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第一章
05.職業の迷走(挿絵有)
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別の扉が開いた気配がした、どうやら声の主は鍵を持っているらしい。そうすると不審人物ではないのかな。
母さんをチラリと見ればとても嬉しそうな顔をしている、うん、父親だねこれ。
「あれ?エルザいないの?エールーザーーー???エーーールーーーーザーーーー????」
「えーー、居ないのエルザーーーー???なぁ隠れてるのかーーーーー???」
とても大きくて間延びたのん気な声で、母さんの名前(?)を呼んでいる。ちょっと笑っている。居るのわかってるねこれ。
ズカズカと足音が聞こえる、足音まで大きい。大分大股だな、足の長さから考えてもかなりの大男な感じだ。
あ、母さんわざと声出してない。ニコニコしている、遊んでいるなこれ。僕と目が合ったら「シー」ってされたからシーってしておく。
「俺のエルザはここかな~~~???」
別の場所の扉を開けている、彼わざとやっていない?本当はどこにいるかもわかっているんじゃないかな。
この後もどこかなーと言いながら全部別の場所を開けている、それを聞きながら母さんは吹き出しそうになるのをこらえている。
楽しそうだなぁ、この遊び。かくれんぼって僕はしたことがないし出来ない。なんせ僕もランゲツもある一定の間合いに入られればお互いに場所がわかるから。
こんなに楽しそうなやり取りとかまずしない。いっそランゲツが切れそう、とっとと出てこいやと。
僕は…こういうやりとりちょっと好き…大声では言えないけれど。
「ふっふっふここだなエルザ。流石はエルザだ、隠れるのがすごく上手だなぁ。」
いや全く隠れていないよ母さんは。くだらない茶番なのに僕まで顔がにやけてしまう。
ここが最後なんだろうか。扉が開かれて、これでもかと思う程の満面の笑みを浮かべた男が入ってきた。
一瞬部屋の様子に怪訝な顔をしつつも、それは本当に一瞬ですぐに彼の表情が抜け落ちた。
声の主の彼と僕はばっちりと目が合った。
え 、 若 い 。 (本日二度目)
若すぎない?ちょっと、どう見ても彼も10とそこそこしか生きていないでしょう?
それに凄く大きい、え、ランゲツより大きくない?かなり大柄で真面目そう、精悍な顔立ちなのに幼さが色濃く残っている。
ね、ねえ、本当に、僕のこと作っているの?作っちゃダメな年齢じゃないの??この世界どうなっているの??僕困惑。
あんまりにも大きいから見上げていると首が痛い。少し困っていれば母さんが心底楽しそうに僕に語りかけた。
「リュウキ、ご挨拶してあげて。リュウキのお父さんよ、わかる?」
「うん、わかるよ母さん。」
「…」
「父さん、僕だよ、僕。」
「…」
ぽかんとしたまま帰ってこない。既視感あるな、うん、攻めよう。
僕は母さんから離れて、先程同様に手をパタパタさせてみる。そして今度は違う方向にくるりとその場で回る合わせ技で行ってみた。
「ねぇ僕だよ、僕。見てみて、僕こんなにげ『『可愛いいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!』』
え?なんで母さんまで??
程同時に二人から揉みくちゃにされる僕。二人とも落ち着いてほしい、僕の年齢の子にそれをやったら危なすぎるよ。実際に苦しいし。
「ああああ喋ってパタパタして回るリュウキ可愛いいいいいいいい!!!!天使いいい!!!!」
「天使が、天使が二人いるーーー!!!天使がさらに倍増されていて更に天使に磨きがかかって天使が輝いているーーーーー!!!」
母さんはともかく父さんの方は大丈夫なんだろうか?
