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第二十九章
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「長瀬さんは来るの?」
圭は頭を横に振った。
「仕事だそうです。邪魔をする手間が省けました」
圭は冷たく言い放つ。
殺人の告白も後も、圭の態度は変わらなかった。昼食も一緒に摂ったし、帰りも並んで歩く。
「ねぇ、この前、長瀬さんより早く帰れた?」
ずっと気になっていたが、聞きづらく、放課後になってしまった。
「間に合いませんでしたが、叱られてはいませんよ」
「本当に? 心配で大騒ぎしそうだけど」
「駅に迎えに来てくれましたが、どうやら、看護師さん達に、束縛する男は嫌われる。と、言われたらしくて」
圭は無意識だろうが、頬を少し赤らめた。
「看護師さん?」
「えぇ、飲み会で、囲まれたらしいのです。私と住んでいることは公にしていませんが、ずいぶん前から気づかれていたらしくて」
「職場では惚気けてないんだ」
「男同士はともかく、高校生相手はさすがに、職場では言いづらいでしょう」
「でも、なんでバレたのかな?」
「それまではほぼ百パーセントだった飲み会の出席率が、ゼロになったそうです。一年ぶりに出席すれば、ソフトドリンクしか飲まず、すぐに帰ります。って態度だったので、ほろ酔い状態の看護師さん達に、本人曰く、絡まれたのだとか」
「バレバレだよ、それじゃ。
よっぽど、先輩と一緒にいたいんだね」
茶化すように笑うと、また、圭は頬を赤く染めた。
「先輩、なにかあった? さっきから、顔、赤いよ」
圭は更に頬を赤く染めた。しかし、口を開こうとはしない。
圭が今更、隼人との冷やかしで赤くなるとは思えない。
「先輩、ここ、どうしたの?」
涼介は、自分の首を、指先で触れた。
圭の反応は素早かった。左手で首全体を覆い、顔を真っ赤に染めた。
「嘘だよ。首、なんにもないから。
先輩、とうとうやっちゃったの?」
「無理、でした」
素直すぎる答えに、涼介も顔が熱くなるのがわかった。
小さな、人気のない公園の木陰。ベンチに座って、缶コーヒーを傾ける。残暑厳しい今、さすがの圭も、水分なしにはいられないようだった。
圭は、隼人の告白、それに対する許しを語った後、散々はにかんだ挙げ句、ようやくキスしたことを告白し、その勢いで。と、消え入りそうな声。
「やるなぁ、長瀬さん」
「違います。隼人は無理だと言い張ったのですが、私が……」
「先輩、そんなにしたいの?」
「あの……」
「もしかして、長瀬さん、浮気してるとか?」
圭は視線を逸らすと、コーヒーを飲み、今はしていません。と、怒ったように言った。
「前はしてたんだ」
「私の前では、紳士であろうとしたのですから、仕方のないことなのでしょうが」
「どうして気づいたの?」
「飲み会に行ったはずなのに、お酒や煙草ではなく、石鹸の匂いをさせていれば、さすがに、ね」
「思ってたよりマヌケだな」
「私を子供だと、甘く見ていたのでしょう。
私のわがままだとはわかっています。でも私は、彼を誰にも渡したくはない」
「だからって、先輩が無理しなくても」
「完全に無理をしているのではありません。私が望んでいるのも、事実なので」
赤かった顔色が、今はもう、戻っている。
「望みながら私は、恐怖に悲鳴を上げました。
その後で、貴方の告白を思い出しました。どんなに恐ろしかっただろう。と。
前に、うちに泊まった時、下着を必要としたのは」
「うん。夢の中で男を殺したんだ。その前の声も、夢の影響。また来週辺り、殺すだろうね」
涼介は立ち上がり、圭から空になった缶を受け取ると、ゴミ箱に放り込む。
「負けないで下さい」
膝の上で両手を握り締めて、圭は涼介を真っ直ぐ見つめていた。
