上 下
7 / 31
Act 2. 塩対応の田中さん

【杞憂と現実】

しおりを挟む
 この街は比較的、温暖な地域であるにも関わらず
夜半からしんしんと大粒の雪が降り始めていたのだ。

まさか、そんなことないよな?

初めて彼女の動画を観に行った時から薄々感じていた、

もしかして・・・
避けられているのではないか、と。

こっこは私が"煌子を生み出した作者"だと知っていて

彼女と関わりを持つことで
時系列やその歴史に何かしらの問題が発生するため

周りの誰からも気づかれないように
私からのアプローチをやんわりとスルーしている?

今回はこうして表向きはあくまで"悪天候"と言う形で
私と会うことを拒もうとしているのではないか?

動画配信のコメントが半年通い続けて
一度しか読まれていないのもそんな理由からなのでは?


いやいや、さすがにそんなことはないだろう

だとすれば、先天的に私とは縁がないのか?


ならば「会いに行ってみない?」と言った
煌子の言葉の真意はただの冷やかしだったのか?

私はもしかしたら出発前日に煌子が現れて
何かしらの策を与えてくれるのでは?と
淡い期待を抱いたが、彼女が現れることはなかった。


とにもかくにも出発は明日の午前9時半
今は天気の回復を待つしかない。

翌朝、早々にバス会社へ確認すると
このような悪天候ながら

何と!私の乗る便だけが奇跡的に運行されるらしい、
やはり全ては杞憂だったようだ、
むしろ事態は好転しているようにすら思えた。

大雪の影響で到着が遅れることは懸念されるが
これで無事、こっこと会うことが出来る…

この時はまだそう楽観視していた。


 そして握手会の会場に着いた私は
しばし呆然とその場に立ち尽くしていた、

やはり杞憂は杞憂で終わらなかったのだ。

大雪の影響は予想を遥かに上回り、
バスは定刻から2時間遅れの到着

大慌てで会場に駆け込んだものの
既に私が購入した握手券、

5部のこっこの握手会は既に終了していた。

次の最終部、こっこは撮影会のため
通常の握手券は使えない

ただの紙切れにしてしまうには
あまりにももったいない、となるわけだが

ここは裏技、実はこの未使用の握手券
振り替えが出来るメンバーが存在する、

"推し増し"と言うシステム。

いわゆる長蛇の列にならないメンバーに限り

当日、握手開始から30分経過すれば
どのメンバーとでも握手が可能となる。

その中には僕がこっこ以外にも
動画を観ていたメンバーがいたので

意を決して行ったみたところ
何と彼女は僕の名前を知っていた。

握手対応は爽やかで好印象、そんなこともあって彼女は

「僕の彼女はアイツの親友」の中で後半、
主人公を補佐する重要なポジションとなる

あるキャラクターとして登場させることに決めた。

 本来の目的だった煌子…もといこっことの会話は
出来ずに終わってしまったが実はこんな収穫もあった。


今回、こっこと話すことは叶わなかったが
そもそもこれは私が執筆活動を再開させるための
きっかけに過ぎない、

そう思えばさほど落胆する事象ではない。

こうして私は少しだけ手応えを掴んで形で
ひとつのイベントを終えることとなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。 しかし、仲が良かったのも今は昔。 レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。 いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。 それでも、フィーは信じていた。 レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。 しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。 そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。 国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

形だけの正妃

杉本凪咲
恋愛
第二王子の正妃に選ばれた伯爵令嬢ローズ。 しかし数日後、側妃として王宮にやってきたオレンダに、王子は夢中になってしまう。 ローズは形だけの正妃となるが……

処理中です...