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2章 失い、そして全てを取り戻す。
96話 ケジメをつけること。
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『ルーゴ伯爵家令嬢にしてリェイダ女男爵フェリシア・セラノはマンティーノス領及びヨレンテ家の家督を継承し、第八代ウェステ女伯爵フェリシア・セラノ・ヨレンテと称することを、カディス王ロベルト四世がそれを承認する』
私が陛下と取引をした二日後。
私のウェステ女伯爵位の継承が王宮より告示された。
翌日には新聞でも報道されることになり、カディス全土を揺るがす大ニュースとなった。
密輸に手を出し実子を殺害したマリオ・オヴィリオ。
彼が乗っ取りを企てたヨレンテ家を、五代ウェステ伯爵が火遊びした結果できたルーゴ伯爵家の庶子が相続する。
(いかにも庶民が好むゴシップね。場末の劇場の芝居みたい)
さらに加えて以前より婚約していたサグント侯爵家嗣子との結婚も発表されるとなれば、まさしく……
(火に油を注ぐ? よね)
私は新聞のタイトルの悪趣味さにうんざりしながら、指で叩く。
「この記事、ひどいデタラメ。見てよ、ビカリオ夫人。『フェリシア嬢の着るウェディングドレスはラファイエット衣料店でオーダー済み!総レースの成金スタイル』ですって。まだ注文さえしていないのに、どこの情報なのかしら」
私の髪に櫛を通しながらビカリオ夫人はちらりと紙面に目を向けた。
「午後からラファイエットに採寸に行くことになっておりますし、あながち間違ってはいないじゃないですか。新聞記者もよく調べていますね。……あぁ本当にルーゴの納屋で虐げられていたお嬢様がレオン様と結婚なんて。今でも夢かと思いますよ」
「普通はあり得ないでしょうね。だから発表から二ヶ月経っても記事になってるんでしょうけど」
庶子から女伯爵そして侯爵夫人に……。
玉の輿物語と騒がれているけれど、実際のところは身のほどを遥かに凌ぐ野心を抱くサグント侯爵家の為の政略メインの結婚だ。
お互いが納得した上での結婚となるので貴族間では何の問題にもなっていないのだが……。
不幸な生い立ちからの逆転ストーリーの庶民たちに大ブームとなってしまった。
そのせいでゴシップが大好物な新聞記者対応に追われる日々だ。
「私は何を言われても自分のことだから仕方ないって諦めてるから平気だけど……。周りが心配だわ。ルーゴのお父様に被害がないのが救いよ」
「左様でございますね。サグントの名が如何に大きいのかがわかります」
ルーゴ伯爵夫人と五代ウェステ伯爵の醜聞。
平穏に生きて行くことが困難になるかと思われるほどのスキャンダルだ。
だが社交界を牛耳るサグント家が上手くコントロールしてくれ、ルーゴは特に排斥されることはないようだ。
権力ってありがたい。
「フェリシア様、今日の髪型はどうなさいますか?」
ビカリオ夫人が器用な手つきで髪を結い上げピンを刺す。
「いつもよりも下の方でまとめましょうか」
「そうね。後でヴェールを被るから邪魔にならないように、飾りは黒のリボンだけでいいわ。アクセサリーは……指輪だけにする」
「お嬢様。本当にお行きになられるのですか?」
「ええ。全てを見届けるのが私の役目ですもの」
「……それは理解できますが。あれは淑女がご覧になるものではありませんよ」
ビカリオ夫人はこれから私が行く場所に、同行することに気乗りがしないようだ。
「嫌ならあなたは来なくてもいいわ。レオンもいるし、侍女がいなくても平気よ」
「まぁなんて事おっしゃるのです。いけません。外出するのに侍女の一人も連れない令嬢がどこにいますか」と小言を言いながらも手際よく化粧を仕上げて行く。
「お嬢様のためですからね。このビカリオもお手伝いいたしますよ」
「……ありがとう」
私は微笑んだ。
今から向かう先は……。
ーーーー王都外れの刑場だ。
今日、お父様と継母様の処刑が予定されている。
2週間前に隣国からの調書が届き、オヴィリオが『静かなる眠り』を購入したことが正式に立証されたのだ。
それにより刑が確定した。
実娘である第七代ウェステ女伯爵エリアナ・ヨレンテの殺害。
厳しく制限されている武器の密輸。
そして人身売買。
一つの罪でも死刑に相当するのに、それがいくつもあるのだ。
お父様には死刑しか選択肢はなかった。
(大罪を犯したのだから、当然の報いよ)
例えオヴィリオが実父であったとしても。その思いは変わらない。むしろ身内だからこそ厳刑を受けてほしいと願っている。
(新しい人生に、不幸はいらない)
二度めの人生であるからこそ、この人生では幸せにならねばならないと思う。
私のためだけではない。