何を言っているのかもうわからないよ。
僕は容赦なく父さんの方をバシバシたたく、苦しいから離れてと気持ちを込めて叩けば伝わったようだ。
すまんと言いながら二人とも離れ、僕は深く一息ついた。
彼、びくともしないな…うーん…
僕から二人は離れると今度は互いにぎゅっと抱き合った。母さんをすっぽりと抱き込む父さんの姿に僕はドキリとする。
僕の知っているものとは違う、と瞬時に感じてしまった。あの世界でも睦事を見る機会が結構あったけれど、こんな抱擁を見たことは一度もない。
ただ抱きしめているだけなのに甘やかさが伝わるような抱擁だ。
本当はじっと見ちゃいけないんだろうけれど、まじまじと見てしまう。
「良かった。良かったなぁエルザ。ほら、俺の言ったとおりになっただろ?」
「ええ、本当に良かったよぉ、昔の私と同じ状態になるなんて思わなかったからねぇ。」
「「魔力過多症」なんて不治の病だからな、でも俺とエルザの子だしそこは大丈夫だとは思っていたんだけれどな。」
「私は生後三か月間ぐらいだったからねぇ、この子はもうすぐ2歳になるから本当に心配で心配で…」
僕二年位しか生きていないんだ、それは小さいよ。っというか、親が子供の年齢覚えているんだねこの世界。
それに聞きなれない単語が出てきたな。「魔力過多症」か、後で調べてみよう。
僕はじっとその場で二人を見ながら、初めの時から感じていた消えない違和感について考えていた。
どう考えても二人とも若すぎるし、それだけじゃなくて…
「ほら、リュウキ。」
「えっ」
ふいに父さんの手が伸びて、僕はグイっと抱き上げられる。
手がかなり大きい、尋常ではない程鍛えられた腕だ。
彼は僕を軽々と抱きあげて、そのままポンと、ポンと宙に投げたのだ。
「え?え?!」
少し低めに真上に投げて、すぐに僕を受け止める。
な、なに?なにこれ??
ちらりと母さんの方を見れば唖然としている、むしろ少し青ざめている。ああ、これ、正解じゃないやつだね。
そんなことを考えていれば、また彼が僕を真上に投げる、そして受け止めるの繰り返しだ。
…ん?アレ?楽しいかもしれない。
その後に、今度は僕をつかんでくるくると回る。早くはない、ゆっくりだから目は回らない。
「っふふ…」
「楽しいか?!!リュウキ!!!」
「うん、楽しいよ父さん!!」
「ちょっと、あんたぁ…それ以上は危ないからぁ」
「そっか、男の子だな、もっと高く投げるか?」
「え、いいの?!」
「え、リュ」
「ほら、高いたかーい!!!」
「ふふっ あはは!!」
こんなにも声をあげて笑うのなんて子供の時以来だ、今は子供だからいいよね、凄く楽しい。
好き好んで僕に触ろうとする人間自体が子供の頃は皆無だった。こんな風に遊んでもらうこと自体が初体験だ。
「ちょっと…危な…やめなよあんたぁ…」
段々と高くなるし、回す速さも回数も増えていって、僕としてはとてもとても楽しい。さらに声を高く上げて笑ってしまった。
大丈夫なのに、僕落とされた程度ではなんてことないよ。傷一つつかないからさ。
でも母さんは終始顔が真っ青で、でも段々と表情が変わっていって…あ、これはよく見たやばい奴だ。彼女がランゲツに爆発する前によくする表情だった。
父さんは僕のはしゃぐ様子に余程嬉しいのか母さんの変化にまるで気が付いていない。
「よし、今度はもっと速く回し『私はおやめなさいと言っていますよアル!!』
「…も、申し訳ありませんお嬢様…」
「…」
怒られちゃったなとどこかのん気に(反省していないなこれ)僕に語りながら、父さんは僕を抱きあげたまま今度は肩に乗せた。
これはよく煌陽で見たことがある「肩車」だ。大人が子供にする奴だ。
思っていた以上に視点が高い、昔の自分よりも高い視線に心は踊る。これはこれですごく楽しい!!
