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17.「前世の記憶も役に立つ」
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本編に戻ります。
『カフェテリアのバカップル』は翌日には全校生徒のみならず全ての教職員にまで知れ渡った。
これまでに無いスクープとしてSNSと口伝えで圧倒的な速さを以って詳細に広められたのだ。
女気のなかった真面目なテオフィルスと同郷のエマ・アイビンとの恋。
しかも学園一の秀才、その相手はあのイビス・アイビンの妹という。
ゴシップを求める生徒にとって特大級の燃料投下である。
カフェテリアで遭遇した者もそうでなかった者も、突然沸きあがったゴシップに瞬く間に夢中になった。
漏れ伝わる鉄壁の紳士から紡がれる言葉のその甘さに「ギャップ萌え」と女子生徒は虜になり、男子生徒はテオフィルスの強烈な独占欲に震え上がった。
「エマとソーン先輩、付き合うことにしたんだね!」
小柄な同級生がエマの顔を見たとたん駆け寄ってきた。
「ソーン先輩、ずっとエマの事が好きだったでしょ? エマはどうするのかって、いつもみんなと話してたんだよ! よかった!」
「あ……あの? エミリー? ちょっと……」
なんかもうその話、お腹いっぱいなんですがっ!!!
エマは朝から繰り返される同じ質問の嵐に辟易していた。
クラスメイトから、挨拶程度の顔見知りまで、エマを見かけると質問ずくめにしたのだ。
こっちの方こそ、まだ混乱してるっていうのに……。
テオと付き合うとかそういうの自分でもどうなのか、よくわかんないし……。
テオのことどう思ってるのかも……。
まだ自分の中でも消化ができていなかった。
幼馴染なテオフィルスのいきなり「押しまくる宣言」後の、前世からすると過剰すぎと感じる愛情表現。
経験値の低さ故に精神的に消耗し余裕も無い。
加えて目前に迫った文化祭準備は佳境に入っている。
雑用とはいえ、息つく暇も無く働き肉体の疲労は限界まで来ていた。
……即物的には、
何も考えられないほどお腹すいて死にそう。恋愛話じゃ腹の足しにもならないよ!
なのである。
あまりの空腹に耐えられなくなったエマは残って仕事したいと主張するテオフィルスを「1人にならないでっていったじゃん!」と無理やり引っ張って寮に戻り、終了直前の食堂にギリギリで滑り込んだのだ。
が。
やっと食事にありつけると思ったそのタイミングで、同級生が質問を振ってきたのである。
エミリーは同寮生の気安さからかグイグイ攻めてきた。
いつもであれば上手くやり過ごせるのだが、エマは疲労と空腹で苛立ちを隠せなくなった。
「あのね、エミリー。その話、今じゃないとダ……」
「トマスさん」
テオフィルスが“社交用”の笑顔で軽やかに割って入った。
エマとエミリーの雰囲気が微妙になったのを察したのだろう。
「僕達まだ食事とってないんだ。時間もないし後にしてもらってもいい? ごめんね?」
スマートな対応に誰もが言葉を挟めない。
「あぁそうだ。トマスさん。お願いがあるんだ。今は文化祭の準備とかで忙しくてね、エマと過ごせる時間がなくてさ……寮でしかゆっくりすごせないんだ。寮にいるときはそっとしておいてほしいと、皆につたえておいてくれる?」
「え。あ。はい」
優等生の柔らかいが反論は許さない口調で了解させた。
日ごろの人望と信頼度がなす業である。
エミリーが食堂を出て行くのを見守ると、他に生徒が残っていないのをいい事に、テオフィルスはエマを引き寄せて頭に手を回した。
やさしくこめかみにキスをする。
「あぁ今日めっちゃ疲れた。なんかエマの匂い癒される」
寮に戻ったことで人心地ついたのか、くつろいだ様子で小声でいう。
また!!
前触れも無く!!!
エマは一瞬で真っ赤になった。
昨日からテオフィルスは照れることなくやってのけている。
今までとは違うスキンシップにうろたえてるのは自分だけのような気がしてならない。
テオフィルスは付き合ってる女子とかいそうになかった。
――が、実は女の子に慣れてるのだろうか?
テオだけ余裕があるとか。
不公平じゃない?? とエマはテオフィルスを見上げた。
あれ?
「テオ?」
テオフィルスは慌ててエマと反対側を向く。
「ちょ、何でもないから」
必死に手で顔を覆って隠そうとしているが、ちらりと見える、ちょうど「そばかす」の在る辺り。
かすかに上気していた。
これって間違いなくテオフィルスも……。
「ねぇ、テオ。もしかして照れてる?」
「……違うし」
そっけなく言うテオフィルスに、エマはたまらなく仕返しをしたくなった。
ちょっとは自分の気持ち味わってもらってもいいんじゃない?
思い出したのは前世で赤文字女性雑誌の特集『女子モテしぐさで男子を落とす!』から学んだアレだ。
読んだときはありえない!と爆笑したのだが、まさか実践する時が来るとは思わなかった。
さぁ、やるよ?
上目遣いでちょっぴりあざとく!
「照れてるでしょ?」
テオフィルスの黒い眸が動揺したように大きく見開く。
何か言いたげだがテオフィルスは言葉が繋げない。
一呼吸おくと質問をスルーし「飯頼んでくる。適当に座っておいて」とエマの方を見ず食堂のカウンターに向かった。
やばい!
一矢報いたんじゃない?
