ダメな男

岡倉弘毅

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 部屋に行ってみたい。と言われたが、やんわりと断った。

 初対面で付き合い始めて、突然部屋に来られて……って、俺の常識の許容範囲を超えていた。

 こう見えて、ワンナイトラブは苦手なんだ……

 帰り着いてからスマホを見ると、ラインにメッセージが届いていた。

『次の休み博物館に行かない?』

 デート? 

 そうしてようやく、俺はデートなるものをしたことがないと気づいた。

 いつだって相手の都合に合わせて、結局体だけの関係しか……

 涙があふれそうになって、思考を停止する。

 博物館……一度も訪れたことのない場所だった。

 美術館なら高校時代、先輩に誘われて……あの先輩は美大に進んだっけ。

 興味があったわけじゃない。チケットがあるから一緒に。と誘われたのだ。

 他の友達を誘いもしたらしいが、皆に断られて俺にお鉢が回ってきた。

 一度行ってみたかったんです~。

 なんて調子のいいこと言って、夏休みに二人だけで国立西洋美術館に行った。

 俺の気持ちの中ではデートだった……

 先輩は、俺のために絵や画家の説明をしてくれて……

 本気で涙が出てきた……

 思えばあれが、俺にとって一番きれいな思い出だった……

 先輩は一昨年、大学の後輩だったイラストレーターと結婚したって聞いた……人伝に……

 ラインの返事は……

『OK』

 
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