17 / 102
17話 あなたと同じレベルに堕ちたくはないの。
しおりを挟む
「残念だったわね、フェリシア。レオンと婚約できて私を見返したとでも思っていたのでしょう?でもあなたは所詮は私生児。最初からレオンとは釣り合わなかったのよ。これからは身の程を弁えることね」
カロリーナの罵倒が止まらない。
自分の言葉にヒートアップしていく様子に、かえって冷静になることができた。
(これ絶対に何かあるわ)
1ヶ月放置していての、この展開。
あまりに早すぎる。
(私に一言の相談もなく新聞にリークするなんてこと普通ならば考えられない。レオンは私との婚約は商売だと言っていたし)
商売……つまりは契約だ。
理由も告げず一方的に反故にすることはできない。
そもそもレオンはルーゴ伯爵家の厄介者の私に意味を見出していたのだ。
目的があって私を選んだのだから、簡単には解消を選択でしないはずだ。
(レオンが何を考えているのか分からないわ)
私はカロリーナから新聞を奪い取り、隅々まで丁寧に読んでいく。
一面はレオンの突然の婚約発表と来週開催される王家の舞踏会の告知が大きく報じられている。
高位貴族とはいえ臣下であるサグント侯爵家の婚約と王家の催しがほぼ同等の扱いであるのは、それほどレオンが注目される人物であるということなのだろう。
(婚活女性の垂涎の的だったものね)
名門、富豪、容姿も抜群。そして若く、独身。
引く手数多なレオンが選んだのが、
『リェイダ男爵の令嬢』
『年下の18歳』
令嬢の名は新聞には記されてはいない。
(18歳の男爵令嬢か……)
近い年であれば見知っているはずだ。
だが、エリアナの記憶にはない。
(去年の王家主催の舞踏会でも出会った記憶がないわ)
社交シーズンの幕開けを飾る王家主催の舞踏会は貴族は全員出席することが定められている。
会っていたら覚えているはずだ。
それにリェイダという家名も初めて聞いた。
(私が覚えていないだけかもしれないけど)
何かが引っかかる。
これは調べてみる必要があるだろう。
貴族の来歴は貴族年鑑でわかる。貴族必携本であるために大抵の貴族の屋敷には常備されている。
(後で訪ねてみなきゃね)
母家に出入りすることは公には許されていないが、使用人に金貨の一つでも握らせればいいだけだ。
(その前に……)
私はこめかみを押さえた。
この異父姉をどうにかしなくては。
「ねぇフェリシア。我が家の恥のあなたが記憶をなくしてまで生きる価値があると思ってるのかしら。落馬事故は天啓だったのかもしれないわ。あなたも役立たずはいらないって思うでしょう?」
「いいえ、思いません。お姉様。人の命の重さは生まれとは関係ありません。あの事故から生還できたのも神の思し召しですし、何を恥じることありましょうか。胸を張って生きるだけです」
「お黙り! 口ごたえするんじゃないわよ! 生意気ね!!」
一体何なのか……。
(全部、こっちのセリフよ。好き勝手に言ってくれるわね)
我慢も限界だ。
言い返そうと口を開きかけるが思い直す。
嫉妬の塊のカロリーナと同じステージに降りるのも苛立たしいではないか。
私は腕を組みカロリーナを見据える。
「その生意気さもレオン様は気に入ってくださっているのです。他の令嬢との婚約と記事にありますが、私はレオン様との婚約を解消しておりません。真実でないものをどう信用せよと言うのですか」
「は? 新聞が嘘を書いているとでもいうの?!」
カロリーナは私から新聞を取り上げ投げつけた。
「フェリシア、その自信、あなたやっぱり……レオンを誑かしたのね。もしかしてその体で寝取ったのではなくて?」
「お、お姉様?!」
なんて下品なんだろう。
妬みすぎておかしくなっているのか。
これほどまでに狂わせるなんて。レオンはどれだけの罪を作ったのか……。
流石にこれ以上は許容できないかな。
「お控えください。見苦しいですわ」
「私に命令するの? 立場を弁えなさいよ。平民のあなたと半分でも血が繋がっているって思うとほんと虫唾が走る」
「私もお姉様と完全に同じ血ではなくて安堵しました」
庶子であることは貴族社会では大きな枷だ。
だが、人として堕ちたくはない。
