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遠い思い出
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次に弘樹に会ったのは、また、キャンパスだった。
修は、前回の非礼を謝ると、やはりあっけらかんとした明るさで、弘樹は許した。
勿論これは、二人の間で予定されていた謝罪で、謝ることで修はまた、仲間と共に就活に勤しめるようになったし、弘樹と一緒にいるところを見られても、問題はないだろうとの計算の上での行動であった。
修は弘樹を信頼に値する人間だと理解し、連絡を取り合い、半月に一度くらいの割合で関係を持った。
そうして、当然のようにあの街に誘われたのだ……。
「修、ジャニ系好きなんだろ? すっごくカワイイ子がいるカフェ教えてあげるよ」
男の割合が多いだけで、普通の街に見えた。
女同士のカップルも歩いており、知り合いらしき男性同士のカップルとハイタッチをしてはしゃいでいる。
入り口辺りには出版社が看板を出している、不思議な空間……。
連れて行かれたカフェは、小ぢんまりとしており、居心地の良い雰囲気である。
他に客はいなかった。
「まっさき君、お久しぶり~」
弘樹の明るい声に、修は背筋が寒くなるのを感じた……。
「まさき?」
カウンターの向こうで、黒いベストを身に着けてグラスを磨いているのは……真咲だった……。
真咲は修を見ると手を止めはしたが、表情も変えずに、いらっしゃいませ。と、他人行儀な声を出した。
「弘樹さん、今日もご機嫌ですね」
明るい声で弘樹に話しかける。
修は動けずにいた。弘樹に促されても、椅子に座ることさえできなかった。
「なぁに? 知り合い?」
水色のシャツに大ぶりのイヤリング、赤い唇の男が、静かな声で疑問を投げかける。
えぇ、ちょっと……。
真咲の言葉に、修は反応できずにいた。
謝らなければ……謝らなければと考えるものの、言葉がでない。
弘樹も勘付いた様子で、じっと修を見ている……。
「真咲、裏で話をしてらっしゃい。他のお客さんがいらしたら、なにごとかと思われるでしょうからね」
真咲は面倒臭そうに、手招きして裏に消えて行った。
修はそれを追う。弘樹と男が高校野球の話を始めたのが聞こえた……。
「忙しいから、手短に頼める?」
真咲は冷たい声で、やはり面倒くさそうに言う……。
ごめん……修は絞り出すような声で言った。
「弘樹さんと付き合ってんの?」
違う。と言いかけて言葉を止めた。なんと言えばいい? 彼氏ではない。セックスフレンド?
言葉に困って黙り込む修に、真咲は、まぁ、どうでもいいけど。と、感情のない声を出した……。
真咲の冷たい目が、修には辛かった。
それでも必死の思いで声を出した。
「あの日の言葉は嘘だった。本当は嬉しかったんだ。俺も真咲が好きだったから……でも、どうしても自分がゲイだってことを知られたくなくて……」
責められる覚悟だった。罵倒されても仕方ないと思っていた。
ごめん。と、頭を下げた修に、真咲は興味の欠片も感じさせぬ声で応えた。
「話それだけ? 僕、仕事に戻るから」
指先が冷たくなった……。これがあの日の過ちへの答え。修の選んだ未来……。
「あのさ、もう、詫びとかどうでもいいから。
あんたにはもう、興味ないんだ」
思いもよらぬ言葉に、修の頭は真っ白になった……。
「興味あるとしたらセックスかなぁ。僕を抱く気がないなら、もうここには来ないでくれる?」
修は頷くしかなかった……。
可愛かった真咲……。素直で、勉強熱心で……時々一緒にベンチで居眠りなんかして、風邪をひきそうになって……。
高校時代の思い出が、頭の中を巡る……。
真咲が去った後、頭がくらくらしていたけど、いつまでもバックヤードでぼんやりしているわけにもいかず、一歩一歩必死の思いで歩を進め、弘樹の元に戻った。
「ごめん、先帰る……」
外に出ると気が抜けたのか、酔っ払いといい勝負の千鳥足になって、隣の建物の壁に肩をぶつけて倒れてしまった。
目の前には、見覚えのある靴……。