浮かれる心とば別に、頭の中は冷静だ。感じていた違和感に関して、二人は完全に『確定』になった。
僕自身は王族だったけれど、王族として真っ当に育っていたわけではない。平民や下人や奴隷、それ以下の人間までどういうものかをよく知っているのだ。
二人とも少し乱暴な田舎言葉を上手く使ってはいるが、明らかに『上品』なのだ。生まれ持ってのものはどうやったって隠せるものではない。
言葉だけではない、仕草が「平民」のそれではない。どの階級の人間かまではわからないけれど、おそらくかなりの階級だと思う。
母さんから感じる力はとても強い、なんていうか異質。今はまだ異能がどれだけ使えるのかがわからないけれど、後で彼女は異能で確認するとして。
父さんの方がまた尋常ではないというか、なにこの人凄く強いんだけれど。
彼は武人だ、恐らくではなく『確実』だ。これが平民であるわけがない、あるならばある意味この世界に凄く期待を持てそうだけれど。
武人を知るのに能力は必要ない。ここからは僕の観察眼だ。
僕を肩に乗せながら母に謝る父に(母さん中々機嫌が直らない)僕はそっと肩やら手やらを触れる。足元の動きや目の使い方確認し、今までのしていた彼の動作を思い出す。腕の筋肉や足幅なんかも確認しつつ、僕は思考を巡らす。
かなり体幹も鍛えられている。少し動作に癖があるな、初動が遅れる場所がある…右側?でも視野が異常に広いからそれでも間に合う自信があるんだな。
これは面白いかも、あちらの世界では中々いないタイプだ。
左利き、武器は大剣か両手剣の重量級、でも片手でも扱えるように訓練しているみたいだ、両方の筋肉がこういう付き方しているのは振りぬく癖がついているから。ちゃんと鍛えないと腕持っていかれちゃうからね。それから体術もそこそこ使えるみたい。体重のかけ方が体術やっている人のそれ。
村人なのに体の仕上がりが異常、これ毎日どこかしらで鍛錬積んでいる。平民のする仕事だけではこうはならない。
でも両手剣を片手で扱わないといけない場面があるならばどんな場面だろう?両手剣だけでも十分に彼なら強いんじゃないかと思うんだけれど。この世界の剣術や武術に関しても勉強しないとだな。
こういう勉強なら大歓迎なのに、毎回こうならばいいのにね。
僕の場合は癖や利き手がわからないように訓練は積んでいる。前の僕の剣は重量系で扱うのにコツがあるんだよ。癖とかばれちゃうと一気に死に直面しちゃうからね。
前の剣、大切な僕の剣…忘れはしない、あの剣がどうしても扱いたくて僕はあの男に会いに行って、そこでランゲツと出会ったのだから。
やっと機嫌が直った母さんがニコニコとしている。この家天井が高いおかげで、父さんは僕を下ろさずに家の中をうろついていた。
お嬢様、か。
父さんの言葉を思い出して僕はちょっとだけ目が遠くなる。
「訳アリ」だ二人は完全に「訳アリ」だ。多分二人は駆け落ちだ、階級の高い人間の駆け落ちとか相当な「訳アリ」だよこれ。
僕の職業は「ただの村人」だ。そのつもり、これからもずっと。
階級の人間とは無縁でいたいのに両親が「それ」か、どうしようかな。大丈夫かな僕の「ただの村人」生活は。
今度の行く末に若干不安を感じつつも、僕はこれからの生活がどうなるんだろうと少しだけワクワクしてきた。
母さんをチラリと見ればとても嬉しそうな顔をしている、うん、父親だねこれ。
「あれ?エルザいないの?エールーザーーー???エーーールーーーーザーーーー????」
「えーー、居ないのエルザーーーー???なぁ隠れてるのかーーーーー???」
とても大きくて間延びたのん気な声で、母さんの名前(?)を呼んでいる。ちょっと笑っている。居るのわかってるねこれ。
ズカズカと足音が聞こえる、足音まで大きい。大分大股だな、足の長さから考えてもかなりの大男な感じだ。
あ、母さんわざと声出してない。ニコニコしている、遊んでいるなこれ。僕と目が合ったら「シー」ってされたからシーってしておく。
「俺のエルザはここかな~~~???」
別の場所の扉を開けている、彼わざとやっていない?本当はどこにいるかもわかっているんじゃないかな。
この後もどこかなーと言いながら全部別の場所を開けている、それを聞きながら母さんは吹き出しそうになるのをこらえている。
楽しそうだなぁ、この遊び。かくれんぼって僕はしたことがないし出来ない。なんせ僕もランゲツもある一定の間合いに入られればお互いに場所がわかるから。
こんなに楽しそうなやり取りとかまずしない。いっそランゲツが切れそう、とっとと出てこいやと。
僕は…こういうやりとりちょっと好き…大声では言えないけれど。
「ふっふっふここだなエルザ。流石はエルザだ、隠れるのがすごく上手だなぁ。」
いや全く隠れていないよ母さんは。くだらない茶番なのに僕まで顔がにやけてしまう。
ここが最後なんだろうか。扉が開かれて、これでもかと思う程の満面の笑みを浮かべた男が入ってきた。
一瞬部屋の様子に怪訝な顔をしつつも、それは本当に一瞬ですぐに彼の表情が抜け落ちた。
声の主の彼と僕はばっちりと目が合った。
え 、 若 い 。 (本日二度目)
若すぎない?ちょっと、どう見ても彼も10とそこそこしか生きていないでしょう?