「誰にも認められない半人前のくせに、何言ってるのよ!」
「あら! 嬉しいことですね」
「は?」
「半分は認めてくださってるっていうことですものね」
私はこの上なく上品に微笑んだ。
カロリーナは言葉をなくし、悔しそうにこちらを睨む。
その時。
「お……お嬢様!! 大変でございます!!」
ビカリオ夫人と下男が息を切らせ部屋に飛び込んできた。
「……騒がしいわよ。夫人。お姉様もいらっしゃっているのよ」
「申し訳ございません。無礼はお許しください。ですが、緊急にお知らせすることがございます」とビカリオ夫人は一通の手紙を差し出した。
走ったせいなのか、別の理由なのか、夫人の顔が何故か輝いている。
「たった今、早馬で届けられました!」
「ありがとう」
私は手紙を受け取り裏返した。
神に竜を象った刻印が大きく押されている。
(サグント侯爵家の紋章……)
急いでナイフで封を削り手紙を広げる。
とても美しいがやや癖のある懐かしい筆跡がそこにあった。
「レオン……」
カロリーナの罵倒が止まらない。
自分の言葉にヒートアップしていく様子に、かえって冷静になることができた。
(これ絶対に何かあるわ)
1ヶ月放置していての、この展開。
あまりに早すぎる。
(私に一言の相談もなく新聞にリークするなんてこと普通ならば考えられない。レオンは私との婚約は商売だと言っていたし)
商売……つまりは契約だ。
理由も告げず一方的に反故にすることはできない。
そもそもレオンはルーゴ伯爵家の厄介者の私に意味を見出していたのだ。
目的があって私を選んだのだから、簡単には解消を選択でしないはずだ。
(レオンが何を考えているのか分からないわ)
私はカロリーナから新聞を奪い取り、隅々まで丁寧に読んでいく。
一面はレオンの突然の婚約発表と来週開催される王家の舞踏会の告知が大きく報じられている。
高位貴族とはいえ臣下であるサグント侯爵家の婚約と王家の催しがほぼ同等の扱いであるのは、それほどレオンが注目される人物であるということなのだろう。
(婚活女性の垂涎の的だったものね)
名門、富豪、容姿も抜群。そして若く、独身。
引く手数多なレオンが選んだのが、
『リェイダ男爵の令嬢』
『年下の18歳』
令嬢の名は新聞には記されてはいない。
(18歳の男爵令嬢か……)
近い年であれば見知っているはずだ。
だが、エリアナの記憶にはない。
(去年の王家主催の舞踏会でも出会った記憶がないわ)
社交シーズンの幕開けを飾る王家主催の舞踏会は貴族は全員出席することが定められている。
会っていたら覚えているはずだ。
それにリェイダという家名も初めて聞いた。
(私が覚えていないだけかもしれないけど)
何かが引っかかる。
これは調べてみる必要があるだろう。
貴族の来歴は貴族年鑑でわかる。貴族必携本であるために大抵の貴族の屋敷には常備されている。
(後で訪ねてみなきゃね)
母家に出入りすることは公には許されていないが、使用人に金貨の一つでも握らせればいいだけだ。
(その前に……)
私はこめかみを押さえた。
この異父姉をどうにかしなくては。
「ねぇフェリシア。我が家の恥のあなたが記憶をなくしてまで生きる価値があると思ってるのかしら。落馬事故は天啓だったのかもしれないわ。あなたも役立たずはいらないって思うでしょう?」
「いいえ、思いません。お姉様。人の命の重さは生まれとは関係ありません。あの事故から生還できたのも神の思し召しですし、何を恥じることありましょうか。胸を張って生きるだけです」
「お黙り! 口ごたえするんじゃないわよ! 生意気ね!!」
一体何なのか……。
(全部、こっちのセリフよ。好き勝手に言ってくれるわね)
我慢も限界だ。
言い返そうと口を開きかけるが思い直す。
嫉妬の塊のカロリーナと同じステージに降りるのも苛立たしいではないか。
私は腕を組みカロリーナを見据える。
「その生意気さもレオン様は気に入ってくださっているのです。他の令嬢との婚約と記事にありますが、私はレオン様との婚約を解消しておりません。真実でないものをどう信用せよと言うのですか」
「は? 新聞が嘘を書いているとでもいうの?!」
