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Act 3. "初めて"が始まる

【揺れる想い】

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 実体を持たない煌子の幻が
二度目に現れてから半年が過ぎ

執筆が本格化してきた夏のこと、
4ヶ月ぶりに再びこっこと会える機会が浮上した、

次回の握手会の開催決定、である。

 早速、次回の握手会に備えて申し込みをした、
七夕が過ぎ本格的な夏を心待ちにしていた

その矢先、

梅雨が明けず毎日のように降り続いた雨が
やがて未曾有の大災害をもたらした。

私たちの暮らす地域を局地的に襲った豪雨が
各地に大きな被害をもたらし

その結果・・・握手会の延期が発表された。

雪に続いて雨、煌子の "塩対応" 以上に厳しい
自然界の洗礼は私の心にも大きな波紋を投げかけた。

 延期の影響で心が折れたわけではないが
またしてもストーリー展開のアイデアに行き詰まり
一旦、執筆を中止せざるを得なくなってしまった。

そんな中でひとつ、朗報が届いた、

災害復興プロジェクトの一環として
グループのメンバーが各地でイベントや
ミニライブを開催してくれるらしい。

私の街には…地元の一大イベントである8月の花火大会、
そのイベントに花を添えるミニライブに

何と!あの三人が出演することが決まった。

『あの三人』とは・・・

 こっこに加え土路生優里さんと今村美月さん
自分の地元でのイベントに
"煌子とその親友たち"のモデルとなった、
正に物語の軸となる三人の揃い踏みが決まったのだ。

彼女たちはグループやファンの間では
それぞれのニックネームを文字って

"" の愛称で親しまれていた。

そしていつしか私もこっこのみならず
3人をひとセットで応援するようになっていた。

直前の動画配信で三人を交互に視聴したのだが

中でもこっこ以上に今村美月さんの
私のコメントに対するフレンドリーな対応に
心が魅かれ始めた。

「日曜日の花火大会、行くよ!」

私がそんなコメントをすると

「えー!ほんと?楽しみー!」

屈託のない笑顔でコメントを読んでくれたのは
動画を視聴した3人の中で彼女だけだった。

 花火大会当日、私ははやる気持ちを抑えきれずに
早々に会場入りしたのだが

これが災いを招くことになった。

8月の猛暑の中、夕刻からのライブ開始なのに
私は既に3時過ぎには会場をうろうろしていた。

そこで暑さに耐えかねてドリンクを補充し
日陰で涼を取っている間に災害復興の募金のため

メンバーが会場に来ていたことを
後で友人から知らされた。

募金と言う形ではあるが、
せっかく会話できる機会をみすみす逃した

またしてもこんな形でチャンスを逃すとは…
こっことは何と言う縁の無さだろう。

うなだれながらもライブを観るために
ステージ前へ移動すると人込みをすり抜けて
気づけば2列目まで来ていた。

ライブが始まって驚いた、

私の目の前はこっこの立つポジションだった。

煌子との、いやこっことの
気まぐれな『縁』は行ったり来たり、
まるで浮き草のようなその関係性。

何とも慌ただしい心境ながら
ライブを存分に楽しむことが出来た。

 そしてこの日を境に私の心は少しずつ動き始めた。

やはり、大きな前フリとなった
動画配信での優しい対応の影響からか

塩対応と思い込んでいるこっこよりも

今村美月さんへの思い入れが
少しずつこっこへの想いを凌駕し始めていた。

 それは小説の内容においても即、如実に表れ始めた。
だが、皮肉なことにそのおかげで
一旦止まっていた執筆活動が再び活発に動き始めた。

 移り気な私の心はこっこからも、
そして煌子からも少しずつ離れ始めていた

そう、正に小説のタイトルでもある
「僕の彼女はアイツの親友」さながらに

私はにいつしか心を奪われてゆくのだった。
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