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第10章. つづいてゆくのかな?
【こんな帰り道】
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ちょうどCDの録音が終わった
以前のように時間を忘れて話し込んで
バスを乗り逃すことはなくなったが
やはり帰る前はどことなく寂しいものだ、
例えまた明日会えるにしても。
「あ、もうこんな時間!そろそろお風呂入らなきゃ!」
「そうそう、明日は病院で実習だよ、ね?」
「そうなの、大変だなぁ、まだ慣れてないから」
やはり舞は「帰るね」と「さよなら」を
決して口に出して言わない。
ところで…
舞の通っていた高校は看護科はなく普通科だった。
看護学校に通い始めて2年が経ち
今は病院で実習をしながら
来年、准看護師の資格を取りその後、
国家試験を受けるためのカリキュラムを受講しながら
ゆくゆくはどこかの病院で働くことになるそうだ。
「大変だよな、俺みたいなのんきな大学生活じゃないよね?」
「でも、何とか、ね、今はコウイチくんも一緒だから力強いよ」
僕は少し意地悪な質問をしてみた。
「もしも一人…だったら?」
「心、折れてるかなぁ?でもわたし、他に出来ることもないしね」
「そうかなぁ?」
「コウイチくんが思ってるほど優等生じゃないんだよぉ」
「俺なんか学校行ってないもんね」
「出た!不良大学生、ふふっ!」
「大学行ってるバンドマン、って感じ」
「音楽、好きだもんねー」
そろそろ舞の帰る時間だ。
「あ、送ってくよ、バス停まで」
「うん!ありがと」
ここで舞はふと何か思い出したかのように
ドアの前で手招きした。
「コウイチくん…ちょっと」
その時、
舞のおでこが近付いてきたな、と思ったその瞬間に
柔らかな感触で一瞬、舞衣の唇が僕の唇に触れた。
「ふふっ、さっき途中までで終わった…でしょ?」
突然の出来事に動揺を見せないようにしながらも
僕の心臓は口から飛び出すほどに激しく鼓動していた。
それでも何とか平静を装い
「あ…奪ったなぁ!」
「ふふふ、いただきましたー!」
こんな感じの舞と僕との初めての接吻は
僕たちらしくどこまでも明るい雰囲気だった。
下宿の玄関を出るやいなや
「さ、行こう!コウイチくん」
そう言うと舞はいつになく大胆に腕を組んできた
こんな舞も悪くない。
少しずつステップを踏んで
いつか遠くない未来に結ばれれば
それが一番理想的なんだろう、と僕は思った。
「何か今日だけで凄く距離が近くなった感じ」
その言葉から察するに舞も僕と似た思いなのだろう。
バスを待つ間も僕は同じ時を過ごせる喜びで溢れていた
こんな感覚、いつ以来だろう?
ほどなく眩しいライトと共に
南駅町へ向かうバスがやって来た。
ここで舞を見送る…つもりが
「え?コウイチくん、どうしたのー?」
「あ、何か勢いで」
「あははは!大丈夫なの?こんな時間に」
「帰りのバス、あるはずだし」
何を思ったか僕は舞と同じバスに乗り込んでしまった。
「何か、離れたくないんだって、もう一人の俺が」
「あはは、もう!ビックリしたよ、手、振るつもりだったのにいないと思ったら乗ってんだから」
「俺もビックリしたよ」
「でも、そう言うの、何か好き」
結局、二人でバスに乗り
舞の寮まで送っていくことになった。
「じゃ、ここで」
「うん、ありがと」
「・・・舞」
僕は正面から舞をそっと抱き寄せて耳元で告げた。
「また明日ね」
「ふふ、くすぐったいよ、そんなに近くじゃなくても聞こえるから」
「たまにはこんなのも…いいかな、って」
「うん、でも、たまに、じゃなくて…いいよ」
「それじゃ、ゆっくりお風呂に…」
「入ってくるね!」
今日も二人の間に
「さよなら」の言葉はなかった。
舞の優しい香りが僕を包み込んだまま
しばらく離れなかった。
「さて、最終バスに乗るか」
時刻表を確認して愕然とした、
最終バスの到着する停留所は
下宿のある山野田町より3駅手前の
埴生駅前が終点だった。
バス代の節約にはなったが
おかげで20分歩く羽目になった。
「もう、何やってんだ、俺」
独り言を言いながらようやく川俣荘へ戻ると
例によって赤電話の横のホワイトボードには
" 中村さん キタハマさんから電話がありました "
との伝言。
舞は僕が真っ直ぐ部屋に戻ってるかどうかを
気にしてしてるのだろうか?
いやきっと、ただ話したいだけなんだろう。
早速電話をかけると
「あ、舞は今、お風呂…どうする?かけ直す?」
咲良だった。
「あ、さくちゃん?もうすぐ出そうなら待つよ」
「私でよかったら話し相手になろうか?」
「あ、そのまま無言で大丈夫」
「何でよ!」
いつしかあの無愛想な電話対応の咲良とも
気さくに話せるようになっていた。
そんなやり取りをしてる間に
お風呂上がりの舞と電話を替わってくれた。
受話器越しに至福の時間を過ごして部屋に戻ると
悟史の部屋からまた賑やかな声が聞こえた。
「あれ?まだ誰かいるのかな?」
そう思って部屋に戻ろうとした矢先、
突然ドアが開いた。
「コウイチ!帰ってたのか?話、聞いてほしいんだけど」
やまちゃんだった。
もう一人の声の主は誰だろう?