カロリーナは私から新聞を取り上げ投げつけた。
「フェリシア、その自信、あなたやっぱり……レオンを誑かしたのね。もしかしてその体で寝取ったのではなくて?」
「お、お姉様?!」
なんて下品なんだろう。
妬みすぎておかしくなっているのか。
これほどまでに狂わせるなんて。レオンはどれだけの罪を作ったのか……。
流石にこれ以上は許容できないかな。
「お控えください。見苦しいですわ」
「私に命令するの? 立場を弁えなさいよ。平民のあなたと半分でも血が繋がっているって思うとほんと虫唾が走る」
「私もお姉様と完全に同じ血ではなくて安堵しました」
庶子であることは貴族社会では大きな枷だ。
だが、人として堕ちたくはない。
「誰にも認められない半人前のくせに、何言ってるのよ!」
「あら! 嬉しいことですね」
「は?」
「半分は認めてくださってるっていうことですものね」
私はこの上なく上品に微笑んだ。
カロリーナは言葉をなくし、悔しそうにこちらを睨む。
その時。
「お……お嬢様!! 大変でございます!!」
ビカリオ夫人と下男が息を切らせ部屋に飛び込んできた。
「……騒がしいわよ。夫人。お姉様もいらっしゃっているのよ」
「申し訳ございません。無礼はお許しください。ですが、緊急にお知らせすることがございます」とビカリオ夫人は一通の手紙を差し出した。
走ったせいなのか、別の理由なのか、夫人の顔が何故か輝いている。
「たった今、早馬で届けられました!」
「ありがとう」
私は手紙を受け取り裏返した。
神に竜を象った刻印が大きく押されている。
(サグント侯爵家の紋章……)
急いでナイフで封を削り手紙を広げる。
とても美しいがやや癖のある懐かしい筆跡がそこにあった。
「レオン……」
0
お気に入りに追加
226
あなたにおすすめの小説
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
嫌われ者の側妃はのんびり暮らしたい
風見ゆうみ
恋愛
「オレのタイプじゃないんだよ。地味過ぎて顔も見たくない。だから、お前は側妃だ」
顔だけは良い皇帝陛下は、自らが正妃にしたいと希望した私を側妃にして別宮に送り、正妃は私の妹にすると言う。
裏表のあるの妹のお世話はもううんざり!
側妃は私以外にもいるし、面倒なことは任せて、私はのんびり自由に暮らすわ!
そう思っていたのに、別宮には皇帝陛下の腹違いの弟や、他の側妃とのトラブルはあるし、それだけでなく皇帝陛下は私を妹の毒見役に指定してきて――
それって側妃がやることじゃないでしょう!?
※のんびり暮らしたかった側妃がなんだかんだあって、のんびりできなかったけれど幸せにはなるお話です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
運命の歯車が壊れるとき
和泉鷹央
恋愛
戦争に行くから、君とは結婚できない。
恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。
他の投稿サイトでも掲載しております。
深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~
白金ひよこ
恋愛
熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!
しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!
物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?
私と一緒にいることが苦痛だったと言われ、その日から夫は家に帰らなくなりました。
田太 優
恋愛
結婚して1年も経っていないというのに朝帰りを繰り返す夫。
結婚すれば変わってくれると信じていた私が間違っていた。
だからもう離婚を考えてもいいと思う。
夫に離婚の意思を告げたところ、返ってきたのは私を深く傷つける言葉だった。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる