サリー ～レイナ エピソード Ⅱ～

#１ Do you remember？

【THE END】

西尾さん…

ちょっと西尾さん…

どうしたんだよ…？

何でそんなところから…飛び降りたんだよ？
僕は何もしてないのに…

僕は…僕はただ君に会いに来ただけなんだよ…

そうだ、悪いのは西尾さんを
あの店に来ていた不特定貶おとしめた多数の男たちだ…！

僕は悪くない

そう、いつだって僕は君を、君の夢を
叶えるために背中を押してあげてた

むしろ“恩人”じゃないか…

だからその恩人を拒んだ君が悪いんだよ、
そう、これは当然の報いなのかも知れない…

西尾さんがもういなくなったのなら
ここにいるわけにはいかない…
何の罪もない僕が冤罪をかけられる恐れがある

が、待てよ、さっき西尾さん、
スマホ見ながら何か言ってたよな？

もしかして何か重要な内容かも知れない…

緒方はポケットから
薄手の白いナイロン手袋を取り出して装着すると
まだ画面が開いたままのスマホを手に取った。

そこで見たものは…

例の誹謗中傷に対するコメント

「だよな…レイナ」

レイナ…レイナ…だって？
こいつ…あの頃の西尾さんのこと知ってる奴だな

こいつだ！こいつこそ口八丁手八丁で
何も知らない西尾さんを誑たぶらかし拐かどわかして
あの世界に手を染めさせた張本人なのだろう。

そうだ！今、この場で西尾さん本人から
別れを告げる体でリプ返してやれば…

こいつは間違いなく絶望の淵に立たされる。

いや、それどころか
こいつからのリプがきっかけで過去が暴かれ
西尾さんがビルから飛び降りた、

そんなシナリオだって作れるじゃないか…！

「ありがとう…さよなら」

どうだ！これで全てが問題なくクリアされる

昔の客からコメントが届いたショックで
最終的に西尾さんは自ら命を絶つ…

そうすれば疑いの目は拡散され
僕がここから上手く立ち去りさえすれば
少なくとも疑いをかけられる可能性は低い。

念には念を入れて遺書もどこかに残しておこう
筆跡鑑定でバレないようにSNSの下書きって感じで…

そもそもこの計画は事務所ぐるみだ、
恐らく西尾さんを抱かせてくれると言う
僕への見返りの件も全ては内密にされるだろう。

後は上手くやりすごしておけば
西尾さん死亡の容疑者として
僕が槍玉に上がる余地もないだろう。

さあ、そうとなれば長居は無用…
早々にこの部屋から退散しなければ。

と、その時
緒方の視界にある物が飛び込んできた。

テーブルの上に置かれたセリナのトートバッグから
白い紙切れがはみ出している。

「え？何だこれ？」

それはあの日、彼が学生時代に描いたセリナのイラスト

こっそり描いていたのを見つかって
セリナにせがまれて渡した“あのイラスト”だった。

「西尾さん…持っててくれてたんだ！」

が、そのイラストを手にした緒方は愕然とした、

そのイラストの裏側には
「窓の向こう側を見に行きたい…」から始まる
ポエムのような文章が書かれていたのだ。

それは…セリナが書いたと思われる
手紙のようにも思えた。




窓の向こう側を見に行きたい

あの人に言えなかった言葉を
いつか伝えることができるように

サヨナラも告げずに消えた
わたしを許してほしい

だからお願い　わたしを見つけて

窓の向こう側で待ってるから…　　　　レイナ




な、何がレイナだ！
キミはレイナなんかじゃないだろ？

そしてこんな大切な紙の裏側に…

「な！何だよ！俺の描いたイラストに…何書いてんだよ！！！」

緒方は気が触れたように
このイラストの描かれた紙を
ビリビリと引き裂きながらあることを思い付いた。

そうだ…これを窓際に置いておけば
遺書になるじゃないか…

西尾さん！キミの敗けだよ！

こうして恩人の僕のことをないがしろにするから
そんな目に遭うんだよ…

これで完全犯罪のシナリオは完璧だ。

緒方は切り裂いたイラストの裏側に書かれた

　“窓の向こう側を見に行きたい”

その１文が書かれた部分を残して
バルコニーの端へトートバッグを重石にして置くと

嬉々とした表情で部屋を後にした。

　だがしかし…緒方幸成は気づいていなかった
怒りに任せてあまりにも激しく
イラストを破ったことによって生まれた綻びに…

そしてこの時点で既に彼の完全犯罪は
ジ・エンドとなっていたことに。