部屋の奥を覗くと亮二も一緒だった。
何だか話が長くなりそうな、そんな予感がした。
以前のように時間を忘れて話し込んで
バスを乗り逃すことはなくなったが
やはり帰る前はどことなく寂しいものだ、
例えまた明日会えるにしても。
「あ、もうこんな時間!そろそろお風呂入らなきゃ!」
「そうそう、明日は病院で実習だよ、ね?」
「そうなの、大変だなぁ、まだ慣れてないから」
やはり舞は「帰るね」と「さよなら」を
決して口に出して言わない。
ところで…
舞の通っていた高校は看護科はなく普通科だった。
看護学校に通い始めて2年が経ち
今は病院で実習をしながら
来年、准看護師の資格を取りその後、
国家試験を受けるためのカリキュラムを受講しながら
ゆくゆくはどこかの病院で働くことになるそうだ。
「大変だよな、俺みたいなのんきな大学生活じゃないよね?」
「でも、何とか、ね、今はコウイチくんも一緒だから力強いよ」
僕は少し意地悪な質問をしてみた。
「もしも一人…だったら?」
「心、折れてるかなぁ?でもわたし、他に出来ることもないしね」
「そうかなぁ?」
「コウイチくんが思ってるほど優等生じゃないんだよぉ」
「俺なんか学校行ってないもんね」
「出た!不良大学生、ふふっ!」
「大学行ってるバンドマン、って感じ」
「音楽、好きだもんねー」
そろそろ舞の帰る時間だ。
「あ、送ってくよ、バス停まで」
「うん!ありがと」
ここで舞はふと何か思い出したかのように
ドアの前で手招きした。
「コウイチくん…ちょっと」
その時、
舞のおでこが近付いてきたな、と思ったその瞬間に
柔らかな感触で一瞬、舞衣の唇が僕の唇に触れた。
「ふふっ、さっき途中までで終わった…でしょ?」
突然の出来事に動揺を見せないようにしながらも
僕の心臓は口から飛び出すほどに激しく鼓動していた。
それでも何とか平静を装い
「あ…奪ったなぁ!」
「ふふふ、いただきましたー!」
こんな感じの舞と僕との初めての接吻は
僕たちらしくどこまでも明るい雰囲気だった。
下宿の玄関を出るやいなや
「さ、行こう!コウイチくん」
そう言うと舞はいつになく大胆に腕を組んできた
こんな舞も悪くない。
少しずつステップを踏んで
いつか遠くない未来に結ばれれば
それが一番理想的なんだろう、と僕は思った。
「何か今日だけで凄く距離が近くなった感じ」
その言葉から察するに舞も僕と似た思いなのだろう。
バスを待つ間も僕は同じ時を過ごせる喜びで溢れていた
こんな感覚、いつ以来だろう?
ほどなく眩しいライトと共に
南駅町へ向かうバスがやって来た。
ここで舞を見送る…つもりが
「え?コウイチくん、どうしたのー?」
「あ、何か勢いで」
「あははは!大丈夫なの?こんな時間に」
「帰りのバス、あるはずだし」
何を思ったか僕は舞と同じバスに乗り込んでしまった。
「何か、離れたくないんだって、もう一人の俺が」
「あはは、もう!ビックリしたよ、手、振るつもりだったのにいないと思ったら乗ってんだから」
「俺もビックリしたよ」
「でも、そう言うの、何か好き」
結局、二人でバスに乗り
舞の寮まで送っていくことになった。
「じゃ、ここで」
「うん、ありがと」
「・・・舞」
僕は正面から舞をそっと抱き寄せて耳元で告げた。
「また明日ね」
「ふふ、くすぐったいよ、そんなに近くじゃなくても聞こえるから」
「たまにはこんなのも…いいかな、って」
「うん、でも、たまに、じゃなくて…いいよ」
「それじゃ、ゆっくりお風呂に…」
「入ってくるね!」
今日も二人の間に
「さよなら」の言葉はなかった。
舞の優しい香りが僕を包み込んだまま
しばらく離れなかった。
「さて、最終バスに乗るか」
時刻表を確認して愕然とした、
最終バスの到着する停留所は
下宿のある山野田町より3駅手前の
埴生駅前が終点だった。
バス代の節約にはなったが
おかげで20分歩く羽目になった。
「もう、何やってんだ、俺」
独り言を言いながらようやく川俣荘へ戻ると
例によって赤電話の横のホワイトボードには
" 中村さん キタハマさんから電話がありました "
との伝言。
舞は僕が真っ直ぐ部屋に戻ってるかどうかを
気にしてしてるのだろうか?
いやきっと、ただ話したいだけなんだろう。
早速電話をかけると
「あ、舞は今、お風呂…どうする?かけ直す?」
咲良だった。
「あ、さくちゃん?もうすぐ出そうなら待つよ」
「私でよかったら話し相手になろうか?」
「あ、そのまま無言で大丈夫」
「何でよ!」
いつしかあの無愛想な電話対応の咲良とも
気さくに話せるようになっていた。
そんなやり取りをしてる間に
お風呂上がりの舞と電話を替わってくれた。
受話器越しに至福の時間を過ごして部屋に戻ると
悟史の部屋からまた賑やかな声が聞こえた。
「あれ?まだ誰かいるのかな?」
そう思って部屋に戻ろうとした矢先、
突然ドアが開いた。
「コウイチ!帰ってたのか?話、聞いてほしいんだけど」
やまちゃんだった。
もう一人の声の主は誰だろう?
部屋の奥を覗くと亮二も一緒だった。
何だか話が長くなりそうな、そんな予感がした。
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