「修、真咲君となにかあったのか?」
弘樹の優しい声に、我慢できず地面に這いつくばったまま泣き出した……。
修は、前回の非礼を謝ると、やはりあっけらかんとした明るさで、弘樹は許した。
勿論これは、二人の間で予定されていた謝罪で、謝ることで修はまた、仲間と共に就活に勤しめるようになったし、弘樹と一緒にいるところを見られても、問題はないだろうとの計算の上での行動であった。
修は弘樹を信頼に値する人間だと理解し、連絡を取り合い、半月に一度くらいの割合で関係を持った。
そうして、当然のようにあの街に誘われたのだ……。
「修、ジャニ系好きなんだろ? すっごくカワイイ子がいるカフェ教えてあげるよ」
男の割合が多いだけで、普通の街に見えた。
女同士のカップルも歩いており、知り合いらしき男性同士のカップルとハイタッチをしてはしゃいでいる。
入り口辺りには出版社が看板を出している、不思議な空間……。
連れて行かれたカフェは、小ぢんまりとしており、居心地の良い雰囲気である。
他に客はいなかった。
「まっさき君、お久しぶり~」
弘樹の明るい声に、修は背筋が寒くなるのを感じた……。
「まさき?」
カウンターの向こうで、黒いベストを身に着けてグラスを磨いているのは……真咲だった……。
真咲は修を見ると手を止めはしたが、表情も変えずに、いらっしゃいませ。と、他人行儀な声を出した。
「弘樹さん、今日もご機嫌ですね」
明るい声で弘樹に話しかける。
修は動けずにいた。弘樹に促されても、椅子に座ることさえできなかった。
「なぁに? 知り合い?」
水色のシャツに大ぶりのイヤリング、赤い唇の男が、静かな声で疑問を投げかける。
えぇ、ちょっと……。
真咲の言葉に、修は反応できずにいた。
謝らなければ……謝らなければと考えるものの、言葉がでない。
弘樹も勘付いた様子で、じっと修を見ている……。
「真咲、裏で話をしてらっしゃい。他のお客さんがいらしたら、なにごとかと思われるでしょうからね」
真咲は面倒臭そうに、手招きして裏に消えて行った。
修はそれを追う。弘樹と男が高校野球の話を始めたのが聞こえた……。
「忙しいから、手短に頼める?」
真咲は冷たい声で、やはり面倒くさそうに言う……。
ごめん……修は絞り出すような声で言った。
「弘樹さんと付き合ってんの?」
違う。と言いかけて言葉を止めた。なんと言えばいい? 彼氏ではない。セックスフレンド?
言葉に困って黙り込む修に、真咲は、まぁ、どうでもいいけど。と、感情のない声を出した……。
真咲の冷たい目が、修には辛かった。
それでも必死の思いで声を出した。
「あの日の言葉は嘘だった。本当は嬉しかったんだ。俺も真咲が好きだったから……でも、どうしても自分がゲイだってことを知られたくなくて……」
責められる覚悟だった。罵倒されても仕方ないと思っていた。
ごめん。と、頭を下げた修に、真咲は興味の欠片も感じさせぬ声で応えた。
「話それだけ? 僕、仕事に戻るから」
指先が冷たくなった……。これがあの日の過ちへの答え。修の選んだ未来……。
「あのさ、もう、詫びとかどうでもいいから。
あんたにはもう、興味ないんだ」
思いもよらぬ言葉に、修の頭は真っ白になった……。
「興味あるとしたらセックスかなぁ。僕を抱く気がないなら、もうここには来ないでくれる?」
修は頷くしかなかった……。
可愛かった真咲……。素直で、勉強熱心で……時々一緒にベンチで居眠りなんかして、風邪をひきそうになって……。
高校時代の思い出が、頭の中を巡る……。
真咲が去った後、頭がくらくらしていたけど、いつまでもバックヤードでぼんやりしているわけにもいかず、一歩一歩必死の思いで歩を進め、弘樹の元に戻った。
「ごめん、先帰る……」
外に出ると気が抜けたのか、酔っ払いといい勝負の千鳥足になって、隣の建物の壁に肩をぶつけて倒れてしまった。
目の前には、見覚えのある靴……。
「修、真咲君となにかあったのか?」
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