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第十九章

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 「圭が勇一を?」
 十一時を回って、ようやく帰宅した隼人は、いつも通り、圭が入浴している時間を利用して、山上から情報を得ていた。
「最初は驚いたけど、どうやら、西島武の犯罪を知っているかどうかを探りたかったらしい。西島と関わりがあったってのも、文化祭の時に勘付いてたらしくてね」
「武のやった事は、今となっては少年犯罪と関わってしまうから、そうそう簡単には公表されまいよ。
 勇一は、気付きやしないよ。気付きたくもないだろうし」
「どうやら、西島武を知っている人間は、良い印象を持っているらしいね」
 山上の声はきつい。誰に対しても偏見を持たぬ男であるが、涼介が罪を重ねる元凶と知ってからは、NGワードである。
「その、そうだね、武は問題のある人間じゃなかった。ただ、思い詰める傾向はあったね。そういう所、俺と似てたから」
「やめてくれ。君と似てなんかいないよ」
 山上の苛立ちへの対処は未だに方法が分からず、隼人も戸惑う以外にない。
 重い空気に気付いたのか、山上は隼人に顔を向けると、今思い出した。とばかりに、明るい声を出した。
「そうだ、同性愛について、今度詳しく聞かせてくれないか? 麻上がいない方がいいなら、家庭教師の日にでも」
 何事が起こったのか? 山上は偏見を持たないだけあって、特別扱いはしない代わり、興味を示すこともなかった。知り合って四年。今更どうしたのかと、興味がわく。
「今までなんとも思っていなかったけど、LGBTって、最近よく聞くからね。高校教師としては、理解しておく必要があると思って」
 山上らしい考えだと思った。悩みを持つ生徒は、救われるに違いない。
「いいよ」
 圭が出て来る気配が伺われた。
「じゃ、予定はメールで」
 テレビではEUについて対談をしていた。


 期末テストが終わって、生徒も教師も緊張が解けたある日。近々、山上は出張で、隼人も仕事が遅い日がある。圭の迎えをどうするか相談しているところに、最近、山上目当てで遊びに来るようになった勇一郎が、生徒よろしく手を上げた。
「俺が迎えに行ってやるよ」
 隼人が勇一郎に目をやり、ため息をついた。
「No Thank  You」
「お願いします」 
 隼人の素っ気ない答えの語尾に重ねると、二人の、悲鳴のような声が重なった。
「圭、お前、勇一みたいなタイプは嫌いだろう?」
「嫌いなタイプではありますが、中里さんなら大丈夫です」
「ストレスになるだろう。車の中で二人きりだぞ。麻上、タクシーを頼んだ方が良くないか?」
「お前等、本人の前で失礼だと思わないのか?」
「思ってたら言わないさ」
「お前と二人にしたら、なにされるか分からないだろうが」
「圭ちゃんにどうして俺がなんかしなきゃならないんだ? 俺にも選ぶ権利あるって」
 なにかしようものなら、容赦しないくせに、隼人は腹立たしそうに勇一郎を睨んでいる。
「麻上には興味ないって?」
「ないないないないないない。裸でベッドにいても、なんとも思わないなぁ。
 圭ちゃんって、ヘテロ受けするタイプだよな」
「確かに、麻上に言い寄ってた奴って、彼女持ちが多かったけど」
「圭ちゃんみたいな中性的なタイプって、ちょっとなぁ。やっぱ俺は、英和が……」
「麻上、その日休むか」
「教師の言う言葉か!」
「隼人も山上先生みたいなタイプが好みでしょう?」
「そうそう、ドンピシャだよな」
 同意を求めた勇一郎の頭に、隼人の大きな手が叩き付けられた。
「んだよ、痛ぇなぁ」
 勇一郎がいるだけで、普段の三倍はうるさい。
 男三人が台所をうろつきながら、料理をしている様子は、滑稽でもあった。
 山上は自宅アパートでも料理をし始めたらしく、包丁の扱いがずいぶんと上手くなっている。
「圭ちゃんは、料理しないのか?」
「しません」
「できるようになった方がいいぜ」
「人の男にちょっかいかけんじゃねぇよ」
「興味ないって言ってっだろ」
 これが世間で言うところの、カオスという状態だろうか。と、心の中で呟いた。


 「まぁ、英和はともかく、隼人の心配は、俺がおかしな事を圭ちゃんに吹き込まないかってことだろうな」
 車で迎えに来てくれたばかりではなく、夕食の用意までしてくれるらしい。隼人も、圭が良いと言う以上は反対もできず、一人でいさせるよりは安心と、口では言わないが、そう思っているらしかった。
「なにか面白い話をしてくれるのですか?」
「隼人の話はしない。圭ちゃんだって、聞きたかないだろう?」
 聞いて楽しい話ではあるまい。
「中里さんは、私に聞きたいことはないのですか? 今なら隼人も、先生もいませんよ」
 勇一郎は豚汁の味見をしながら、視線を圭に向けた。
「じゃあ、聞くけどさ」
 声は今までに聞いたことがないほど、真剣だった。いくら傷心とはいえ、ライターであれば、黙っていられるはずがない。世間を騒がせた少年犯罪に、関わっているだろう人間からの誘いなのだから。この誘いに乗らなければ、ライターとして失格だ。
 圭は自分が何をしたいのかもわからぬまま、ライターとしての勇一郎を挑発していた。散々ライターに追いかけ回され、責任は感じていないのか? 等と理不尽な物言いをされてきた圭としては、ライターである勇一郎を認めている自分が不思議で、許せなかった。勇一郎も他のライターと同じであると、思いたかった。
 ライターを信じたくはなかった。
「英和の婚約者って、どんな女だ?」
「は?」
「英和のこと、本気なんだよ、俺は」
 本音だろうか、もしかしたら、圭の挑発に乗りかけて、思い留まったのかも知れない。圭を思い遣ってくれているのかもしれなかった。
 勇一郎はライターとしては失格かもしれないが、いつか、全てを過去として考えられるようになった時、話をしてもいいと思えた。
「内科の、菊池さんというナースです。ご自分の目で、見てきた方が良いと思います。そうすれば、諦めがつきますよ。本当に、山上先生を愛しているのなら。本当に幸せを願えるのなら」
 勇一郎は、そっか。と呟くと、頷いた。
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