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38話 看板
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高校生活最初の夏休みに入って直ぐだった。叔父さんの学生時代のようにスポーツ選手として活動しているような、ごく一部の特殊な生徒。そんな生徒を除けば、同級生はそれほど盛んではない部活動か、アルバイトに励んでいる頃だろう。僕は夏休みのほとんどをバルモアで趣味の料理に費やそうと決めた。
前日から仕込んでおいた材料を使って僕は少し遅い昼食の準備をしていた。
ジェイとシュミットさんが会場の配置を整えてくれる。
4人掛けのテーブルを並べて長テーブルにすると、椅子は壁際に避けて並べる。
それでも足りないだろうと、エマが宿から借りてきた残りの椅子を家の外にも並べていた。
にんにくを効かせたローストビーフとチーズのサンドウィッチ、焼き立てのスコーン、新鮮なトマトとキノコのペンネ、鶏の唐揚げにカリカリに揚げたフライドポテトを山盛りに。搾りたての牛乳で作ったカスタードクリームがたっぷり詰まったシュークリーム、餡子とみたらしの串団子、フルーツの盛り合わせなどのデザート。和洋織り交ぜてビュッフェ形式で大皿に盛りテーブルに並べた。昼間なので飲み物は冷えたアイスティーとレモンジュースをピッチャーに入れて料理の大皿の横に並べておく。
続々と集落の人達が家の前に集まって来る。まるでちょっとしたお祭りの様だ。
まず、シュミットさんが集落の皆から贈られた看板を梯子を使って入口の扉の上に吊り下げてくれる。楕円形の木製の看板に書かれている文字はこの国で言うところのお食事処といった感じの意味合いらしい。
そう、遂にこの場所を店として改めてオープンすることにしたのだ。常連さんたち、アデルさんやエマ達、何故か女性陣の後押しもあり、店としてやっていこうと決めたのだ。実はスポンサーでもあるクローディアの「ぜひやるべきだ。」の一言が大きかったのもある。
といっても長期の休み以外は今までと同じ僕の都合で店を開ける日を決めるつもりだけど。あくまでも学業優先というのは叔母さんにも約束させられた。
でも今度から、黒板に今日のメニューでも書けるようにしようか、と考える。
その為にはこの国の文字を勉強しなくては。勇者の剣のお陰で言葉は話せても文字の読み書きはできないのだ。そう考えると日本語が話せて書ける叔母さんと母さんってすごかったんだなぁと今更ながら感心する。相当な努力が必要だっただろう。
看板を付けてもらうと見守っていた回りの人達から自然と拍手が沸き起こり僕は照れて頭を下げると「ありがとうございます。」とお礼を言った。
ちなみに看板を下げることイコールプロの飲食店と認められて税金が発生するそうだ。つまり、今までは看板がないもぐりの食べ物屋だったわけだ。
その辺りの事を王都に占いの店を構えているルーのところに行って相談すると、店自体はクローディアの持ち物だから税金は不要と言われた。
「だいたい、俺たち魔法使いがこの国にいるだけで十分な恩恵を授けているんだ。そんな物払う必要なんてないよ。むしろ居てくださってありがとうございますとお礼を頂きたいくらいだよ。」
そうルーは鼻息荒く言い放った。
それでも僕が不安に思っているのが分かったのだろう。だって、店をやるのは実際の所、魔法使いではなくただのよそ者なわけだし...。
クローディアがマーリーンにも一応確認してみようと言ってくれる。ルーも仕方がないなぁと言って、ルーが占いに使っているという大きな水晶玉に話しかけた。どこかの部屋に居るマーリーンさんの後姿が写った。
「マーリーン、ちょっといい?」
ルーが水晶玉のマーリーンさんに話しかけると振り返ったマーリーンさんの疲れ切った顔にぎょっとする。それでなくても白かった顔が更に青白くなって良く見ると綺麗な顔に隈が出来ている。
「ちょっと、マーリーン大丈夫!?まだ引きこもって新しい薬の調合してるの?」
ルーも心配そうに声を掛ける。
「ああ、ルーか。まあ、あと少しで出来上がりそうなんでね。ところで何だい?クローディアも一緒なのか?」
「ああ、それがさぁ...。」ルーが僕が店を開くことを説明してくれた。
「なるほど。まあ、税金は払う必要は無いが心配なら私が国の許可書を発行して届けさせるよ。いつ正式に開くのか分かったら連絡しておくれ。その頃までにはこれを仕上げて私もお祝いに伺おう。」
そう言ってどす黒い液体が入った怪しいビーカーを水晶玉越しにかざすとニヤリと笑ったマーリーンさんの姿は消えた。申し訳ないけど長い銀髪と青白い顔が美形の幽霊の様でなかなかの怖さだった。
ルーはだから言ったじゃないかと呆れたように言った。
「あのねぇ、なんでこのバルモア王国が他国からの侵略を受けないで平和なのか分かる?決してこの国の軍隊が強いからじゃないよ?この国に5人の魔法使いの内3人もがいるからだよ。そんなのこの世界の人間なら子供だって知っているんだから。まあ、クローディアは別にこの国に仕えている訳ではないけど、バルモア王国からしたらぜひいて欲しい訳だ。そんなんだから、クローディアからはもちろん、彼女の大のお気に入りのお料理番の君から何かを取ろうなんて恐ろしくて国王だって絶対しないよ。」
