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48話 覚悟はいい? お父様。
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「セラノ様!」
背後から苛立ちと焦りの混ざった声がする。
(やっぱり来たのね)
振り返らなくともわかる。
お父様だ。
「何かご用ですか? オヴィリオさん」
お父様は使用人に呼ばれ走ってきたのか、うっすらと額に汗を浮かべ肩で息をしている。
「使用人からセラノ様とアンドーラ子爵様がこちらの部屋へ入室したと報告を受けまして、駆け付けたのです。もしや……」
お父様は私の右手親指の指輪を凝視し、
「それは盟約の証ではありませんか! あなたが継承したのですかっ!?」
「ええ。そうです」
私は右手を掲げる。
陽の光を受けサファイアの碧い輝きと彫金の設えが神々しいほどに輝いた。
お父様は顔を歪め、
「この部屋にはヨレンテの当主しか入ることはできないはずです」
「オヴィリオさんの仰る通り、この部屋は爵位を継げるヨレンテの者しか入れないわ」
「では、どうしてあなたが!! ルーゴの私生児であるあなたが、解錠の方法を知っているのです??」
理由は一つしかないのだが。
ここで私のことを明かしてみたらどうなるだろう?
試してみてもいいかもしれない。
「私がエリアナだからです」
「は????」
時が止まったかのようにお父様は硬直する。
しばらくーー実際のところはほんの数秒だったと思うがーーして、ようやく地を這うような呻き声をもらした。
「セラノ様。エリアナは私の死んだ娘です。数ヶ月前に死んだのです。あなたはご自身が何をおっしゃっていらっしゃるのかお分かりですか? あなたがエリアナですって? ひどい嘘だ。娘を愚弄するのはおやめ下さい。お戯れが過ぎます」
お父様は頭を抱え、愛娘を失い傷ついた父親を演じる。
眉を下げ涙を浮かべるその姿に、なんと愛情が深い父親なのだと見知らぬ者は思うだろう。
けれど。
(なんて茶番。その手で殺めたのに)
殺された張本人としてはその白々しい姿には不快感しかない。
(でも普通はこうだよねぇ……。私は見た目はフェリシアなんだもの。エリアナだって信じれるはずもないわ)
そもそも転生や憑依なんてこの国の価値観ではないのだから。
すぐに信じてくれたレオンは特別なのだ。
とうのレオンはというとお父様の態度に若干苛立ったのか、私の腰に腕を回し、ひたすら険しい表情で睨みつけている。
「なぁオヴィリオ。お前は私の婚約者が嘘を言っている、気狂いとでもいうのか?」
お父様は慌てて否定する。
「ただ死んだ娘と一度も面識の無いフェリシア様が『領主の間』を開封したことに驚いているのです」
上位貴族の怒りをこれ以上買わないようにと、お父様は言葉を選びながら続けた。
『領主の間』で行われる秘義は当主にしか伝えられない。言わば一子相伝だ。
六代女伯爵セナイダ・ヨレンテの配偶者でさえ知らないことなのだ。
「それをなぜフェリシア様がご存じなのですか??」
またこの問答か……と少々うんざりする。
でも私から仕掛けた以上、付き合うしかないのだが。
「オヴィリオさん。だから申し上げましたよね? 私がエリアナだと。エリアナの記憶があるのですよ」
「馬鹿馬鹿しい! あなたはエリアナではない!」
お父様は即座に打ち消した。
愛おしい娘は森の中の領主の墓で眠っている。
「あなたはフェリシアだ! 断じて私の娘ではない!!」
「ですから。エリアナの魂がフェリシアの体に宿ったのです。つまりは私は五代ウェステ伯の子フェリシアであり六代ウェステ女伯の子エリアナであるということです」
淡々と説明するが、きっと聞き入れられないだろう。
私がお父様だとしても荒唐無稽すぎて信じない。
(全部本当のことだけど)
真実は奇なりとは良く言ったものだ。
だがこれ以上は時間も労力も無駄だ。
「信じるか信じないかは、オヴィリオさん、あなたにお任せします。けれど」
私はわざとらしくお父様の顔前に印章と指輪をかざした。
「現実として伯爵の証が私の手にあるということは認めてくださらないと困りますわ」
そう、マンティーノスもウェステ伯爵位も私のものだ。
正当な後継者は、この世でただ一人。
このフェリシア・セラノだけだ。
(お父様。覚悟しなさい)
復讐のために、あの御方の御力で戻ってきた私だけのものなのだ。
背後から苛立ちと焦りの混ざった声がする。
(やっぱり来たのね)
振り返らなくともわかる。
お父様だ。
「何かご用ですか? オヴィリオさん」
お父様は使用人に呼ばれ走ってきたのか、うっすらと額に汗を浮かべ肩で息をしている。
「使用人からセラノ様とアンドーラ子爵様がこちらの部屋へ入室したと報告を受けまして、駆け付けたのです。もしや……」
お父様は私の右手親指の指輪を凝視し、
「それは盟約の証ではありませんか! あなたが継承したのですかっ!?」
「ええ。そうです」
私は右手を掲げる。
陽の光を受けサファイアの碧い輝きと彫金の設えが神々しいほどに輝いた。
お父様は顔を歪め、
「この部屋にはヨレンテの当主しか入ることはできないはずです」
「オヴィリオさんの仰る通り、この部屋は爵位を継げるヨレンテの者しか入れないわ」
「では、どうしてあなたが!! ルーゴの私生児であるあなたが、解錠の方法を知っているのです??」
理由は一つしかないのだが。
ここで私のことを明かしてみたらどうなるだろう?
