりが異常、これ毎日どこかしらで鍛錬積んでいる。平民のする仕事だけではこうはならない。
でも両手剣を片手で扱わないといけない場面があるならばどんな場面だろう?両手剣だけでも十分に彼なら強いんじゃないかと思うんだけれど。この世界の剣術や武術に関しても勉強しないとだな。
こういう勉強なら大歓迎なのに、毎回こうならばいいのにね。

僕の場合は癖や利き手がわからないように訓練は積んでいる。前の僕の剣は重量系で扱うのにコツがあるんだよ。癖とかばれちゃうと一気に死に直面しちゃうからね。
前の剣、大切な僕の剣…忘れはしない、あの剣がどうしても扱いたくて僕はあの男に会いに行って、そこでランゲツと出会ったのだから。

やっと機嫌が直った母さんがニコニコとしている。この家天井が高いおかげで、父さんは僕を下ろさずに家の中をうろついていた。

お嬢様、か。

父さんの言葉を思い出して僕はちょっとだけ目が遠くなる。
「訳アリ」だ二人は完全に「訳アリ」だ。多分二人は駆け落ちだ、階級の高い人間の駆け落ちとか相当な「訳アリ」だよこれ。


僕の職業は「ただの村人」だ。そのつもり、これからもずっと。
階級の人間とは無縁でいたいのに両親が「それ」か、どうしようかな。大丈夫かな僕の「ただの村人」生活は。
今度の行く末に若干不安を感じつつも、僕はこれからの生活がどうなるんだろうと少しだけワクワクしてきた。





しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。

あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!? ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。 ※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

ヤンデレ彼女は蘇生持ち

僧侶A
恋愛
ヤンデレは暴走するとすぐに相手の体を刺してしまう、何とも大変な恋人の事である。 そんな女性と俺は知らずにお付き合いすることになった。 でも、彼女は蘇生が使える。だからいくら刺されても生き返らせてくれます。 やったね!ヤンデレと付き合っても生存ルート確定。 つまり自分の事をひたすら愛してくれるただの良い女性です! 完結まで毎日14時に更新します。

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

処理中です...