そんなわけで、特に問題もなくマーリーンさんから許可書が送られてきて今日の運びとなった。
前日から仕込んでおいた材料を使って僕は少し遅い昼食の準備をしていた。
ジェイとシュミットさんが会場の配置を整えてくれる。
4人掛けのテーブルを並べて長テーブルにすると、椅子は壁際に避けて並べる。
それでも足りないだろうと、エマが宿から借りてきた残りの椅子を家の外にも並べていた。
にんにくを効かせたローストビーフとチーズのサンドウィッチ、焼き立てのスコーン、新鮮なトマトとキノコのペンネ、鶏の唐揚げにカリカリに揚げたフライドポテトを山盛りに。搾りたての牛乳で作ったカスタードクリームがたっぷり詰まったシュークリーム、餡子とみたらしの串団子、フルーツの盛り合わせなどのデザート。和洋織り交ぜてビュッフェ形式で大皿に盛りテーブルに並べた。昼間なので飲み物は冷えたアイスティーとレモンジュースをピッチャーに入れて料理の大皿の横に並べておく。
続々と集落の人達が家の前に集まって来る。まるでちょっとしたお祭りの様だ。
まず、シュミットさんが集落の皆から贈られた看板を梯子を使って入口の扉の上に吊り下げてくれる。楕円形の木製の看板に書かれている文字はこの国で言うところのお食事処といった感じの意味合いらしい。
そう、遂にこの場所を店として改めてオープンすることにしたのだ。常連さんたち、アデルさんやエマ達、何故か女性陣の後押しもあり、店としてやっていこうと決めたのだ。実はスポンサーでもあるクローディアの「ぜひやるべきだ。」の一言が大きかったのもある。
といっても長期の休み以外は今までと同じ僕の都合で店を開ける日を決めるつもりだけど。あくまでも学業優先というのは叔母さんにも約束させられた。
でも今度から、黒板に今日のメニューでも書けるようにしようか、と考える。
その為にはこの国の文字を勉強しなくては。勇者の剣のお陰で言葉は話せても文字の読み書きはできないのだ。そう考えると日本語が話せて書ける叔母さんと母さんってすごかったんだなぁと今更ながら感心する。相当な努力が必要だっただろう。
看板を付けてもらうと見守っていた回りの人達から自然と拍手が沸き起こり僕は照れて頭を下げると「ありがとうございます。」とお礼を言った。
ちなみに看板を下げることイコールプロの飲食店と認められて税金が発生するそうだ。つまり、今までは看板がないもぐりの食べ物屋だったわけだ。
その辺りの事を王都に占いの店を構えているルーのところに行って相談すると、店自体はクローディアの持ち物だから税金は不要と言われた。
「だいたい、俺たち魔法使いがこの国にいるだけで十分な恩恵を授けているんだ。そんな物払う必要なんてないよ。むしろ居てくださってありがとうございますとお礼を頂きたいくらいだよ。」
そうルーは鼻息荒く言い放った。
それでも僕が不安に思っているのが分かったのだろう。だって、店をやるのは実際の所、魔法使いではなくただのよそ者なわけだし...。
クローディアがマーリーンにも一応確認してみようと言ってくれる。ルーも仕方がないなぁと言って、ルーが占いに使っているという大きな水晶玉に話しかけた。どこかの部屋に居るマーリーンさんの後姿が写った。
「マーリーン、ちょっといい?」
ルーが水晶玉のマーリーンさんに話しかけると振り返ったマーリーンさんの疲れ切った顔にぎょっとする。それでなくても白かった顔が更に青白くなって良く見ると綺麗な顔に隈が出来ている。
「ちょっと、マーリーン大丈夫!?まだ引きこもって新しい薬の調合してるの?」
ルーも心配そうに声を掛ける。
「ああ、ルーか。まあ、あと少しで出来上がりそうなんでね。ところで何だい?クローディアも一緒なのか?」
「ああ、それがさぁ...。」ルーが僕が店を開くことを説明してくれた。
「なるほど。まあ、税金は払う必要は無いが心配なら私が国の許可書を発行して届けさせるよ。いつ正式に開くのか分かったら連絡しておくれ。その頃までにはこれを仕上げて私もお祝いに伺おう。」
そう言ってどす黒い液体が入った怪しいビーカーを水晶玉越しにかざすとニヤリと笑ったマーリーンさんの姿は消えた。申し訳ないけど長い銀髪と青白い顔が美形の幽霊の様でなかなかの怖さだった。
ルーはだから言ったじゃないかと呆れたように言った。
「あのねぇ、なんでこのバルモア王国が他国からの侵略を受けないで平和なのか分かる?決してこの国の軍隊が強いからじゃないよ?この国に5人の魔法使いの内3人もがいるからだよ。そんなのこの世界の人間なら子供だって知っているんだから。まあ、クローディアは別にこの国に仕えている訳ではないけど、バルモア王国からしたらぜひいて欲しい訳だ。そんなんだから、クローディアからはもちろん、彼女の大のお気に入りのお料理番の君から何かを取ろうなんて恐ろしくて国王だって絶対しないよ。」
そんなわけで、特に問題もなくマーリーンさんから許可書が送られてきて今日の運びとなった。
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