落馬事故で命を落とした(今思えばこの事故もあの御方の差金としか思えないのだ……)フェリシアの為にも、幸せで完璧な人生を送らねばならないのだから。
(二人分の人生を背負ってるわけだし)
私自身のケジメをつける為に……。
私が陛下と取引をした二日後。
私のウェステ女伯爵位の継承が王宮より告示された。
翌日には新聞でも報道されることになり、カディス全土を揺るがす大ニュースとなった。
密輸に手を出し実子を殺害したマリオ・オヴィリオ。
彼が乗っ取りを企てたヨレンテ家を、五代ウェステ伯爵が火遊びした結果できたルーゴ伯爵家の庶子が相続する。
(いかにも庶民が好むゴシップね。場末の劇場の芝居みたい)
さらに加えて以前より婚約していたサグント侯爵家嗣子との結婚も発表されるとなれば、まさしく……
(火に油を注ぐ? よね)
私は新聞のタイトルの悪趣味さにうんざりしながら、指で叩く。
「この記事、ひどいデタラメ。見てよ、ビカリオ夫人。『フェリシア嬢の着るウェディングドレスはラファイエット衣料店でオーダー済み!総レースの成金スタイル』ですって。まだ注文さえしていないのに、どこの情報なのかしら」
私の髪に櫛を通しながらビカリオ夫人はちらりと紙面に目を向けた。
「午後からラファイエットに採寸に行くことになっておりますし、あながち間違ってはいないじゃないですか。新聞記者もよく調べていますね。……あぁ本当にルーゴの納屋で虐げられていたお嬢様がレオン様と結婚なんて。今でも夢かと思いますよ」
「普通はあり得ないでしょうね。だから発表から二ヶ月経っても記事になってるんでしょうけど」
庶子から女伯爵そして侯爵夫人に……。
玉の輿物語と騒がれているけれど、実際のところは身のほどを遥かに凌ぐ野心を抱くサグント侯爵家の為の政略メインの結婚だ。
お互いが納得した上での結婚となるので貴族間では何の問題にもなっていないのだが……。
不幸な生い立ちからの逆転ストーリーの庶民たちに大ブームとなってしまった。
そのせいでゴシップが大好物な新聞記者対応に追われる日々だ。
「私は何を言われても自分のことだから仕方ないって諦めてるから平気だけど……。周りが心配だわ。ルーゴのお父様に被害がないのが救いよ」
「左様でございますね。サグントの名が如何に大きいのかがわかります」
ルーゴ伯爵夫人と五代ウェステ伯爵の醜聞。
平穏に生きて行くことが困難になるかと思われるほどのスキャンダルだ。
だが社交界を牛耳るサグント家が上手くコントロールしてくれ、ルーゴは特に排斥されることはないようだ。
権力ってありがたい。
「フェリシア様、今日の髪型はどうなさいますか?」
ビカリオ夫人が器用な手つきで髪を結い上げピンを刺す。
「いつもよりも下の方でまとめましょうか」
「そうね。後でヴェールを被るから邪魔にならないように、飾りは黒のリボンだけでいいわ。アクセサリーは……指輪だけにする」
「お嬢様。本当にお行きになられるのですか?」
「ええ。全てを見届けるのが私の役目ですもの」
「……それは理解できますが。あれは淑女がご覧になるものではありませんよ」
ビカリオ夫人はこれから私が行く場所に、同行することに気乗りがしないようだ。
「嫌ならあなたは来なくてもいいわ。レオンもいるし、侍女がいなくても平気よ」
「まぁなんて事おっしゃるのです。いけません。外出するのに侍女の一人も連れない令嬢がどこにいますか」と小言を言いながらも手際よく化粧を仕上げて行く。
「お嬢様のためですからね。このビカリオもお手伝いいたしますよ」
「……ありがとう」
私は微笑んだ。
今から向かう先は……。
ーーーー王都外れの刑場だ。
今日、お父様と継母様の処刑が予定されている。
2週間前に隣国からの調書が届き、オヴィリオが『静かなる眠り』を購入したことが正式に立証されたのだ。
それにより刑が確定した。
実娘である第七代ウェステ女伯爵エリアナ・ヨレンテの殺害。
厳しく制限されている武器の密輸。
そして人身売買。
一つの罪でも死刑に相当するのに、それがいくつもあるのだ。
お父様には死刑しか選択肢はなかった。
(大罪を犯したのだから、当然の報いよ)
例えオヴィリオが実父であったとしても。その思いは変わらない。むしろ身内だからこそ厳刑を受けてほしいと願っている。
(新しい人生に、不幸はいらない)
二度めの人生であるからこそ、この人生では幸せにならねばならないと思う。
私のためだけではない。
落馬事故で命を落とした(今思えばこの事故もあの御方の差金としか思えないのだ……)フェリシアの為にも、幸せで完璧な人生を送らねばならないのだから。
(二人分の人生を背負ってるわけだし)
私自身のケジメをつける為に……。
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