僕とあの娘

みつ光男

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第23章.  M

【彼女】

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いつだったかな?

そう、何ヶ月か前わたしが
コウイチくんのバイト先の近くをうろうろしてた時

茶髪でショートカットの女の子と
親しく話してたのを見ちゃった日…

バイト先の人だろうと思って気にも留めてなかったけど…

嫌な予感が舞の頭の中をぐるぐると回り始める。

コウイチくんはいい人だけど優しすぎるんだよね

だから本人が意識してなくても
女の子からは評判もいいし

だからと言って一応わたしも“彼女”だし
そんなの全部に嫉妬してるわけじゃないけど

すごく心配なのは確かだった。


別の女の子の連絡先を捨ててるのはいいとして

何で…何でわたしの連絡先まで

もうわたしは
なのかな?

わたしの存在はコウイチくんにとって
重荷になってるんだろうか?

だよね?

バンドしてる人ってモテるのは不思議じゃない

彼女がいる、ってことが逆に
音楽やっていく上で足枷になってるんじゃ?

そうなるとわたしはコウイチくんにとって
お荷物でしかない…のかな?

会いたい、会って話がしたいよ

うぅん…だから、だからだよ

こんなこと言ってるから
コウイチくんがわたしといたくなくなるんだ。

わたしのこと…キライになったの?
ねえ、コウイチくん?

 アドレス帳の"M"のページを握りしめたまま
舞は茫然と部屋に立ち尽くしていた。

そして気づけば舞はバスに乗ってジョッキー、
鴻一のバイト先へと向かっていた。

ー コウイチくんに会いに行かなきゃ

いつもならこんな時、こんなこと絶対に聞けないけど
今日はどうしても確かめなくっちゃ、

「何でわたしの連絡先、捨てたの」って。

でも…話、聞いてくれるかな?
もうわたしのことなんて何とも思ってなかったら

いくらわたしがそれを聞いたところで
何の意味もないじゃない…

今はただ、顔を見るだけでも

それだけで安心できるなら
何もせずに手をこまねいてるよりずっとまし

バスは駅前の停留所に停まった。

舞は全力で走った
でもそれを鴻一に悟られないよう

 弾む息を押さえながら
ジョッキーのあるビルの手前に到着した。

そこで視界に飛び込んできたのは
偶然にも事務所から出てきた鴻一だった。

「コウイチくんっ」

「あれ?どうしたの舞、こんな時間に」

「へへっ、遅めのお昼休み…今日は実習午前で終わりだから」

「そっかぁ、俺は見ての通り、これから・・・」

「ねえ、ひとつ教えてほしいことがあるんだ」

「どうしたの?改まって」

「あのね、わたしの……」

「あ…?」

「わたしの…あ、いや、わたしと遊びに行かない?今から」

「え?どうしたの?」

「ふふっ冗談だよ、夜食、置いてるからバイト終わって帰ったら食べてね」

「だよね?ビックリしたなあ」

「感想、電話で教えてよ」

「うん、わかった」

「電話番号、忘れてない?」

「忘れるわけないだろ、ありがとう、合鍵
活用してくれてるんだね」

「ホントに?」

「え?」

「あ…ホントに感想、聞かせて…ね」

「うん」

「それじゃわたし、帰るね」


結局、聞けなかった

でもコウイチくんはいつものコウイチくんだった
わからない、もう何が何だかわからないよ・・・
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