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#1 Do you remember?

【羽虫のような】

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 その間に緒方は少しずつセリナとの距離を縮めてきた

「ちょっと!こっち来ないでよ!」

「ダメだよ…拒んだら…マコトさんから許可を貰ってるんだから」

「やめて!来ないで!触らないで!」

「こ…これもキミにとっては大事なビジネスなんだよ」

「枕営業なんて絶対しないから!風俗にいたからって何でもすると思ったら大間違い!」

「でもね…もう…逆らえないんだよ、この世界だと…えへへへ」

緒方は薄気味悪い笑顔を浮かべながら
更に距離を詰める。

「さ、齋藤さんに連絡…するから…!」

「あぁ?彼のことかい?齋藤くんならついさっき電話があったよ…今、セリナが帰宅しました、ってね」

「え…?」

な!何で!

齋藤さんも…いや、あの事務所ぐるみで
グルだったってわけ…?

「あれ?この話、しない方がよかったのかなぁ?」

 更に絶望の淵に立たされながら
それでもセリナは気丈に振る舞っていた。

「だ、か、ら!やめてって言ってるでしょ、もう!警察に電話するわよ」

慌ててテーブルの上に置いたままの
スマホに手を伸ばすセリナ

ピンコードを入力し開いた画面…
そこに1件の通知が届いていた。

それは先日セリナが呟いたある一言

「あんな人、私知りません」

あの発言に対するコメントだった。


“だよな…レイナ”

「え!これって!」

レイナ…その懐かしい呼ばれ方するのは…?


ふじ太だ!


この呼び方するのふじ太しかしない!
返信しなきゃ…!

ー私、元気だよ!生きてる!

でもね…ごめん
今ちょっとピンチかも

これ切り抜けたら返信するからね!

何とか…絶対に何とかして
またふじ太に会いに行くから…待ってて

 そんなことを考えている間にセリナは
窓際に追いやられベランダへと逃げ出した。

「西尾さぁんー!もう観念しなよ…」

「あ…!」

スマホを握る手が滑り足元に落ちる
それを拾おうとして屈んだところへ

緒方が勢いよく押し寄せてきた。

「あ…」

 緒方を避けながらまるで羽虫のように
ふわりと浮かび上がったセリナは

そのままベランダから真夜中のアスファルトへ
はためくように音もなく落ちていった。

ドスン!

鈍い音がした瞬間…緒方はようやく正気に戻った。

ー え?何が起きたんだ?

そうだ、西尾さんだ…!

こんなにも会いたくて西尾さんのとこに来たのに
何故彼女は僕を拒むんだよ…?

その刹那、ベランダの真下から悲鳴が聞こえた。

「きゃー!」

ー 人が…人が上から落ちてきた!
誰か!救急車!救急車呼んでください!

人が落ちた?

え…もしかしてそれは…西尾さんなの?
それって今、僕が目の前で見た光景?

嘘だろ、これは現実の出来事なのか…?
僕の…僕のせいで落ちた…?
そんなわけないよね…

ねぇ、ちょっと西尾さん!何とか言ってよ…

我に返ってベランダから身を乗り出した緒方は
すっかり自分を見失っていた。
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