それに凄く大きい、え、ランゲツより大きくない?かなり大柄で真面目そう、精悍な顔立ちなのに幼さが色濃く残っている。
ね、ねえ、本当に、僕のこと作っているの?作っちゃダメな年齢じゃないの??この世界どうなっているの??僕困惑。
あんまりにも大きいから見上げていると首が痛い。少し困っていれば母さんが心底楽しそうに僕に語りかけた。
「リュウキ、ご挨拶してあげて。リュウキのお父さんよ、わかる?」
「うん、わかるよ母さん。」
「…」
「父さん、僕だよ、僕。」
「…」
ぽかんとしたまま帰ってこない。既視感あるな、うん、攻めよう。
僕は母さんから離れて、先程同様に手をパタパタさせてみる。そして今度は違う方向にくるりとその場で回る合わせ技で行ってみた。
「ねぇ僕だよ、僕。見てみて、僕こんなにげ『『可愛いいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!』』
え?なんで母さんまで??
程同時に二人から揉みくちゃにされる僕。二人とも落ち着いてほしい、僕の年齢の子にそれをやったら危なすぎるよ。実際に苦しいし。
「ああああ喋ってパタパタして回るリュウキ可愛いいいいいいいい!!!!天使いいい!!!!」
「天使が、天使が二人いるーーー!!!天使がさらに倍増されていて更に天使に磨きがかかって天使が輝いているーーーーー!!!」
母さんはともかく父さんの方は大丈夫なんだろうか?
何を言っているのかもうわからないよ。
僕は容赦なく父さんの方をバシバシたたく、苦しいから離れてと気持ちを込めて叩けば伝わったようだ。
すまんと言いながら二人とも離れ、僕は深く一息ついた。
彼、びくともしないな…うーん…
僕から二人は離れると今度は互いにぎゅっと抱き合った。母さんをすっぽりと抱き込む父さんの姿に僕はドキリとする。
僕の知っているものとは違う、と瞬時に感じてしまった。あの世界でも睦事を見る機会が結構あったけれど、こんな抱擁を見たことは一度もない。
ただ抱きしめているだけなのに甘やかさが伝わるような抱擁だ。
本当はじっと見ちゃいけないんだろうけれど、まじまじと見てしまう。
「良かった。良かったなぁエルザ。ほら、俺の言ったとおりになっただろ?」
「ええ、本当に良かったよぉ、昔の私と同じ状態になるなんて思わなかったからねぇ。」
「「魔力過多症」なんて不治の病だからな、でも俺とエルザの子だしそこは大丈夫だとは思っていたんだけれどな。」
「私は生後三か月間ぐらいだったからねぇ、この子はもうすぐ2歳になるから本当に心配で心配で…」
僕二年位しか生きていないんだ、それは小さいよ。っというか、親が子供の年齢覚えているんだねこの世界。
それに聞きなれない単語が出てきたな。「魔力過多症」か、後で調べてみよう。
僕はじっとその場で二人を見ながら、初めの時から感じていた消えない違和感について考えていた。
どう考えても二人とも若すぎるし、それだけじゃなくて…
「ほら、リュウキ。」
「えっ」
ふいに父さんの手が伸びて、僕はグイっと抱き上げられる。
手がかなり大きい、尋常ではない程鍛えられた腕だ。
彼は僕を軽々と抱きあげて、そのままポンと、ポンと宙に投げたのだ。
「え?え?!」
少し低めに真上に投げて、すぐに僕を受け止める。
な、なに?なにこれ??
ちらりと母さんの方を見れば唖然としている、むしろ少し青ざめている。ああ、これ、正解じゃないやつだね。
そんなことを考えていれば、また彼が僕を真上に投げる、そして受け止めるの繰り返しだ。
…ん?アレ?楽しいかもしれない。
その後に、今度は僕をつかんでくるくると回る。早くはない、ゆっくりだから目は回らない。
「っふふ…」
「楽しいか?!!リュウキ!!!」
「うん、楽しいよ父さん!!」
「ちょっと、あんたぁ…それ以上は危ないからぁ」
「そっか、男の子だな、もっと高く投げるか?」
「え、いいの?!」
「え、リュ」
「ほら、高いたかーい!!!」
「ふふっ あはは!!」
こんなにも声をあげて笑うのなんて子供の時以来だ、今は子供だからいいよね、凄く楽しい。
好き好んで僕に触ろうとする人間自体が子供の頃は皆無だった。こんな風に遊んでもらうこと自体が初体験だ。
「ちょっと…危な…やめなよあんたぁ…」
段々と高くなるし、回す速さも回数も増えていって、僕としてはとてもとても楽しい。さらに声を高く上げて笑ってしまった。
大丈夫なのに、僕落とされた程度ではなんてことないよ。傷一つつかないからさ。
でも母さんは終始顔が真っ青で、でも段々と表情が変わっていって…あ、これはよく見たやばい奴だ。彼女がランゲツに爆発する前によくする表情だった。
父さんは僕のはしゃぐ様子に余程嬉しいのか母さんの変化にまるで気が付いていない。
「よし、今度はもっと速く回し『私はおやめなさいと言っていますよアル!!』
「…も、申し訳ありませんお嬢様…」
「…」
怒られちゃったなとどこかのん気に(反省していないなこれ)僕に語りながら、父さんは僕を抱きあげたまま今度は肩に乗せた。
これはよく煌陽で見たことがある「肩車」だ。大人が子供にする奴だ。
思っていた以上に視点が高い、昔の自分よりも高い視線に心は踊る。これはこれですごく楽しい!!