試してみてもいいかもしれない。
「私がエリアナだからです」
「は????」
時が止まったかのようにお父様は硬直する。
しばらくーー実際のところはほんの数秒だったと思うがーーして、ようやく地を這うような呻き声をもらした。
「セラノ様。エリアナは私の死んだ娘です。数ヶ月前に死んだのです。あなたはご自身が何をおっしゃっていらっしゃるのかお分かりですか? あなたがエリアナですって? ひどい嘘だ。娘を愚弄するのはおやめ下さい。お戯れが過ぎます」
お父様は頭を抱え、愛娘を失い傷ついた父親を演じる。
眉を下げ涙を浮かべるその姿に、なんと愛情が深い父親なのだと見知らぬ者は思うだろう。
けれど。
(なんて茶番。その手で殺めたのに)
殺された張本人としてはその白々しい姿には不快感しかない。
(でも普通はこうだよねぇ……。私は見た目はフェリシアなんだもの。エリアナだって信じれるはずもないわ)
そもそも転生や憑依なんてこの国の価値観ではないのだから。
すぐに信じてくれたレオンは特別なのだ。
とうのレオンはというとお父様の態度に若干苛立ったのか、私の腰に腕を回し、ひたすら険しい表情で睨みつけている。
「なぁオヴィリオ。お前は私の婚約者が嘘を言っている、気狂いとでもいうのか?」
お父様は慌てて否定する。
「ただ死んだ娘と一度も面識の無いフェリシア様が『領主の間』を開封したことに驚いているのです」
上位貴族の怒りをこれ以上買わないようにと、お父様は言葉を選びながら続けた。
『領主の間』で行われる秘義は当主にしか伝えられない。言わば一子相伝だ。
六代女伯爵セナイダ・ヨレンテの配偶者でさえ知らないことなのだ。
「それをなぜフェリシア様がご存じなのですか??」
またこの問答か……と少々うんざりする。
でも私から仕掛けた以上、付き合うしかないのだが。
「オヴィリオさん。だから申し上げましたよね? 私がエリアナだと。エリアナの記憶があるのですよ」
「馬鹿馬鹿しい! あなたはエリアナではない!」
お父様は即座に打ち消した。
愛おしい娘は森の中の領主の墓で眠っている。
「あなたはフェリシアだ! 断じて私の娘ではない!!」
「ですから。エリアナの魂がフェリシアの体に宿ったのです。つまりは私は五代ウェステ伯の子フェリシアであり六代ウェステ女伯の子エリアナであるということです」
淡々と説明するが、きっと聞き入れられないだろう。
私がお父様だとしても荒唐無稽すぎて信じない。
(全部本当のことだけど)
真実は奇なりとは良く言ったものだ。
だがこれ以上は時間も労力も無駄だ。
「信じるか信じないかは、オヴィリオさん、あなたにお任せします。けれど」
私はわざとらしくお父様の顔前に印章と指輪をかざした。
「現実として伯爵の証が私の手にあるということは認めてくださらないと困りますわ」
そう、マンティーノスもウェステ伯爵位も私のものだ。
正当な後継者は、この世でただ一人。
このフェリシア・セラノだけだ。
(お父様。覚悟しなさい)
復讐のために、あの御方の御力で戻ってきた私だけのものなのだ。
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