「負けないで」
「頑張るよ」
自信はないけど。という言葉は、飲み込んだ。
圭は頭を横に振った。
「仕事だそうです。邪魔をする手間が省けました」
圭は冷たく言い放つ。
殺人の告白も後も、圭の態度は変わらなかった。昼食も一緒に摂ったし、帰りも並んで歩く。
「ねぇ、この前、長瀬さんより早く帰れた?」
ずっと気になっていたが、聞きづらく、放課後になってしまった。
「間に合いませんでしたが、叱られてはいませんよ」
「本当に? 心配で大騒ぎしそうだけど」
「駅に迎えに来てくれましたが、どうやら、看護師さん達に、束縛する男は嫌われる。と、言われたらしくて」
圭は無意識だろうが、頬を少し赤らめた。
「看護師さん?」
「えぇ、飲み会で、囲まれたらしいのです。私と住んでいることは公にしていませんが、ずいぶん前から気づかれていたらしくて」
「職場では惚気けてないんだ」
「男同士はともかく、高校生相手はさすがに、職場では言いづらいでしょう」
「でも、なんでバレたのかな?」
「それまではほぼ百パーセントだった飲み会の出席率が、ゼロになったそうです。一年ぶりに出席すれば、ソフトドリンクしか飲まず、すぐに帰ります。って態度だったので、ほろ酔い状態の看護師さん達に、本人曰く、絡まれたのだとか」
「バレバレだよ、それじゃ。
よっぽど、先輩と一緒にいたいんだね」
茶化すように笑うと、また、圭は頬を赤く染めた。
「先輩、なにかあった? さっきから、顔、赤いよ」
圭は更に頬を赤く染めた。しかし、口を開こうとはしない。
圭が今更、隼人との冷やかしで赤くなるとは思えない。
「先輩、ここ、どうしたの?」
涼介は、自分の首を、指先で触れた。
圭の反応は素早かった。左手で首全体を覆い、顔を真っ赤に染めた。
「嘘だよ。首、なんにもないから。
先輩、とうとうやっちゃったの?」
「無理、でした」
素直すぎる答えに、涼介も顔が熱くなるのがわかった。
小さな、人気のない公園の木陰。ベンチに座って、缶コーヒーを傾ける。残暑厳しい今、さすがの圭も、水分なしにはいられないようだった。
圭は、隼人の告白、それに対する許しを語った後、散々はにかんだ挙げ句、ようやくキスしたことを告白し、その勢いで。と、消え入りそうな声。
「やるなぁ、長瀬さん」
「違います。隼人は無理だと言い張ったのですが、私が……」
「先輩、そんなにしたいの?」
「あの……」
「もしかして、長瀬さん、浮気してるとか?」
圭は視線を逸らすと、コーヒーを飲み、今はしていません。と、怒ったように言った。
「前はしてたんだ」
「私の前では、紳士であろうとしたのですから、仕方のないことなのでしょうが」
「どうして気づいたの?」
「飲み会に行ったはずなのに、お酒や煙草ではなく、石鹸の匂いをさせていれば、さすがに、ね」
「思ってたよりマヌケだな」
「私を子供だと、甘く見ていたのでしょう。
私のわがままだとはわかっています。でも私は、彼を誰にも渡したくはない」
「だからって、先輩が無理しなくても」
「完全に無理をしているのではありません。私が望んでいるのも、事実なので」
赤かった顔色が、今はもう、戻っている。
「望みながら私は、恐怖に悲鳴を上げました。
その後で、貴方の告白を思い出しました。どんなに恐ろしかっただろう。と。
前に、うちに泊まった時、下着を必要としたのは」
「うん。夢の中で男を殺したんだ。その前の声も、夢の影響。また来週辺り、殺すだろうね」
涼介は立ち上がり、圭から空になった缶を受け取ると、ゴミ箱に放り込む。
「負けないで下さい」
膝の上で両手を握り締めて、圭は涼介を真っ直ぐ見つめていた。
「負けないで」
「頑張るよ」
自信はないけど。という言葉は、飲み込んだ。
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