進まない時間 前編

岡倉弘毅

文字の大きさ
上 下
29 / 49

第二十九章

しおりを挟む
 「長瀬さんは来るの?」
 圭は頭を横に振った。
「仕事だそうです。邪魔をする手間が省けました」
 圭は冷たく言い放つ。
 殺人の告白も後も、圭の態度は変わらなかった。昼食も一緒に摂ったし、帰りも並んで歩く。
「ねぇ、この前、長瀬さんより早く帰れた?」
 ずっと気になっていたが、聞きづらく、放課後になってしまった。
「間に合いませんでしたが、叱られてはいませんよ」
「本当に? 心配で大騒ぎしそうだけど」
「駅に迎えに来てくれましたが、どうやら、看護師さん達に、束縛する男は嫌われる。と、言われたらしくて」
 圭は無意識だろうが、頬を少し赤らめた。
「看護師さん?」
「えぇ、飲み会で、囲まれたらしいのです。私と住んでいることは公にしていませんが、ずいぶん前から気づかれていたらしくて」
「職場では惚気けてないんだ」
「男同士はともかく、高校生相手はさすがに、職場では言いづらいでしょう」
「でも、なんでバレたのかな?」
「それまではほぼ百パーセントだった飲み会の出席率が、ゼロになったそうです。一年ぶりに出席すれば、ソフトドリンクしか飲まず、すぐに帰ります。って態度だったので、ほろ酔い状態の看護師さん達に、本人曰く、絡まれたのだとか」
「バレバレだよ、それじゃ。
 よっぽど、先輩と一緒にいたいんだね」
 茶化すように笑うと、また、圭は頬を赤く染めた。
「先輩、なにかあった? さっきから、顔、赤いよ」
 圭は更に頬を赤く染めた。しかし、口を開こうとはしない。
 圭が今更、隼人との冷やかしで赤くなるとは思えない。
「先輩、ここ、どうしたの?」
 涼介は、自分の首を、指先で触れた。
 圭の反応は素早かった。左手で首全体を覆い、顔を真っ赤に染めた。
「嘘だよ。首、なんにもないから。
 先輩、とうとうやっちゃったの?」
「無理、でした」
 素直すぎる答えに、涼介も顔が熱くなるのがわかった。
 小さな、人気のない公園の木陰。ベンチに座って、缶コーヒーを傾ける。残暑厳しい今、さすがの圭も、水分なしにはいられないようだった。
 圭は、隼人の告白、それに対する許しを語った後、散々はにかんだ挙げ句、ようやくキスしたことを告白し、その勢いで。と、消え入りそうな声。
「やるなぁ、長瀬さん」
「違います。隼人は無理だと言い張ったのですが、私が……」
「先輩、そんなにしたいの?」
「あの……」
「もしかして、長瀬さん、浮気してるとか?」
 圭は視線を逸らすと、コーヒーを飲み、今はしていません。と、怒ったように言った。
「前はしてたんだ」
「私の前では、紳士であろうとしたのですから、仕方のないことなのでしょうが」
「どうして気づいたの?」
「飲み会に行ったはずなのに、お酒や煙草ではなく、石鹸の匂いをさせていれば、さすがに、ね」
「思ってたよりマヌケだな」
「私を子供だと、甘く見ていたのでしょう。
 私のわがままだとはわかっています。でも私は、彼を誰にも渡したくはない」
「だからって、先輩が無理しなくても」
「完全に無理をしているのではありません。私が望んでいるのも、事実なので」
 赤かった顔色が、今はもう、戻っている。
「望みながら私は、恐怖に悲鳴を上げました。
 その後で、貴方の告白を思い出しました。どんなに恐ろしかっただろう。と。
 前に、うちに泊まった時、下着を必要としたのは」
「うん。夢の中で男を殺したんだ。その前の声も、夢の影響。また来週辺り、殺すだろうね」
 涼介は立ち上がり、圭から空になった缶を受け取ると、ゴミ箱に放り込む。
「負けないで下さい」
 膝の上で両手を握り締めて、圭は涼介を真っ直ぐ見つめていた。
「負けないで」
「頑張るよ」
 自信はないけど。という言葉は、飲み込んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

鬼騎士団長のお仕置き

天災
BL
 鬼騎士団長のえっちなお仕置きの話です。

童貞処女が闇オークションで公開絶頂したあと石油王に買われて初ハメ☆

はに丸
BL
闇の人身売買オークションで、ノゾムくんは競りにかけられることになった。 ノゾムくん18才は家族と海外旅行中にテロにあい、そのまま誘拐されて離れ離れ。転売の末子供を性商品として売る奴隷商人に買われ、あげくにオークション出品される。 そんなノゾムくんを買ったのは、イケメン石油王だった。 エネマグラ+尿道プラグの強制絶頂 ところてん 挿入中出し ていどです。 闇BL企画さん参加作品。私の闇は、ぬるい。オークションと石油王、初めて書きました。

美形な兄に執着されているので拉致後に監禁調教されました

パイ生地製作委員会
BL
玩具緊縛拘束大好き執着美形兄貴攻め×不幸体質でひたすら可哀想な弟受け

ドSな義兄ちゃんは、ドMな僕を調教する

天災
BL
 ドSな義兄ちゃんは僕を調教する。

少年更生施設のお仕置き

kuraku
BL
ユウリは裕福とは程遠い。家にも帰らず、学校にも通わず。今、自分が十代の半ばだという事は覚えている。学年は知らない。死んだ母親譲りのアイドルそこのけの美貌が災いして、父親に売り飛ばされそうになってから一人で街で生きている。 「お、結構持ってるね。いいね、友達になろ?」  歓楽街の近くでブランド物を身に着けているホストやお坊ちゃんを狙う。  人通りの少ない裏路地に連れ込んで脅しつける。特殊警棒で看板をへこませ、そのまま振り下ろして額スレスレで止めてやる。それで、大抵は震える手で紙幣を掴んで渡してきた。ちょろいもんである。  あまりやり過ぎるとケツモチが出てきてどんな目にあわされるか分からないからほどほどにしないといけない。

3人の弟に逆らえない

ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。 主人公:高校2年生の瑠璃 長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。 次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。 三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい? 3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。 しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか? そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。 調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m

娘の競泳コーチを相手にメス堕ちしたイクメンパパ

藤咲レン
BL
【毎日朝7:00に更新します】 既婚ゲイの佐藤ダイゴは娘をスイミングスクールに通わせた。そこにいたインストラクターの山田ケンタに心を奪われ、妻との結婚で封印していたゲイとしての感覚を徐々に思い出し・・・。 キャラ設定 ・佐藤ダイゴ。28歳。既婚ゲイ。妻と娘の3人暮らしで愛妻家のイクメンパパ。過去はドMのウケだった。 ・山田ケンタ。24歳。体育大学出身で水泳教室インストラクター。子供たちの前では可愛さを出しているが、本当は体育会系キャラでドS。

束縛系の騎士団長は、部下の僕を束縛する

天災
BL
 イケメン騎士団長の束縛…

処理中です...