エマは小さくガッツポーズを決めた。
『カフェテリアのバカップル』は翌日には全校生徒のみならず全ての教職員にまで知れ渡った。
これまでに無いスクープとしてSNSと口伝えで圧倒的な速さを以って詳細に広められたのだ。
女気のなかった真面目なテオフィルスと同郷のエマ・アイビンとの恋。
しかも学園一の秀才、その相手はあのイビス・アイビンの妹という。
ゴシップを求める生徒にとって特大級の燃料投下である。
カフェテリアで遭遇した者もそうでなかった者も、突然沸きあがったゴシップに瞬く間に夢中になった。
漏れ伝わる鉄壁の紳士から紡がれる言葉のその甘さに「ギャップ萌え」と女子生徒は虜になり、男子生徒はテオフィルスの強烈な独占欲に震え上がった。
「エマとソーン先輩、付き合うことにしたんだね!」
小柄な同級生がエマの顔を見たとたん駆け寄ってきた。
「ソーン先輩、ずっとエマの事が好きだったでしょ? エマはどうするのかって、いつもみんなと話してたんだよ! よかった!」
「あ……あの? エミリー? ちょっと……」
なんかもうその話、お腹いっぱいなんですがっ!!!
エマは朝から繰り返される同じ質問の嵐に辟易していた。
クラスメイトから、挨拶程度の顔見知りまで、エマを見かけると質問ずくめにしたのだ。
こっちの方こそ、まだ混乱してるっていうのに……。
テオと付き合うとかそういうの自分でもどうなのか、よくわかんないし……。
テオのことどう思ってるのかも……。
まだ自分の中でも消化ができていなかった。
幼馴染なテオフィルスのいきなり「押しまくる宣言」後の、前世からすると過剰すぎと感じる愛情表現。
経験値の低さ故に精神的に消耗し余裕も無い。
加えて目前に迫った文化祭準備は佳境に入っている。
雑用とはいえ、息つく暇も無く働き肉体の疲労は限界まで来ていた。
……即物的には、
何も考えられないほどお腹すいて死にそう。恋愛話じゃ腹の足しにもならないよ!
なのである。
あまりの空腹に耐えられなくなったエマは残って仕事したいと主張するテオフィルスを「1人にならないでっていったじゃん!」と無理やり引っ張って寮に戻り、終了直前の食堂にギリギリで滑り込んだのだ。
が。
やっと食事にありつけると思ったそのタイミングで、同級生が質問を振ってきたのである。
エミリーは同寮生の気安さからかグイグイ攻めてきた。
いつもであれば上手くやり過ごせるのだが、エマは疲労と空腹で苛立ちを隠せなくなった。
「あのね、エミリー。その話、今じゃないとダ……」
「トマスさん」
テオフィルスが“社交用”の笑顔で軽やかに割って入った。
エマとエミリーの雰囲気が微妙になったのを察したのだろう。
「僕達まだ食事とってないんだ。時間もないし後にしてもらってもいい? ごめんね?」
スマートな対応に誰もが言葉を挟めない。
「あぁそうだ。トマスさん。お願いがあるんだ。今は文化祭の準備とかで忙しくてね、エマと過ごせる時間がなくてさ……寮でしかゆっくりすごせないんだ。寮にいるときはそっとしておいてほしいと、皆につたえておいてくれる?」
「え。あ。はい」
優等生の柔らかいが反論は許さない口調で了解させた。
日ごろの人望と信頼度がなす業である。
エミリーが食堂を出て行くのを見守ると、他に生徒が残っていないのをいい事に、テオフィルスはエマを引き寄せて頭に手を回した。
やさしくこめかみにキスをする。
「あぁ今日めっちゃ疲れた。なんかエマの匂い癒される」
寮に戻ったことで人心地ついたのか、くつろいだ様子で小声でいう。
また!!
前触れも無く!!!
エマは一瞬で真っ赤になった。
昨日からテオフィルスは照れることなくやってのけている。
今までとは違うスキンシップにうろたえてるのは自分だけのような気がしてならない。
テオフィルスは付き合ってる女子とかいそうになかった。
――が、実は女の子に慣れてるのだろうか?
テオだけ余裕があるとか。
不公平じゃない?? とエマはテオフィルスを見上げた。
あれ?
「テオ?」
テオフィルスは慌ててエマと反対側を向く。
「ちょ、何でもないから」
必死に手で顔を覆って隠そうとしているが、ちらりと見える、ちょうど「そばかす」の在る辺り。
かすかに上気していた。
これって間違いなくテオフィルスも……。
「ねぇ、テオ。もしかして照れてる?」
「……違うし」
そっけなく言うテオフィルスに、エマはたまらなく仕返しをしたくなった。
ちょっとは自分の気持ち味わってもらってもいいんじゃない?
思い出したのは前世で赤文字女性雑誌の特集『女子モテしぐさで男子を落とす!』から学んだアレだ。
読んだときはありえない!と爆笑したのだが、まさか実践する時が来るとは思わなかった。
さぁ、やるよ?
上目遣いでちょっぴりあざとく!
「照れてるでしょ?」
テオフィルスの黒い眸が動揺したように大きく見開く。
何か言いたげだがテオフィルスは言葉が繋げない。
一呼吸おくと質問をスルーし「飯頼んでくる。適当に座っておいて」とエマの方を見ず食堂のカウンターに向かった。
やばい!
一矢報いたんじゃない?
エマは小さくガッツポーズを決めた。
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