浮かれる心とば別に、頭の中は冷静だ。感じていた違和感に関して、二人は完全に『確定』になった。
僕自身は王族だったけれど、王族として真っ当に育っていたわけではない。平民や下人や奴隷、それ以下の人間までどういうものかをよく知っているのだ。
二人とも少し乱暴な田舎言葉を上手く使ってはいるが、明らかに『上品』なのだ。生まれ持ってのものはどうやったって隠せるものではない。
言葉だけではない、仕草が「平民」のそれではない。どの階級の人間かまではわからないけれど、おそらくかなりの階級だと思う。
母さんから感じる力はとても強い、なんていうか異質。今はまだ異能がどれだけ使えるのかがわからないけれど、後で彼女は異能で確認するとして。
父さんの方がまた尋常ではないというか、なにこの人凄く強いんだけれど。
彼は武人だ、恐らくではなく『確実』だ。これが平民であるわけがない、あるならばある意味この世界に凄く期待を持てそうだけれど。
武人を知るのに能力は必要ない。ここからは僕の観察眼だ。
僕を肩に乗せながら母に謝る父に(母さん中々機嫌が直らない)僕はそっと肩やら手やらを触れる。足元の動きや目の使い方確認し、今までのしていた彼の動作を思い出す。腕の筋肉や足幅なんかも確認しつつ、僕は思考を巡らす。
かなり体幹も鍛えられている。少し動作に癖があるな、初動が遅れる場所がある…右側?でも視野が異常に広いからそれでも間に合う自信があるんだな。
これは面白いかも、あちらの世界では中々いないタイプだ。
左利き、武器は大剣か両手剣の重量級、でも片手でも扱えるように訓練しているみたいだ、両方の筋肉がこういう付き方しているのは振りぬく癖がついているから。ちゃんと鍛えないと腕持っていかれちゃうからね。それから体術もそこそこ使えるみたい。体重のかけ方が体術やっている人のそれ。
村人なのに体の仕上がりが異常、これ毎日どこかしらで鍛錬積んでいる。平民のする仕事だけではこうはならない。
でも両手剣を片手で扱わないといけない場面があるならばどんな場面だろう?両手剣だけでも十分に彼なら強いんじゃないかと思うんだけれど。この世界の剣術や武術に関しても勉強しないとだな。
こういう勉強なら大歓迎なのに、毎回こうならばいいのにね。
僕の場合は癖や利き手がわからないように訓練は積んでいる。前の僕の剣は重量系で扱うのにコツがあるんだよ。癖とかばれちゃうと一気に死に直面しちゃうからね。
前の剣、大切な僕の剣…忘れはしない、あの剣がどうしても扱いたくて僕はあの男に会いに行って、そこでランゲツと出会ったのだから。
やっと機嫌が直った母さんがニコニコとしている。この家天井が高いおかげで、父さんは僕を下ろさずに家の中をうろついていた。
お嬢様、か。
父さんの言葉を思い出して僕はちょっとだけ目が遠くなる。
「訳アリ」だ二人は完全に「訳アリ」だ。多分二人は駆け落ちだ、階級の高い人間の駆け落ちとか相当な「訳アリ」だよこれ。
僕の職業は「ただの村人」だ。そのつもり、これからもずっと。
階級の人間とは無縁でいたいのに両親が「それ」か、どうしようかな。大丈夫かな僕の「ただの村人」生活は。
今度の行く末に若干不安を感じつつも、僕はこれからの生活がどうなるんだろうと少しだけワクワクしてきた。
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