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23話 キャベツの千切りとため息

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二人を伴ってクローディアと家に入ると「こんにちは。」と小さな声が後ろから聞こえた。

「エマ。」
表の扉から入ってきたのはお隣さんのエマだ。アデルさんの工房で会ってから、家が隣りで年が同じなのもあり仲良くしてもらっている。

「あの、父さんがキャベツが余っているから持って行けって...。」
たぶん知らない人が居たからだろう、エマの頬がみるみる赤くなる。彼女はかなりの人見知りだ。

「ありがとう!ちょうど今日の料理に合いそうだから助かった。お礼にこれ持って行って。」
僕はエマが持ってきてくれた立派なキャベツを2個受け取ると代わりにさっき揚げたばかりの鶏の唐揚げを手早く紙に包み、エマが持っている空になった籠に入れた。
「あとこれも。キャベツの千切りにつけて食べると美味しいから。良かったら食べてみて。」
小皿に手作りのマヨネーズをたっぷりもって唐揚げの横にそっと置いた。エマの顔がどんどん赤くなる。これは引き留めないで早く返してあげた方が親切だろう。そう考えて、裏口から出られるように着いていって扉を開けると外に出してあげた。

「お父さんとお母さんによろしく。」
エマの家の勝手口に行くにはこちらからの方が少しだけ近いのだ。
「ありがとう。小皿は後で返しに来るから。」エマは小声で呟くと、足早に帰って行った。

僕が厨房まで戻ってくると、なぜかマーリーンさんがにやにやと笑っている。
せっかくの中性的な美しい顔が台無しだ。

「ふ~ん、かわいい子だね?」
「はい、お隣のエマです。年が同じなので何かと気に掛けてくれるみたいで。あの、もう少しかかるのでどうぞ座っていてください。」

今朝クローディアが差し入れしてくれた大量の鶏肉は、一回目に揚げたものはエマにあげてしまったけど、まだまだたくさん漬け込んであった。でも、せっかくキャベツを貰ったのでキャベツの千切りを添えよう。

「もしお酒を飲まれるなら向かいの宿から買ってきてもらえますか?」

この家には調理用の酒しか置いていなかった。というのも、何故か叔母さんが僕が未成年だからまだ酒は駄目だと言ってこの家に常備しておくことを許してくれなかったからだ。もちろん僕はお酒を飲むつもりはなかったけど、クローディアは飲むし、ジェイやシュミットさんも夜に食事に来ると飲む。普段は放任主義のくせに良く分からない叔母さんルールが時々炸裂するんだから。
結局、この家で酒を飲む時はバルトさんの宿から買ってくるというルールができ上っていた。

「ああ、今日はクローディアへの土産に持参してきたから大丈夫だよ。」
そう言ってカウンター席に腰かけたマーリーンさんがローブの下から大きな酒瓶を出した。
俺も、と言ってルーも同じように袖口から出す。一体魔法使いの袖はどういう仕組みになっているのだろう...。

そこで僕はコップだけをテーブルに置いた。
カウンター席にクローディアを真ん中にして並んで座る3人が話をするのが聞こえて来る。

「クローディアもさっきの女の子くらいの年頃の姿の方が良いんじゃないの?」
マーリーンさんがクローディアに囁いている。いったい何をこの人はいっているんだと呆れたが、クローディアをちらりと見ると真剣な顔をしている。
「そうか?」
カウンター越しに何故か僕の顔を見てクローディアが聞いて来る。
「?」
訳が分からない僕が無言でいると、分かったと言ってクローディアはポンッと音と煙を立てると、あっという間に少女の姿から若い女性の姿になっていた。

「ええ?クローディア?」
確かに大きな金色の目とふっくらした赤い唇、顔立ちはクローディアに間違いないし髪型も同じだけど。
だいたい、エマと同じくらいと言っていたけど、それにしてはずいぶん...。色々と大人っぽいと思う。
「わーい。ディア色っぽい!」ルーが喜んで手を叩いた。
「うんうん、その姿もいいんじゃないか?じゃあ、今日はその恰好で飲もうか。」
マーリーンさんもそう言うとコップに酒を注ぎ飲みだした。

いきなり大人になったクローディアの大きく開いた黒いワンピースの胸元はいつもよりも更に強調されて、目のやり場に困った。

僕はため息をついて鶏の唐揚げを揚げつつ、大量のキャベツの千切りに取り掛かった。一緒にキャベツの味噌汁も作ろうか...。
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